今さら聞けない『プリキュア』20年の歴史 ⑥ 何でもありの扉を開いた『ハートキャッチプリキュア!』

第7作『ハートキャッチプリキュア!
放送期間:2010年2月7日~2011年1月30日
東映アニメーションプロデューサー:梅澤淳稔
[登場プリキュア]
キュアブロッサムキュアマリンの2人でスタートし、後にキュアサンシャインキュアムーンライトが追加

<ストーリー>
「こころの大樹」を枯らして地球を砂漠に変えてしまおうとする流浪の民・砂漠の使徒の野望を阻止するため、「こころの大樹」によって生み出された妖精と出会った女子中学生が、プリキュアに変身して砂漠の使徒に立ち向かいます。


この作品では、過去の作品の設定にあったような異世界は登場せず、敵の幹部も元は普通の地球人だったり、砂漠の使徒も謎の存在で、何百年も前から断続的に地球に侵略の手を伸ばし、その度に、その時代のプリキュアたちがこれを撃退するという戦いが、歴史の裏側で繰り返されてきたと語られるのみでした。

新要素がふんだんに盛り込まれた前作『フレッシュプリキュア!』から一転して、この作品では原点回帰が意識され、初期メンバーが2人となっているのも特徴です。
番組開始時には、後に追加されるプリキュアの情報は伏せられており、初期のポスターでは2人だけが描かれていました。

主人公は転校生の花咲つぼみで、運動は苦手なものの、成績は優秀で素直で礼儀正しいものの、引っ込み思案がコンプレックスで、そんな自分を変えたいと思っています。
相棒となる来海えりかは、猪突猛進で物怖じしないお調子者で、勉強は苦手なものの運動は得意。思ったことをそのまま口に出してしまうタイプで、つぼみとは何もかもが正反対。
この辺りの設定は、初代『ふたりはプリキュア』の美墨なぎさと雪城ほのかの関係と近しく、初代をかなり意識して作られたことが見て取れます。
ただし、つぼみとえりかの場合は、各々欠点だらけで1人きりの時にはそれを克服できずにいた2人が、互いを認め合い、互いの足りない部分を補い合って成長していくという点がより強調されていました。

ただし、その原点回帰は中盤までで、第3話から登場していた詰襟の制服を着た生徒会長が、実は男装の女の子で、第23話で3人目のプリキュアとして覚醒するという新プリキュアの劇的なサプライズ演出が行われました。
さらに第33話では、引退していたプリキュアが復活して仲間になるのですが、これは、ひとつの作品内での2人目の追加プリキュアであることと、年齢が17歳であるということで、ダブルでシリーズ初の試みでした※1

もう一つ、この作品では、「ダークプリキュア」という敵側のプリキュアが登場します。
プリキュアは正義の味方という大前提を覆す存在で、作中ではプリキュア対プリキュアという構図が展開されます。

異世界設定がないことや、プリキュアの設定もお約束から外れたものだったりと、自ら作り上げた設定の縛りを大胆に破ったこの作品によって『プリキュア』シリーズの自由度が一気に広がった印象があります。

前年から紅白歌合戦にも出場し(2014年まで6回出場)、人気絶頂中だった水樹奈々がキュアブロッサムの声優を務めていたこともあり、人気的にはシリーズ中でもトップクラスで、売上高も過去最高額を更新する程の盛り上がりを見せいていました。

その勢いのおかげか、年末には紅白歌合戦にも出演していました。
筆者も個人的に一番好きな作品で、特にエンディングはシリーズ中でも屈指の名曲だと思っています。

<トピックス>
◆ 追加プリキュアが2人
◆ 異世界が登場しない設定
◆ 高校生プリキュアの登場
◆ 悪のプリキュアの登場※2


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※1 この作品で登場した中学生以外のプリキュアは、高校生プリキュアだけではありません。
正式なプリキュアメンバーには数えられていませんが、花咲つぼみの祖母・花咲薫子が元プリキュアで、第44話においてクリスマスの夜限定で若返った姿のプリキュア(キュアフラワー)に変身して主人公たちのピンチを助けました。

※2 テレビシリーズでは初登場ですが、映画では、2007年11月公開の『映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』で、鏡の国のクリスタルからプリキュア5たちのコピーとして生み出された「ダークプリキュア5」という悪のプリキュアが登場しています。