TBSにはなぜ国民的アニメ(長寿アニメ)がないのかという件

現在も放送を継続している各局の国民的アニメ(長寿アニメ)について一覧にまとめてみると、下記のような表になります。
10年越えの長寿アニメという基準で選出したので、かつて一世を風靡した『妖怪ウォッチ』(2014放送開始)は入っておらず、また逆に、一般知名度がそれ程高くない『カードファイト!!ヴァンガード』シリーズはその放送期間の長さのために表入りを果たしています。

これを見てみるとTBSだけ国民的アニメがないことにすぐに気が付くでしょう。
TBSには、かつて日本人なら誰もが知っているであろうという国民的アニメ『まんが日本昔ばなし』がありましたが、残念ながら2006年9月に終了してしまいました。

TBSは、2019年の『新幹線変形ロボ シンカリオン』の放送終了と共に、子供向けアニメやファミリー向けアニメから撤退してしまい、前作の人気を受けて製作された続編『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』はテレビ東京で放送されました。
これ以降、TBSは深夜アニメ系やコアなアニメファン向けの作品のみとなり、『新幹線変形ロボ シンカリオン』を最後に通年放送されるような作品もなくなったことから、局の方針転換がない限り、今後についてもTBSに長寿アニメ作品が生まれる可能性はなくなってしまったわけです。

2022年9月現在、TBSで放送中のアニメは、再放送作品を除くと『それでも歩は寄せて来る』(水曜25:28~)、『彼女、お借りします』(木曜25:25~)、『惑星のさみだれ』(木曜25:55~)の3作品のみです。
NHK、Eテレは20作品以上、日本テレビ、テレビ朝日は共に4作品、テレビ東京は20作品、フジテレビは7作品と、作品数だけ見るとTBSだけが極端に少ないとまでは言えませんが、やはり通年放送の知名度の高い作品がないせいか、現在放送中のアニメだけを見ると、その存在感が薄いとの印象は拭えません。

有識者の解説などを見ると、TBSは、視聴率が下がるとすぐに編成や放送時間変更という対応をし、それでも視聴率の改善が見られないと、たとえ人気番組や長寿番組であっても放送打切という判断をする傾向があるようで、1969年から42年も続いた『水戸黄門』や1979年から32年も続いた『3年B組金八先生』ですら容赦なく終了させています。
また、一度見限った番組を顧みることなく放出してしまうことから、かつて看板番組の一つだったウルトラマンシリーズはテレビ東京へ、仮面ライダーシリーズはテレビ朝日へと放送権が移ってしまっています。
現在のTBSは、ドラマと報道がメインでバラエティはその次、さらに下ってアニメはかなり優先順位が低いという印象です。

とは言え、2000年代には『機動戦士ガンダムSEED』以降のガンダムシリーズの他、『交響詩篇エウレカセブン』、『ひだまりスケッチ』、『コードギアス 反逆のルルーシュ』、『けいおん!』、『鋼の錬金術師』、『マクロスF』などの人気作品を放送しており、2010年代に入っても、『デュラララ!!』、『魔法少女まどか☆マギカ』、『七つの大罪』、『ハイキュー!!』、『僕のヒーローアカデミア』などの有名タイトルが目白押しで、その存在感は決して小さくありません。
近年では『呪術廻戦』のヒットも記憶に新しいところでしょう。

なにしろ、長期放送ではないとはいえ、ガンダムとマクロスというビッグタイトルを持ち、数々のヒット作を放送しているので、あくまでTBSの編成上の方針のために長寿作品がないだけで、アニメ自体に消極的であるとまでは言えないでしょう。
作品の傾向を見てみても、ガンダムやマクロスを除けば、実績のある原作付きの作品以外はほとんど扱わない堅実さで、幅を広げず、過去の傾向や実績から、確実にヒットが狙える手堅い作品を少数精鋭で投入するという方針であることが伺えます。

また、あまり知られていませんが、自局で放送しないアニメにも、TBSは製作委員会という形で出資をして製作に関わっています。
特に『けいおん!』以降繋がりが強い京都アニメーション作品については、数多くの作品に関わっています。

<製作委員会にTBSが参加した作品中、自局ではなくU局放送の作品>
2005年『英國戀物語エマ
2006年『Fate/stay night
2006年『夜明け前より瑠璃色な-Crescent Love-
2010年『もっとTo LOVEる -とらぶる-
2012年『中二病でも恋がしたい!
2012年『To LOVEる -とらぶる- ダークネス
2013年『たまこまーけっと
2013年『境界の彼方
2013年『中二病でも恋がしたい!戀
2015年『To LOVEる -とらぶる- ダークネス 2nd
2022年『Extreme Hearts

上記の作品リストを見ても判る通り、コアなオタク向けに特化した作品に絞って出資をしており、これを見ても、TBSとしては、元々『ドラえもん』や『アンパンマン』のような子供向け・ファミリー向けアニメには興味が薄く、もっと年齢が高い層にターゲットを絞ってアニメを提供しようという方針が伺えます。

少子高齢化時代ということもあって、この方針はある意味では妥当であるとも言え、子供向けアニメは、子供の成長と共に視聴者が入れ替わっていくものなので、内容や作風が変わらないことが求められる一方、年齢が高い層向けのアニメは、移り変わりが早い時代や流行に合わせたものを提供していく必要性から、短期作品にならざるを得ず、長寿アニメになり難いという事情があります。

今年1月に、TBSはグローバル展開が可能なハイエンドなアニメ作品を生み出すべく、グループ会社であるアニメ制作会社Seven Arcsに25億円を投資することを発表しており、アニメに消極的どころか、アニメ事業をさらに拡大する気が満々であることがわかります。

TBS国民的アニメがない理由の結論としては、番組や視聴層に対する局の方針の特性から、TBSでは国民的アニメが成立し得ないということになります。
ネット上ではTBSはアニメに消極的だと言う論者も見かけますが、消極的とは逆に、かなり本格的にアニメ事業に取り組んでおり、10月からはガンダムシリーズの新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が放送を開始し、2023年には『呪術廻戦』の続編の放送も決定しているなどの好材料もありますので、今後のTBSアニメに期待をかけたいと思います。