声優の解説書 その⑦ アフレコ収録3 レギュラー番組・別録り

声優の解説書

前回はプレスコについて取り上げましたが、今回はアフレコ収録について紐解いていきます。

日本テレビ(読売テレビ)の『名探偵コナン』『それいけ!アンパンマン
フジテレビの『ONE PIECE』、『サザエさん』、『ちびまる子ちゃん
テレビ朝日の『ドラえもん』、『クレヨンしんちゃん
テレビ東京の『ポケットモンスター
といった「国民的アニメ」とも呼ばれる毎週放送の長寿作品では、『サザエさん』のアフレコ収録が毎週木曜に行われているといったように、毎週同じ曜日の決まった時間に、決まった収録スタジオへと出演者たち全員が集合して1日で1話分の収録を行います。
各作品で収録時間は多少異なりますが、『アンパンマン』の収録の場合は、バイキンマン役の中尾隆聖によると、2時間半~3時間くらいで1話分の収録が行われているとのことです。
ほぼベテラン声優のみで構成されている『サザエさん』などは、通常ならテストを繰り返して、ラステス(最終テスト)から本番という手順を踏む収録を、ラステスと本番のみで行うため、1時間程度で終わるといわれています。

誰か1人の都合が悪くて収録日を木曜日から金曜日にずらしますなどということはなく、レギュラー番組の収録日が最優先なので、収録日と重なる日程での他の仕事は基本的に受けることができません。
また、遅刻や欠席なども基本的にはできませんから、声優に取っては体調管理や時間管理なども非常に重要となります。
特殊な例ですが、『ドラゴンボール』の孫悟空役で知られる野沢雅子は収録日の前日に貰い火によって自宅が全焼してしまったものの、当日は知り合いに服を借りて収録に参加したそうです。当人の責任感の強さもあるでしょうが、収録には多くの人が関わっている上、アニメの制作は非常にタイトなスケジュール感で進行するため、予備日などは当然設けられていませんし、主役の声優が参加できないとなると、取り返しのつかない事態に発展する可能性がありますから、声優にとって、収録参加は何よりも最優先すべきものなのです。

では、もし主役級の声優が、長期治療が必要な病気になってしまったらどうするのか。その場合は、代役を立てるしかありません。
実際に『美少女戦士セーラームーン』の主役である月野うさぎ役の三石琴乃が、急病により手術を受け、1か月の入院、3か月の自宅療養となってしまった際には、第44~46話及び次回作『美少女戦士セーラームーンR』の第1~4話の7話分を、荒木香衣※が急遽代役を務めて乗り切りました。

病気以外のイレギュラーなケースでは、持ち役のある作品や専属声優をしている俳優の出演作品の収録が、レギュラー番組と重なってしまう場合が考えられます。

「持ち役」というのは、シリーズ作品などに継続的に登場する特定キャラの担当のことで、続編が制作されることになった際に、収録日がレギュラー番組と重なってしまうこともあります。こうした場合は、可能であれば「別録り 」といって、単独で収録を行うことで対応しますが、状況次第では、別録りではなく、代役を立てるという判断をされる場合もあります。

「専属声優」というのは、海外映画に出演する有名俳優の吹き替えを専属的に担当することで、例えば、

アーノルド・シュワルツェネッガー玄田哲章
シルベスター・スタローンささきいさお
ジャッキー・チェン石丸博也
サモ・ハン・キンポ―水島裕
チャールズ・ブロンソン大塚周夫
トム・クルーズ森川智之
スティーヴン・セガール大塚明夫
ジョニー・デップ平田広明
ジェイソン・ステイサム山路和弘

といった具合に、各俳優専属の吹き替え担当がいて、日本の映画ファンたちもその声に慣れ親しんでいることから、代役を立て難く、スケジュールがどうしても合わない場合は、別録りが行われます。

この「別撮り」という方法については、声優以外ではよく行われるケースが見られます。
近年、ディズニーやピクサーなどの海外アニメ映画の吹き替えや、スタジオジブリ作品などの国内のアニメ映画の配役で、声優以外の俳優やタレント、お笑い芸人などが起用される場合が多々ありますが、声優とはルールが異なるため、スケジュール上の理由などから別撮りになることが多いためです。
また、声優の場合は、10人程度の複数人数で収録する際に、人数よりも少ない3本程度のマイクを使い、他の人の邪魔をせずに、マイク前を入れ替わり立ち替わり、スムーズに移動してセリフをしゃべる技能(マイクワーク)が備わっていますが、普段声優業に携わらない芸能人の場合は、こうしたことが難しいため、技術的な理由からも、1人に1台のマイクが用意されて、単独もしくは掛け合いが必要な2~3人程度の少人数での別録りが行われるのです。

『天気の子』醍醐虎汰朗&森七菜のアフレコ映像
『劇場版テニスの王子様』アフレコテスト

※荒木香衣が代役に抜擢されたのは、『美少女戦士セーラームーン』の主役オーディションの際に、三石琴乃と共に最終選考に残っていたためと言われています。


声優の解説書 その①
声優の歴史 第一章 ラジオ時代
声優の歴史 第ニ章 テレビ時代
声優の歴史 第三章 声優事務所と養成機関の拡大
声優の歴史 第四章 声優ブームの到来

声優の解説書 その② 声優は日本だけの特殊な職業
声優の解説書 その③ 声優のお仕事
声優の解説書 その④ 声優の労働闘争
声優の解説書 その⑤ 声優の報酬システム

声優の解説書 その⑥
キャスティング事情1 オーディションの募集
キャスティング事情2 オーディション内容
キャスティング事情3 オーディション以外

声優の解説書 その⑦
アフレコ収録1 アフレコとは? 
アフレコ収録2 プレスコ
アフレコ収録3 レギュラー番組・別録り