今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑮ コロナ渦にごはんで笑顔を届けたい『デリシャスパーティ♡プリキュア』

第19作『デリシャスパーティ♡プリキュア
放送期間:2022年2月6日~2023年1月29日
東映アニメーションプロデューサー:安見香
キャッチコピー:「ごはんは笑顔♡みんなあつまれ! いただきます!!」
[登場プリキュア]
キュアプレシャスキュアスパイシーキュアヤムヤムの3人でスタートし、後にキュアフィナーレが追加

<ストーリー>

料理の作り方が書かれた国の宝であるレシピボンを怪盗ブンドル団に盗まれる事件が発生した不思議なおいしい世界クッキングダムでは、レシピボン捜索のためにローズマリーを人間界に派遣します。使命を果たすべく人間界のおいしーなタウンにやって来たローズマリーが偶然に出会った3人の女子中学生たちは、人間界でもお料理の妖精レシピッピを奪い出した怪盗ブンドル団から、人々の「おいしい笑顔」を守るためにプリキュアに変身して戦います。

 

コンセプトモチーフは「ごはん」、テーマは、「ありがとうの気持ち」と「シェアする喜び」。
食をテーマにしている点では、第14作『キラキラ☆プリキュアアラモード』と同じですが、お菓子作りという作る側を主題にしているのに対し、この作品では、食べる側に主題を置いている点が異なります。

この作品は、コロナ渦を前提に、これを強く意識して企画された作品となります。
プロデューサーの安見香氏によると、すでに学校では感染予防のために黙食が実施されており、友達と楽しくおしゃべりしながらご飯を食べることを経験できずに過ごしている子供たちに向けてのメッセージを込めて作られたとのことです。
とは言っても、そのメッセージは単純に黙食を否定するようなものではなく、みんなでご飯を食べる楽しさ以外の一人ご飯や外食、料理をしたり、映える料理写真をSNSにUPして承認欲求を得たりなど、どれも否定することなく食にまつわるいろんな楽しさの一つとして伝えたいというものでした。

テーマの「ありがとうの気持ち」にしても、説教的な話や道徳を説くようなものではなく、自然に湧いて来る気持ちが言葉に出る姿を描くだけで、そういう姿がステキだと思ってもらえるような演出がされています。

この作品の特筆すべき点としては、『美少女戦士セーラームーン』のタキシード仮面を思わせる、主人公の幼馴染みの男の子が変身して「ブラックペッパー」と名乗り、助っ人として登場することです。
これまでも第3作『ふたりはプリキュアSplash☆Star』の満と薫のように、終盤で味方になってくれる戦士もいましたが、レギュラーでの助っ人役は例がなく※1、まして男の子の助っ人役はシリーズ初です。

『プリキュア』シリーズのそもそものコンセプトが「女の子だって暴れたい」から始まっているため、男の子戦士が登場するのは御法度のはず。しかしそれは勝手な不文律に過ぎず、固執せずに時代が変われば柔軟に取り入れたってかまわないものなのかもしれません。
19年も続けて来た現在となっては、女の子が暴れるのもすでに珍しいことではなくなり、逆に「男の子だって暴れたい」も認めるべきでは、と言われれば、妙に納得してしまうところもあります。
すでに『プリキュア』というシリーズが、そんなことでは揺るがないという制作側の自信の表れとも見て取れます。
実際、このことはファンの間でも普通に受け止められていたようで、批判の声はほとんど聞かれませんでした。

そんな男性の復権とも取れる動きの一方で、プリキュアの導き手役を担う男性のローズマリーの方は、オネエ口調でコスメに詳しいという女性的なキャラクターとして描かれており、多様性が尊ばれる現代的な設定となっています。

この作品では、4人のプリキュアたちが、それぞれ和食・洋食・中華・デザートを象徴していたり、敵幹部の洗脳が解けてプリキュアに覚醒するという、『プリキュア』シリーズでも人気の追加戦士イベントがあったりと、面白い要素や仕掛けがふんだんに盛り込まれ、『ヒーリングっど♥プリキュア』と同じプロデューサーの作品とは思えない程、楽しい雰囲気に振り切った作品でもありました。

ところが、2022年3月に発生した、第3者による東映アニメーションの社内ネットワークへの不正アクセスによる影響で、『デリシャスパーティ♡プリキュア』を含む同社の4作品の制作が遅延し、5週にわたって再放送や映画の編集版が放送されました。その結果、本来予定されていた話数が短縮され、『ヒーリングっど♥プリキュア』以来の全45話となってしまいます※2

こうしてシリーズの歴史を改めて見てくると、2度の玩具の売上低迷による危機、2度の放送延期のトラブルは、いずれも外的要因によるもので、そんな外敵に対しても負けずに継続し続けて来た地力の強さや経験が、この先にたとえどんな困難があろうとも、シリーズを続けていってくれるだろうとの期待を抱かせてくれます。

<トピックス>
◆ プリキュアを助ける男の子戦士の登場


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※1 『ふたりはプリキュア Max Heart』のシャイニールミナスや、『Yes!プリキュア5GoGo』のミルキィローズは、プリキュアに準ずる存在として描かれていますが、現在ではプリキュア戦士に数えられているので、今回の前例には当たらないと解釈します。

※2 不正アクセスの影響で制作が遅れた結果、『ヒーリングっど♥プリキュア』の時と同じく、追加戦士であるキュアフィナーレの登場回がずれ込み、キュアフィナーレが描かれた食品関連商品が、作中での登場よりも前に発売されてしまうなどの混乱が生じていました。
『ヒーリングっど♥プリキュア』の時には調整が利かず、全ての玩具や雑誌の記事関連が先行して世に出てしまいましたが、この前例があったおかげで今回は多少の調整が行われ、ストーリーの構成を変更し、本来予定していた登場回よりも早くキュアフィナーレを登場させたこと(話数的には前倒しですが、放送日は遅れています)や、消費期限などがない食品関連以外の商品に関しては、発売日を遅らせるなどの各社の協力で、可能な限りキュアフィナーレの登場に歩調を合わせるよう調整されたようです。
この他、放送延期の影響として、コメコメの5段階成長のスピードを早めたり、ブンドル団幹部の出撃割合を省いたりといったストーリー構成上でやむを得ない変更が行われていました。