今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑱ シリーズ総括 前編

前回は番外編として劇場版のことをお話しましたが、今回から2回にわたり、『プリキュア』シリーズを総括して解説していきたいと思います。

プリキュアの仲間には序列がない
各作品で2~6人のプリキュアが出てきますが、彼女たちはチームではあっても組織ではないため、仲間うちに序列は存在しません。
センターに位置するキャラクターは主人公ではありますが、リーダーという役職ではありません。
リーダーや序列を作ると、そこには命令をする側とそれに従う側が生まれてしまい、関係性が変わって、ギスギスしたり、ストレスがたまったり、不和が生まれたりします。
そんなプリキュアたちは見たくありませんから、プリキュアたちにはリーダーがいないのです。
プリキュアは誰かの命令で行動しているのではなく、各々が信念と仲間への信頼を持って自由に行動しているから、見ていて気持ちが良いわけです。

逆に、敵側はそのほとんどが組織であって、上司や部下がいて、部下は命令や待遇に文句を言ったり陰口を叩いたり、上司は部下が使えないからと切り捨てようと考えたり、かなりギスギスしています。
『プリキュア』シリーズでは、このチームであるプリキュアと、組織である敵とが、対立構造として明確に描き分けられています。

プリキュアが2月からスタートする理由
『プリキュア』は、毎年2月に放送が始まり、1月に最終回を迎えます。
通常の番組改編期は、1月、4月、7月、10月ですから、何とも中途半端な時期です。
公に発表されているものではありませんが、これには、複数の理由があると言われています。

まず、文具メーカーにとっては、2月に番組が始まれば、その話題性の勢いのまま、3月後半からの入学・進級シーズンに真新しいキャラクターの文房具を投入できるというメリットがあります。
玩具メーカーにとっても、ゴールデンウィーク、夏休み、クリスマス、年末商戦という消費シーズンを考慮した際に、最も消費活動が高まるクリスマス、年末商戦時に向け、ファンの作品への思い入れが高まっていく状態が理想的であるわけです。

さらに、4月開始だった場合、進級や進学を機に番組を卒業するという行動を起こす可能性があり、これを避けたいという意図があるとも言われています。
『プリキュア』シリーズは1年ごとに物語が完結する性質上、そうした生活の区切りや変化のある時期に番組終了し、他番組と同じタイミングで番組がスタートすると、年長組になったから今年からは「プリキュアは卒業」だとか「アニメは卒業」と、別の番組やドラマなどに目移りすることも考えられるとおうわけです。

そう言えば、バンダイ×東映の玩具コンテンツの作品では、『仮面ライダー』シリーズも9月初週開始の8月最終週終わりですし、『戦隊』シリーズも2月の中旬開始の2月の初旬終わりと、番組改編期から外れた時期での切り替えが見られるので、1年ごとに物語が完結してフルモデルチェンジするスタイルの作品に共通する戦略なのかもしれません。

昭和期のアニメの普遍的な良さを継承
① プリキュア誕生秘話」でご紹介した『プリキュア』シリーズのお約束ごとの他にも、シリーズを通した特徴がたくさん存在します。
昨今のアニメでは珍しくなった、歌詞の中に作品タイトルが出てくるような典型的なアニメソングも『プリキュア』シリーズの特徴の一つと言えるでしょう。

直球過ぎるわかりやすいネーミングセンスも『プリキュア』シリーズの伝統です。
「空」がコンセプトの『ひろがるスカイ!プリキュア』の主人公の名前が「ソラ・ハレワタール」だったり、敵の怪物の名前が「ヤラネーダ」で、パワーアップする度に「ゼンゼンヤラネーダ」、「ゼッタイヤラネーダ」、「超ゼッタイヤラネーダ」になっていったりといった具合で、ダジャレのような名前がたくさん出てきます。

その他、『ふたりはプリキュア』のメップルの語尾が「~メポ」、ミップルの語尾が「~ミポ」だったりと、いわゆる「キャラ語尾」というものもプリキュアの伝統の一つです。

このように、タイトルが歌詞に入っているアニメソング、ダジャレのようなネーミング、キャラ語尾といった昭和期のマンガやアニメではお馴染みだった伝統を、『プリキュア』シリーズでは現在も一貫して継承しているわけですが、それは決して回顧主義的なものではありません。
『妖怪ウォッチ』は、『ターミネーター』や『金八先生』といった昭和期の映画やドラマなどのパロディをふんだんに取り入れ、子供と一緒に見る大人たちも楽しめる作品作りをしていましたが、これとも異なります。
『プリキュア』シリーズの場合は、昭和の子供たちだけではなく、現在の子供たちにとっても楽しめる普遍的な効果があると認識した上で、狙って使用しているものなのです。

東映アニメーションでは、制作において、幾度もアンケートを行っていたり、有識者の意見を聞いたりして、常に現在の女の子たちの嗜好を知る努力をしています。
決して自分が好きなものや思い入れのようなものを押し付けるようなことはせず、現在の女の子たちの嗜好を注意深く観察し、日々変わっていくその嗜好の変化を見逃すまいとしている姿勢が伺えます。
その上で、必要なものや有用なものは残し、変えるべきものは躊躇なく大胆に変えていくわけです。
その姿勢が、20年という時間経過にも関わらず、毎年新しく作品を見始める女の子たちを魅了し続ける作品づくりを支えているのでしょう。


次回に続く。

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