今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑪ 完全復活を遂げた『HUGっと!プリキュア』

第15作『HUGっと!プリキュア
放送期間:2018年2月4日~2019年1月27日
東映アニメーションプロデューサー:内藤圭祐
キャッチコピー:「なんでもできる!なんでもなれる! 輝く未来を抱きしめて!」
[登場プリキュア]
キュアエールキュアアンジュキュアエトワールの3人でスタートし、後にキュアマシェリキュアアムールが追加

<ストーリー>
学園への転校初日の夜、中学2年生の野乃はなが夜空を眺めていると、突然空から赤ちゃんが降って来ます。赤ちゃんと共に現れた妖精に世話を頼まれたはなは、その不思議な赤ちゃんに「はぐたん」と名付け、新たにできた友達と共にプリキュアに変身し、人々から未来を奪うためにプリキュアとはぐたんを狙う謎の組織クライアス社に立ち向かいます。


テーマは「子育て」。
『プリキュア』シリーズには、これまでも赤ちゃんキャラは出てきました。
『フレッシュプリキュア!』のシフォン、『ドキドキ!プリキュア』のアイちゃん、『魔法つかいプリキュア!』のはーちゃんと、3作品にて登場していますが、人間の赤ちゃんはシリーズ初で、今回はテーマに掲げるだけあって、本格的に子育てが描かれています。

「子育て」との関連で、キュアエールの名前にも表れているように「応援」というのもこの作品のテーマのようで、キャッチコピーに「なんでもできる!なんでもなれる!」とあるように、未来の可能性を信じて頑張れるように後押しするという姿が度々描かれていたのも特徴です。

この作品は「子育て」がテーマであるため、前作までの「魔法」や「スイーツ」のようにビジュアル面で特定のコンセプトモチーフが付けづらい点があります。
しかしその反面、設定に縛りが無いことから、かなり自由な発想でいろんな設定が仕込まれていることも、この作品の大きな特徴ともなっています。

まずは、敵がクライアス社という会社組織であることです※1
敵の構成員は会社の社員という設定になっていて、幹部たちには課長や部長といった肩書があったり、作戦に際しては稟議書に承認のハンコを押してもらっていたりと、なかなかに面白い演出がありました。
怪物であるオシマイダーを出現させるにも、会社に電話で連絡して発注してもらう仕組みで、オシマイダーの首にはみんな社員証が下げられているという念の入れようです。

さらに追加戦士も変わっています。
プリキュアに憧れる普通の小学生と、クライアス社でアルバイトとして働いていた少女型アンドロイドという異色の2人です。
物語中盤、2人が友情を育む姿が描かれ、変身アイテムが残り一つであることを知りながらも、2人でプリキュアを目指すようになり、その結果、奇跡が起きて見事に夢を叶えます。
シリーズの中でも、プリキュアに憧れて、なろうと努力してプリキュアになったのは、この2人だけです。
一つの変身アイテムが分裂して2人とも変身できるようになったものの、元は一つであるため、2人はペアではないと変身できない設定となっているのも異例と言えます※2

はぐちゃんを守る野乃はなたち3人とは別軸で、この2人が衝突したり理解を深めていったりする様子が描かれ、物語が2つの軸で進行しているかのような構成となっているのも、『プリキュア』シリーズの中では珍しい演出でした。
2人組プリキュアで変身するのも一緒なら、アイテム一緒で、2人は同じツインラブギターというギターの形をした攻撃アイテムを使って戦い、プリキュア活動外では、なんと2人組のアイドルユニット「Twin Love」として芸能界デビューまでしています。

もう一つ、クライアス社やはぐちゃんには、作中では時空を超越する能力がある設定となっているのですが、第22話では、はぐちゃんの不思議な力が突如発現して、初代『ふたりはプリキュア』のキュアブラックとキュアホワイトが召喚されます。カメオ出演的なちょい役ではなく、2人は野乃はなたちと交流したり、一緒にクライアス社と戦ったりと丸々1話登場していました。

第36~37話では、クライアス社が別世界のプリキュアたちも襲い始めたことを察したはぐちゃんの不思議な力によって、別世界のプリキュアや妖精たちが野乃はなたちのもとへ一斉に転移されてきます。
前作『キラキラ☆プリキュアアラモード』と前々作『魔法つかいプリキュア!』のプリキュアたちが登場し、さらに『Yes!プリキュア5GoGo!』、『フレッシュプリキュア!』、『ふたりはプリキュア Max Heart』も加わり、5作品のプリキュアたちの揃い踏みとなりました※3

この他にも、第42話でシリーズ史上初の男の子のプリキュアが登場したことや、第48話でプリキュアを応援する世界中の人々が老若男女問わず全員プリキュアに変身したり、最終話で描かれた野乃はなの出産シーンなども大きな反響を呼び、話題性の面でも事欠かない作品でした。

15周年記念ということもあり記念サイトやSNSを開設し、各所に広告を出したり、イベントや上映会を開催したり、フォトスポットやラッピング自販機の設置、プレミアムグッズの発売、YouTubeでの過去作品公開などが積極的に行なわれました。
初代『ふたりはプリキュア』の放送が始まった2月1日を「プリキュアの日」という記念日に公式制定したのも、『映画 HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』が「アニメ映画に登場する最も多いマジカル戦士の数」としてギネス世界記録に認定されたのも、この年でした。
https://www.precure-anniv.com/

このように、話題性も抜群な上、作品の自由度も半端なく、おもしろいものがてんこ盛りな感じだった『HUGっと!プリキュア』は、2012年の『スマイルプリキュア!』以来となる玩具売上100億円超えを果たし、映画の興行収入は11.5億円と完全復活を遂げるのです。

<トピックス>
◆ 人間の赤ちゃんが登場
◆ 敵が会社組織
◆ 追加プリキュアが2人同時に登場。しかも一人は普通の小学生、もう一人はアンドロイド
◆ 時空を超えて他作品のプリキュアが登場
◆ 初の男の子プリキュアが登場
◆ 最終決戦では世界中の人々がプリキュアに変身


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※1 『Yes!プリキュア5』の敵組織であるナイトメアも、会社ではないものの、アジトがオフィスビルだったり、構成員が給料性になっていて休日出勤を嘆いたりと、会社組織のような設定になっていて、サラリーマンの悲哀が描かれていました。

※2 変身の縛りでは、第1作『ふたりはプリキュア』の美墨なぎさと雪城ほのかが2人揃ってないと変身できない設定となっており、第3作『ふたりはプリキュア Splash Star』の日向咲と美翔舞も手を繋ぎながら変身アイテムを使うことで変身する設定、第13作『魔法つかいプリキュア!』では、朝日奈みらいと十六夜リコとモフルンが手を繋いで輪を作らないと変身できないという設定があります。

※3 セリフはほとんどありませんでしたが、第37話の中盤以降の戦いでは、過去作品の全プリキュアが登場しての大乱戦となっていました。
また、プリキュアや妖精だけではなく、『Yes!プリキュア5』の元敵幹部であるブンビーもなんとも落ちぶれた姿で登場しており、ファン垂涎の回となっています。