今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑲ シリーズ総括 後編

前回に引き続き、『プリキュア』シリーズを総括して解説していきたいと思います。

同じことを繰り返さず、多様性を持った作品づくり
『プリキュア』シリーズは、その誕生から過去作品のアンチテーゼとして企画された作品であり、自分で作り上げたお約束ごとすらも破っていき、同じことを繰り返さないという特徴があります。
プロデューサーやスタッフ(シリーズディレクターやキャラクターデザイナーなど)を1年ごとに交代するというのも、その手段の一つなのでしょう。
新陳代謝を繰り返すことで、年々変化する価値観や需要を捉え、常にその時代にマッチする作品作りを目指しているものと思われます。

さらにもう一つ、シリーズを通して挙げられる特徴の一つに、多様性というものがあります。
元々『プリキュア』シリーズは、それまでの男の子に守られる存在であったり、可憐さやか弱さみたいな典型的な「女の子らしさ」という価値観や概念を打ち破り、女の子だってパンチやキックで戦ってもいいじゃないか、というところから始まっています。
そこからさらに進み、仲間がみんなで一緒の価値観を共有して一つの方向に進むだけではなく、仲間がみんなバラバラの価値観や個性を持ち、それぞれが違うことを認識してもしれを認め合いつつ仲間として活動していく、といったことが作品でも描かれていうようになりました。

現在こそ「多様性の時代」などと言って、女の子らしさや男の子らしさという既成概念を声高に否定する世の中になっていますが、『プリキュア』シリーズは、今から20年も前から時代を先取りする価値観を見せて来た作品と言えます。


自由度が高い中でも変わらない信念
自由度が高く、時にはお約束も破って可能性を広げていくのが『プリキュア』シリーズの特徴ですが、それは何でもありというのとは違います。

見ている女の子たちに夢や希望を与えるという作品の根幹はシリーズを通して決して揺るぐことはありませんし、人間の中に迷惑な行動をする人はいても、絶対的な悪人という人は出て来なかったり、親を馬鹿にする子供や、逆に育児放棄したり子供に酷いことをする親も出て来ないなど、子供たちの倫理観が崩れたり、家族や仲間の絆を揺るがすようなものは描かれないという暗黙のルールがあります※1
クラスのいじめっ子のような存在を描いたり、学校や大人を悪者にして、誰かを嫌いになったり、偏見を育てるようなこともしません。
細かい部分では、登場人物が大人に対してちゃんと敬語を使ったり、他人に対して失礼な態度を取らない、食べ物を粗末にしない(プリキュアたちは大食いキャラが多く、ダイエットなどもしませんし、野菜が嫌いな子も出てきません)など、見ていて誰かが不快になったり、真似をして嫌な思いをさせることがないよう、細心の注意が払われています。

また、前述の多様性の話とも絡みますが、「女のくせに」とか「男らしく」といった表現も、『プリキュア』シリーズには絶対に出てきません。そこには、性別によって何をしたらダメだとか、何をすべきといった価値観を子供たちに感じて欲しくないという作り手の信念が感じられます。

素手で殴るのに手が痛くならないように、プリキュアたちの手には保護するためのグローブや手甲のようなものがついていたり※2、どんなに激しいアクションをしてもスカートの中は見えないといったものも、同じ配慮からです。
『プリキュア』シリーズでは、セクシャルな表現を避け、胸の膨らみの表現なども極力抑えられており※3、初期作品では水着などもNGとなっていたこともありました。

放送を開始した当初は、過去作品のアンチテーゼとして斬新な手法で人気を勝ち得たため、その分、女の子が素手で戦うことをはじめ、その暴力性の表現に大人たちから批判が出たこともありましたが、回を重ねるごとに批判と対象となる部分は補正されて、敵を消滅させてしまわずに、浄化したり、洗脳されていただけで本当は良い人みたいな表現にシフトしていきました。

