今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑧ 二度目の危機

第10作『ドキドキ!プリキュア
放送期間:2013年2月3日~2014年1月26日
東映アニメーションプロデューサー:柴田宏明
キャッチコピー:「愛から生まれるドキドキ!」
[登場プリキュア]
キュアハートキュアダイヤモンドキュアロゼッタキュアソードの4人でスタートし、後にキュアエースが追加

<ストーリー>

勢力拡大のために世界侵略を行うジコチューは、トランプ王国を攻め滅ぼすと、ここを拠点に次のターゲットである地球侵略を開始。時を同じくして、謎の男性から変身アイテムを授かった3人の女子中学生が、トランプ王国から地球に逃れて来ていた少女と共にプリキュアとなり、地球を狙うジコチューに立ち向かいます。

 

テーマは、ずばり「」。
この作品には、パートナー妖精や案内役の妖精の他に、アイちゃんという妖精の赤ちゃんが登場します。
『フレッシュプリキュア!』にもシフォンという妖精の赤ちゃんが登場しましたが、シフォンの場合は、姿こそ赤ちゃんですが、超能力を持ち、プリキュアたちに力を与える存在でした。
アイちゃんの場合は、羽根が生えた人間の赤ちゃんの姿で、イヤイヤ期や夜泣きで主人公たちが苦労する子育て要素があり、疑似的ではあるものの、親子の愛が描かれていました。

さらに、『プリキュア』シリーズのセンターキャラ(主人公)は大概何か欠点を持っていて※1、それを仲間との交流やプリキュアでの戦いを通して克服し、成長していく姿が描かれるというパターンが多かった中で、この作品では、初期メンバー全員がハイスペックなのが特徴となっています。

相田マナ:文武両道に秀で、しっかり者でメンタルも強い完璧な生徒会長
菱川六花:医者を志し、全国模試10位内に入る秀才
四葉ありす:財閥企業の経営者として手腕を振るう財閥令嬢
剣崎真琴:路上シンガーから歌唱力でトップアイドルにまで上り詰めた芸能人

どこにでもいるような普通の女の子が変身して強くなるという、これまでのシリーズの慣例を破ったこの設定により、誰もが憧れるスーパーヒーロー的なキャラクター性を強調したものとなっているのです。

加えて主人公の相田マナは、困っている人を放っておけない性格で、それがたとえ敵であっても救いの手を差し伸べ、理想を実現できる強さを持つ、慈愛に満ちた存在として描かれていました。

マナが救いの手を差し伸べる敵の親玉キングジコチューの娘レジーナは、第12話から登場し、主人公たちと同年代の女の子だったため、ファンの間では、これまでのパターンから、改心して仲間になる追加プリキュア枠だろうと予想されていました。
ところが、マナと友達となって第21話でキングジコチューと決別するも、再び闇落ちして終盤までマナたちと敵対する存在であり続け、レジーナは最後までプリキュアになりません。
追加プリキュアは、第22話で唐突に現れた新キャラクターで、ファンたちは完全にブラフに引っ掛かってしまったわけです。
このこともあり、制作側の予想を裏切る新プリキュアのサプライズ登場演出とファンたちの予想合戦も、『プリキュア』シリーズの毎年の恒例行事となっていきます。

この年、『プリキュア』シリーズに強力なライバルが出現します。
かつて、トレーディングカード型アーケードゲーム『オシャレ魔女♥ラブandベリー』に苦しめられた『プリキュア』シリーズですが、今回もライバルになったのは同じアーケードゲームでした。
タカラトミーとシンソフィアが共同開発した『プリティーリズム』は2010年7月に稼働し、翌2011年4月から放送を開始したアニメと連動するメディアミックス展開でブームを巻き起こしていました。
トレーディングカードの代わりにジュエリーを模したハート型アイテム「プリズムストーン」を使用し、ファッションコーディネートと音楽ゲームで得点を競うもので、当時の女の子を夢中にさせていたのです。

そんな『プリティーリズム』の大成功を受け、バンダイでもこれに負けじと同ジャンルのアーケードゲームを開発しました。
それが、2012年10月に稼働開始した『アイカツ!※2です。

「国民的アイドルオーディションゲーム」をキャッチコピーに、『プリティーリズム』に倣ってゲームとアニメを連動させたメディアミックス展開を行っており、かつて『オシャレ魔女♥ラブandベリー』を遊んだ世代をも取り込み、年少の女の子たちだけに留まらない幅広い世代に支持されました。

2013~2014年にかけては、バンダイの『アイカツ!』関連の売上額が『プリキュア』を超えており、同じターゲット層を取り合う結果となって、これが『プリキュア』にとって大きな打撃となってしまったのです。

