今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑰ 意外に知らない劇場版のこと

前回まで複数回にわたって各作品に注目して『プリキュア』シリーズの歩みを見てきましたが、今回は劇場版について解説したいと思います。

『プリキュア』映画が春季と秋季の2回公開される理由
『プリキュア』シリーズの映画は、第1作が公開された2005年から現在までに、すでに30作品以上の映画が公開されています。
コロナ渦の影響で2020年以降の公開スケジュールは異なる流れとなりましたが、それ以前には、春季にクロスオーバー作品、秋季にはその年の作品の単独映画と、年2回の映画が公開されるのが『プリキュア』シリーズの通例となっていました。

元は、秋~冬季にかけての年1回公開でしたが、これは、テレビシリーズが2月からスタートする関係から、キャラクターや世界観が浸透して、ファンの作品への思い入れが充分に高まったタイミングで公開する必要があるためです。

初映画は、2005年4月16日公開の『映画 ふたりはプリキュア Max Heart』でしたが、美墨なぎさ(キュアブラック)と雪城ほのか(キュアホワイト)は1年間主役を張っていましたから、ファンには既にお馴染みで、新キャラである九条ひかり(シャイニールミナス)を登場させる必要性もあり、このタイミングでの公開がベストだと判断されたのではないかと思われます。

2005年12月10日公開『映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』
2006年12月9日公開『映画 ふたりはプリキュア Splash Star チクタク危機一髪!』
2007年11月10日公開『映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』
2008年11月8日公開『映画 Yes!プリキュア5GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』

これを見ると、初期の映画は概ね冬休み向けに公開されていることがわかります。
男女関係なく幅広いファンのいる『名探偵コナン』や『クレヨンしんちゃん』のような作品とは違い、『プリキュア』シリーズは女の子を対象にしている作品であるため、その分元々のパイが小さいのです。
ですから、年1本の映画が制作されるだけでもすごいことで、人気作品である証とも言えます。
そんな女の子向け作品が、年2回も映画を公開するというのは異例中の異例で、当時はよくもそんな暴挙に出るものだと当の東映アニメーション内部でも疑問を持たれていたようです。

⑤ シリーズの基礎を作った『フレッシュプリキュア!』」の回でも触れましたが、春季の映画は元々、東映アニメーションで公開延期となってしまった別の映画の代わりに制作・公開されたものでした。
それが、歴代プリキュアが総出演する2009年3月20日公開の『映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』です。
延期となった作品に代わる映画企画を急遽探しているところへ、『プリキュア』シリーズの鷲尾天プロデユーサーが、当時の着ぐるみショーでやっていた『プリキュアオールスターズ』を長編映画でやったら、と提案した企画が通ったことから、1回限りのスペシャル映画として制作されたのがこの作品でした。
ところが、この作品が、『プリキュア』シリーズ初となる10億円を超える大ヒットとなったことから、翌年以降も制作されることになり、春季の映画公開が恒例となったわけです。

毎年テレビシリーズの新作が2月にスタートするので、春季はまだ新キャラクターに馴染みは薄いものの、前作までの歴代プリキュアが全員出てくるので、その点がマイナス要素にはならず、プリキュア総出演の豪華さもあって、過去作品のファンから、新しく見始めた女の子たちまで、充分に楽しめる内容となっています※1


『プリキュア』映画恒例の「ミラクルライト」※2
もう一つ、『プリキュア』映画でお馴染みの演出に、観客参加というものがあります。
これは、2007年の『映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』で初めて実施されたものでした。
映画館の入場特典として中学生以下の子供たち限定で配られる光るオモチャ「ミラクルライト」と同じものが、作中終盤の最終決戦時に、ピンチに陥ったプリキュアたちに勇気の力を与えるアイテムとして登場するのです。

作中の登場人物であるミギリンとヒダリンが、プリキュアを助けるためにこの「ミラクルライト」の光を掲げますが、2人だけの力では不十分で、スクリーンの外の子供たちに、「みんなも協力して!」と呼びかけます。
実は、映画が始まる前に、ココとナッツたちによる「ミラクルライト」の説明ムービーがあり、プリキュアがピンチになった時に、ライトを点けて大きな声で応援して欲しいことや、使用上の注意などが案内されていたので、この呼びかけを受けた観客席の子供たちは、一斉に「ミラクルライト」をスクリーンに向けて掲げ、大きな声でプリキュアを応援し始めるのです。
こうしてみんなの勇気の力を受け取ったプリキュアたちが、スーパープリキュアに変身して超必殺技「プリキュア・ファイブエクスプロージョン」を放って敵をやっつけ、映画はハッピーエンドを迎えることができるわけです。

日本ではアイドルアニメなどで「応援上映」などと呼ばれる観客が歓声を上げることが認められた特別な上映があり、2013年から毎年公開されている『映画しまじろう』シリーズでも、子供たちがメガホンで応援する演出がありますが、このような参加型の演出は、『プリキュア』映画から始まったといわれています。


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※1 映画『プリキュアオールスターズ』シリーズは、2016年の『映画 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』が最後で、翌2017年以降は全プリキュアではなく、直近3作品に絞ったクロスオーバー作品シリーズとなっています。
また、2020年の春季公開予定だった『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』は、コロナ化の影響で公開延期となって秋季公開となり、例年秋季に公開されていた単独作品映画は、翌2021年の春季公開にシフト。
2021年にはクロスオーバー作品は制作されず、次回作は2023年9月の公開予定となっています。

※2 「ミラクルライト」による参加型演出はコロナ渦の影響で中止を余儀なくされ、『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』ではミラクルライトの配布は行われたものの、声援やライトを使用しないように案内され、 2021年公開の映画からは、ミラクルライトの代わりにペンダントやイヤリングなどの代替アイテムが配布されました。