通常、クレームを怖れて何でもかんでも丸くしていくと、作品としての面白さが失われてしまいますが、『プリキュア』シリーズの場合はそうはなりませんでした。
素手で戦うことは現在も変えずにいますし、変えていった部分も、クレームを怖れての変更ではなく、誰かがイヤな思いをしないようにという観点からの変更に過ぎません。指摘されたからといって何でもかんでも変えてしまうのではなく、揺るぎない信念に基づいて、改めるべきものとそうでないものをちゃんと取捨選択しているのです。

『プリキュア』シリーズが、女の子たちだけではなく、番組を見せている母親たちにも支持されるのには、こうした細か過ぎるまでの配慮や、信念に基づいた補正によって、かつて『プリキュア』シリーズを見て育ち、母親になった女の子たちに、自分の子供たちにも安心見せられるという信頼感を与えているという背景があります。
制作側は安心して見られる作品だと宣伝したわけではありませんが、そうした安心感は作品を視聴したことのない人たちの間にも広まっており、『プリキュア』シリーズが、女の子アニメNo.1の人気と共に、安心のブランドともなっている要因であるわけです。

さらに新しい試み
2023年3月14日に、東映アニメーションが、『プリキュア』シリーズ20周年の節目に新たな試みとして、大人になった当時のファンにも楽しんでもらえる作品の制作を進めているとの発表を行いました。
https://corp.toei-anim.co.jp/ja/press/press-3618846449124240944.html

一つ目は『Ye!プリキュア5』『Yes!プリキュア5GoGo!』の主人公である夢原のそみが成長した姿を描く『キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~』をNHK Eテレにて2023年10月より放送するというもの。
二つ目は『魔法つかいプリキュア!』の続編『魔法つかいプリキュア!2(仮)』を、テレビ朝日にて2024年度に放送するというもので、大人をターゲットにした新しい『プリキュア』シリーズを展開するというのです。

何とも大胆というか、意欲的な展開です。
これには、『おジャ魔女どれみ』シリーズの20周年を記念して公開された劇場版アニメ『魔女見習いをさがして』の反響が影響しているものと思われます。15年も前に終了した作品が現在も多くのファンたちに支持されるのですから、『プリキュア』シリーズなら尚のこと、というところでしょうか。

東映アニメーション×『プリキュア』シリーズの歩みは、まだまだ留まることがない様子ですから、願わくば、このまま30周年、40周年と突き進んでもらいたいところです。


神籬では、アニメの文化振興や関連事業への協力の他、アニメを活用した自治体や企業へのサービス・イベント・事業などの企画立案など様々な活動を行っています。
ご興味のある方は、問い合わせフォームから是非ご連絡下さい。
アニメ業界・歴史・作品・声優等の情報提供、およびアニメに関するコラムも 様々な切り口、テーマにて執筆が可能です。こちらもお気軽にお問合せ下さい。


※1 『映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』では、敵に心を操られた主人公の2人が同士討ちをする展開があり、これを見た子供たちが、とてもショックを受けたり、泣き出す子供たちもいたとのことで、以降、『プリキュア』シリーズでは、仲間同士が戦う展開というのはNGとなり、ダークプリキュアのような敵側のプリキュアと戦うことはあっても、プリキュアが仲間同士で戦うという展開は描かれていません。

※2 第6作『フレッシュプリキュア!』、第8作『スイートプリキュア♪』、第10作『ドキドキ!プリキュア』、第15作『HUGっと!プリキュア』、第16作『スター☆トゥインクルプリキュア』など、いくつかの作品では、手に何も着けていないものもあり、絶対的なものではありません。

※3 前作から頭身バランスを大きく変更した第6作『フレッシュプリキュア!』のデザインのみ、胸の膨らみがやや表現されていたものの、他作品ではほとんどの場合、平坦かやや傾斜がある程度に過ぎず、シリーズを通して性的な表現や、そう見られてしまうような部分は、極力避けられる傾向にあります。