『アイカツ!』のアーケードゲームシリーズは現在も稼働中(2023年3月末をもって稼働終了予定)で、アニメは2021年まで全10作品が放送され(現在『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』が劇場公開中)、『プリキュア』シリーズにとって強力なライバルとなっています。

<トピックス>
◆ 主人公たちがハイスペック
◆ 敵首領の娘と友達になる
◆ 異世界のプリキュアが仲間になる
◆ 変身して大人の姿になる小学生プリキュアが登場
◆ プリキュアたちの案内役が妖精ではなく男性
◆ 赤ちゃんの子育て要素

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第11作『ハピネスチャージプリキュア!
放送期間:2014年2月2日~2015年1月25日
東映アニメーションプロデューサー:柴田宏明
キャッチフレーズ:「みんなを幸せにするために戦います!」
[登場プリキュア]
キュアラブリーキュアプリンセスキュアハニーキュアフォーチュン

<ストーリー>
地球は不幸の女王クイーンミラージュが率いる幻影帝国の侵略に遭っており、世界各国で日々プリキュアたちが戦いを繰り広げてきました。幻影帝国との戦いに全戦全敗で自暴自棄になっていたブルースカイ王国のプリキュアは、地球の精霊のアドバイスに従って仲間を探し、愛の結晶に導かれて出会った女子中学生とユニットを組んで戦うことになります。


テーマは「幸せ」。
当時ブームになっていた『プリティーリズム』や『アイカツ!』で、女の子に人気の高い要素として認知度が高まっていたファッション要素を盛り込み、変身アイテムに、プリキュアへの変身だけではなく、カード(作中では「プリカード」)による衣装チェンジ能力も加えられました。

さらにプリキュアの戦う理由にも変化が見られ、初期には助けを求めて来た妖精のため、第6作『フレッシュプリキュア!』以降は世界の平和のために戦う存在として描かれてきたプリキュアが、この作品では、自分のため、もしくは自分が大切にしているもののために戦い、結果的に世界をも救うことになるという構図へとシフトします。
これには、正義や大儀のために、女の子が自己犠牲を強いられることを肯定・推奨するのは如何なものか、という意見が制作スタッフの間で強まったことが理由に挙げられるそうです。

『プリキュア』シリーズ10周年記念作品と位置付けられているこの作品では、毎週オープニング時に一人ずつ、合計33人の歴代プリキュアによるメッセージ映像が挿入されるオマケ付きで、第14話では通算500回放送記念のコメントもあったりと、ファンの間でも次に誰が登場するのか話題になるなど、盛り上がりを見せていました。
ところが、そんな状況にも関わらず、この年に『プリキュア』シリーズは、『ふたりはプリキュア Splash☆Star』の時以来2度目の危機に陥ってしまうのです。
それは、シリーズの人気に陰りが生じたというものではなく、今回も前回同様、主な原因は外的要因にありました。

前年よりブームとなっていた『アイカツ!』に加え、2014年1月から放送を開始した『妖怪ウォッチ』が空前の大ブームを巻き起こしたのです。
ここでさらに、国内だけではなく、海外からも強力なライバルが現れます。
2014年3月に公開されるや、観客動員が1000万人を超える大ヒット作品となり、たちまち日本中をブームに巻き込んだ『アナと雪の女王』です。

このトリプルパンチをまともに受ける形となってしまった『ハピネスチャージプリキュア!』は、バンダイの玩具売上が前年の66.3%、秋の映画の興行収入が前年の55.7%と、ほぼ半減に近い落ち込みを見せる事態に陥ります。

<トピックス>
◆ 世界各国にプリキュアがいる設定
◆ 変身アイテムに衣装チェンジ能力を加えファッション要素を取り込む
◆ プリキュアは自分のために戦う


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※1 『プリキュア』シリーズのセンターキャラ(主人公)のダメっ子キャラは伝統となっており、特に『Yes!プリキュア5』の夢原のぞみからその系譜が始まっています。
のぞみはテストでは100点満点中18点を取る程に勉強が苦手な上、何をやってもダメな『ドラえもん』ののび太タイプのキャラで、水無月かれんから「国宝級のドジ」と評される程でした。
以降センターはダメっ子というのが定番となり、『魔法つかいプリキュア!』の朝比奈みらいは数学のテストで26点を取っていたり、『デリシャスパーティ♡プリキュア』の和実ゆいは22点、『トロピカル〜ジュ!プリキュア』の夏海まなつに至っては何と一桁の9点と勉強苦手率が高い傾向があります。

※2 プレスリリースに記載されている情報によると、2014年3月末時点で、『アイカツ!』シリーズのデータカードダス筐体の設置店舗数は全国で3,000店を超え、カード累計出荷枚数は1億1千万枚を突破しているとのことです。
アニメはバンダイナムコグループのサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)が制作しています。