今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑤ シリーズの基礎を作った『フレッシュプリキュア!』

第6作『フレッシュプリキュア!
放送期間:2009年2月1日~2010年1月31日
東映アニメーションプロデューサー:梅澤淳稔
[登場プリキュア]
キュアピーチキュアベリーキュアパインの3人でスタートし、4人目のキュアパッションが追加

<ストーリー>
並行世界の一つで妖精たちが住むスウィーツ王国は、別の並行世界である管理国家ラビリンスからの侵略を予見し、これを阻止してもらうため、人間界へと妖精を派遣して伝説の戦士プリキュアを探させます。予見通り、全並行世界の征服を目論んで活動を開始したラビリンスは、それに必要な無限メモリー「インフィニティ」を探すために人間界に幹部を派遣。妖精たちに見出された3人の女子中学生は、プリキュアに覚醒して平和を脅かすラビリンスに立ち向かいます。


前作までは、ストーリーに区切りはあるものの、同じキャラクターや設定を継続して2年間描かれる形式でしたが(『Splash Star)を除く)、この作品から、1年ごとに独立した作品として描かれる形式が定着します。

また、『プリキュア』シリーズも6年目となり、初期から見てくれてきた女の子たちが成長して、アニメからドラマへと嗜好が流れてしまっている現状を鑑み、この作品では幅広い年齢層を取り込める工夫が施されました。
まず、キャラクターデザインでは頭身のバランスを伸ばし、ダンスやファッション、恋愛といった女の子が好む要素を全部盛りした上、それまでの1話完結型のエピソード的なものから、年間を通して秘密を追うようなストーリー性を重視したものとなっています。
敵キャラも、それまでのような悪の怪物や魔物というものではなく、パラレルワールドに住む人間で、敵側の事情や個々の内面が描かれており、より広い視聴者層にも満足してもらえるように、作品に深みを与えています。

これまでのプリキュアが、助けを求めて来た妖精のために戦うという、友人や隣人のための戦いだったのに対し、この作品以降、世界平和のために戦うという、正義のヒーロー感が強化された印象があります。

『ふたりはプリキュア Splash Star』で描かれた敵キャラが改心して仲間になるパターンの発展で、今作では敵幹部の一人が覚醒してプリキュアになるという要素が新登場しますが、これもそうした工夫の一つでした。

現在ではシリーズの定番となっているモーションキャプチャ―を使ったCGアニメによるエンディングダンスが始まったのもこの作品からでした。
これは、番組企画の際に実施したアンケート結果から、初めてダンス要素を取り入れた作品だったため、それをエンディングにも反映させようということがきっかけだったようです。

ダンスについては、子供が覚えて一緒に踊れるようにという目的のため、覚えやすい振付であることや、常にキャラクターの全身が見えるようにといった配慮がされているのが特徴となっています。
また、振付の細かな動きを手描きの作画で正確に表現するのはハードルが高いことから、3DCGで表現することになったとのことで、これもシリーズ初の試みでした。

『プリキュアオールスターズ』という、歴代プリキュアが総出演する映画が登場したのもこの作品からです
東映アニメーション内で延期となった作品の穴埋めとして企画されたもだったため、当初は1回のみの特別企画という前提で制作されました。
ところが、2009年3月に『映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』のタイトルで公開されると、これが興行収入10億円超えの大ヒットとなったため、以降、この『プリキュアオールスターズ』シリーズは、春季公開の長編映画として定番化します。

『プリキュア』シリーズの映画は、2月に新作『プリキュア』が放送を開始する事情から冬季公開が定番となっていましたから(「今さら聞けない『プリキュア』の歴史 ②」参照)、春季には『プリキュアオールスターズ』、冬季には単体映画というスケジュールが定着し、毎年2回映画を楽しめることになりました。

また、『Yes!プリキュア5GoGo!』で、後半に売上が伸び悩んだ反省から、変身アイテムについても、市場活性化を見込んで計画的に追加されていく工夫がされていました。
『フレッシュプリキュア!』では、「リンクルン」という初期の変身アイテムに加え、第8~17話(3~5月)にかけて各プリキュアに強化アイテム「キュアスティック」が、第24話(7月)からは強化アイテム「パッションハープ」が、第32話(9月)からは「クローバーボックス」という最終必殺技用のアイテムが登場します。

これらのスケジュールをまとめてみると、
2月:放送開始。1人1話ごとのプリキュア登場回

3月:クロスオーバー映画『プリキュアオールスターズ』公開
3~5月:強化アイテム第1弾
7月:新プリキュア登場、強化アイテム第2弾
9月:最終必殺技用のアイテム
11月:単独映画公開(実際には10月末日)
といった具合で、間を置かずに一定間隔で新たなアイテムやトピックスを次々に繰り出していく戦略的なスケジュールのパターンが見えてきます。

こうした黄金パターンは後の作品にも引き継がれていき、『プリキュア』シリーズはビジネス戦略の面でも、より完成度の高いコンテンツへと進化していくのです。

そういった意味で、『フレッシュプリキュア!』は、後のシリーズの基礎となる要素やパターンが固まった重要な作品であると言えます。

<トピックス>
◆ 1年ごとにリセットされ、毎年独立した作品がスタートするスタイルが定着
◆ 敵キャラの内面が深掘りされて描かれる
◆ プリキュアは世界を救うための存在
◆ 物語の中盤で、敵幹部が改心してプリキュアに覚醒
◆ 『プリキュアオールスターズ』の開始で、春季・冬季で年2回の映画が定着
◆ エンディングダンスの開始


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※『プリキュアオールスターズ』は、初代『ふたりはプリキュア』以来毎年開催されていた着ぐるみショーを、5周年記念として歴代プリキュア全員出演のショーにしたのがその発端でした。
当時はそれを映画でもやるとは想定していなかったそうですが、この後、東映アニメーションの別の作品で2009年の春季公開予定だった映画が延期となったため、急遽代わりの作品を探すことになり、鷲尾プロデューサーが提案した『プリキュアオールスターズ』の映画を制作する流れになったそうです。
前年の2008年11月に5周年記念として制作された約5分の短編おまけ映画『ちょ〜短編プリキュアオールスターズGoGoドリームライブ』は、長編映画『映画 Yes!プリキュア5GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』と同時上映されたものでしたが、これが好評だったから、長編映画も作られるようになったわけではなく、偶然にも延期作品が出たために、その代わりに制作されたというのが真相とのことです。