今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑦ テーマ性を持たせて作品ことの個性を強調

第8作『スイートプリキュア♪
放送期間:2011年2月6日~2012年1月29日
東映アニメーションプロデューサー:梅澤淳稔
[登場プリキュア]
キュアメロディキュアリズムの2人でスタートし、後にキュアビートキュアミューズが追加

「スイート」というタイトルですが、プリキュアたちの名前でもわかる通り、テーマは「音楽」です。
前年でも「花」がメインモチーフとなっていましたが、この作品から、毎年作品に明確なテーマが設定されるようになりました。
これは、8年目とあって作品数が増えてきたことから、作品に明確な個性を持たせる必要性が出て来たためと思われます。

<ストーリー>
幸せな音楽の国メイジャーランドの女王は、伝説の楽譜に記された幸福のメロディを不幸のメロディに変え、世界中を悲しみに包み込もうとする悲しい音楽の国マイナーランドの王の野望を阻止するため、音符を別の世界である人間界に逃がします。これを追ってマイナーランドの王が人間界に向かわせた配下の者たちより先に音符を回収すべく、メイジャーランドの女王に遣わされた妖精たちに見出された2人の女子中学生が、悪に立ち向かいます。


主人公である北条響と南野奏は幼馴染みでありながら、とある誤解から犬猿の仲となっており、プリキュアとなって共に戦うことになったことがきっかけで誤解が解け、友情を復活させることになるところから物語は始まります。

この作品でも、スタート時は2人でしたが、敵幹部が改心して第21話で3人目のプリキュアへと覚醒します。
そして、第11話から登場し、2人のプリキュアと仲間にならずに単独行動で敵と戦っていた黒仮面姿の謎のプリキュアの正体が、第35話で音楽の国メイジャーランドの王女であることが明かされ、シリーズ初の小学生プリキュアとして仲間入りします。

この黒仮面姿の謎のプリキュアは、身長も本来より高く描かれていたり、登場時から本人は話さずにパートナー妖精を通して会話をすることで、体格や担当声優などから正体が発覚することを回避する工夫もされていました。

追加プリキュアはサプライズ登場という演出が基本となっていますが、敵幹部や準レギュラーで中学生くらいの女の子キャラが出てくると、追加戦士であることが簡単に見透かされてしまうため、今回のように、毎年視聴者の予想を良い意味で裏切り、いかにサプライズ登場をさせるかという工夫が見られるようになっていきます。

<トピックス>
◆ 作品ごとに明確なテーマが設定される
◆ 小学生プリキュアの登場

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第9作『スマイルプリキュア!
放送期間:2012年2月5日~2013年1月27日
東映アニメーションプロデューサー:梅澤淳稔、長谷川昌也
キャッチコピー:「いつもスマイルでいれば、ハッピーな未来が待っている!」
[登場プリキュア]
キュアハッピーキュアサニーキュアピースキュアマーチキュアビューティ

<ストーリー>
世界をバッドエンドに変えようと企むバッドエンド王国から世界を救うため、絵本の国メルヘンランドから伝説の戦士プリキュアを探しに人間界へとやってきた妖精と出会った5人の女子中学生が、プリキュアに変身して悪に立ち向かいます。


作品のテーマは「笑顔」ですが、これは前年に起きた東日本大震災で辛く悲しい思いをした人々を、作品によって笑顔にしたいという願いが込められたものでした。
その制作側の想いが伝わったのか、この作品は、シリーズの中でも特に人気の高い作品の一つで、文字通り見るものを笑顔にしました。

それは玩具の売上にも表れ、販売5週累計販売額が前作比190%を記録し、シリーズ史上最高のスタートダッシュとなったと報じられました。
特にメイン商材の変身アイテム「カラフル変身スマイルパクト」は絶好調で、発売開始3ヶ月で20万個以上を売り上げる大ヒット商品となった程です。
当然ながら、このままシリーズ歴代最高売上を更新するのではと期待された『スマイルプリキュア!』でしたが、夏以降にその勢いが失速してしまいます。

この作品では、初めから5人でスタートし、前年までのような追加プリキュアは登場しませんでした。
初期段階では「1人プリキュア」という企画だったものが、東日本大震災後の日本の状況を鑑み、みんなで力を合わせることを描くことに主題が変わっていったため、最終的に5人という設定になったとのことです。

追加プリキュアが無かった理由については、プロデューサーの梅澤淳稔氏がインタビューにて、過去作品では、表現したいテーマを凝縮して浮きぼりにするため、敵幹部が改心してプリキュアに覚醒する際などに悩みや葛藤する姿を描く必要性があることから追加プリキュアを導入したものの、『スマイルプリキュア!』では、みんなで力を合わせることに関して誰も悩むことはなく、プリキュアを追加する必要性がなかったと語っています。

これまでの作品であれば、物語中盤の追加プリキュア登場により、玩具市場が盛り上がるところですが、今回はそれがありません。
追加プリキュアがない代わりに、5人のプリキュアの衣装がドレスに変わる「プリンセスフォーム」と呼ばれるフォームチェンジが導入されましたが、追加プリキュアのような売上効果は得られず、夏以降に「カラフル変身スマイルパクト」に次ぐ強力な商品を打ち出せなかったことが、失速の主な要因と言われています。
ただし、後半に失速したとは言え、『スマイルプリキュア!』の最終的な売上は、歴代シリーズ中でも上位に入るもので、人気作品であること変わりはありません。

これまでは、作品表現の必要性から追加プリキュアを導入していただけでしたが、このことで、追加プリキュアが商業的に非常に重要な要素であることが認識される結果となり、以降の作品では、必ず物語中盤に追加プリキュアを登場させることになりました。

この作品では、第45~46話で、5人のプリキュアをコピーして作られた「バッドエンドプリキュア」と呼ばれる5人の闇のプリキュアが登場します。
敵側のプリキュア登場は『ハートキャッチプリキュア!』がお初でしたが、前例である「ダークプリキュア」は単体で登場し、怪物と相対する時と同じく、プリキュア全員対「ダークプリキュア」という構図でした。
しかし「バッドエンドプリキュア」の場合は、それぞれのプリキュアの対となる存在として生み出されたものであるため、5人それぞれが自分から生み出された相手と戦う5対5のチームバトルという構図となっていました。

<トピックス>
◆ 追加プリキュアの商業的重要性が発覚
◆ 闇のプリキュアの登場で5対5のチームバトルを展開


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※黒仮面姿の謎のプリキュアの正体は9歳の女の子で、他メンバーよりも頭一つ分程身長が低いのですが、黒仮面姿の時は他メンバーとほぼ変わらない身長で描かれていました。これも正体がバレないようにする工夫で、正体を明かした後に、厚底ブーツで身長を誤魔化していたことが明かされていました。