声優の解説書 その⑦ アフレコ収録2 プレスコ

声優の解説書

前回はアフレコについて取り上げましたが、今回は前回も少しだけ触れたプレスコについて紐解いていきます。

「プレスコ」というのは、プレスコアリング(prescoring)の略ですが、和製英語の「アフレコ」とは異なり、こちらはちゃんとした英語です。
スコアリングというのは劇伴(BGM)作成のことですから、海外では、楽曲や音声、効果音なども含めてサウンド・エンジニアリング(sound engineering)に一括りとなっているものと思われます。

日本のアニメではアフレコ方式での制作が主流となっていますが、あくまで主流ではないというだけで、日本でもプレスコ方式を採用して制作された作品があります。

古くは1968年公開の高畑勲作品『太陽の王子 ホルスの大冒険』や『おもひでぽろぽろ』、『平成狸合戦ぽんぽこ』、『耳をすませば』、1988年公開の大友克洋作品『AKIRA』、2007年公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』といった劇場版アニメの他、テレビアニメでも、プレスコ採用で知られる松尾衡監督作品『RED GARDEN』、『紅』、『夏雪ランデブー』、『革命機ヴァルヴレイヴ』などの作品があります。

プレスコ方式というのは、かつては手間や時間をかけてでも声優の自由な演技を引き出したいなどの理由から、多額の予算や長期スケジュールで製作される劇場作品や、OVA作品、短編のテレビアニメ、特別な話数のみだったりと限定的に使用されるものであり、年に1~2作品あるかないかという程度のものでした。
ところが近年、『シドニアの騎士』や『宝石の国』、『ドロヘドロ』、『BEASTARS』、『オッドタクシー』など、プレスコ方式を採用する作品数が各段に増えています。

これは、3DCG技術の導入により、口パクの動きなどの調整がつけやすくなったこともあって、プレスコ方式のハードルが下がっていることが要因となっていることが考えられます。
セルアニメでは、先録りの音声に合わせて口パクや動きのタイミングなどを調整することが非常に難しく、アニメーターの技量や制作時間など、プレスコ方式を採用した際のコスト的なリスクが高かったわけですが、それがデジタル処理などで容易に対応可能となれば、プレスコ方式を採用する動きが出て来るのは自然な流れとも言えるでしょう。
スケジュール面についても、デジタル制作によって状況が改善されつつあるので、プレスコ方式への追い風になっているように思われます。

音響制作においても、デジタル処理による技術革新が進んでおり、人の耳では違いがわからないような調整範囲で、セリフの時間をコンマ数秒縮めたり伸ばしたりという処理も可能になっていますから、編集段階での補正もできるとあって、今後もますますプレスコ方式を採用する作品が増えることが推測されます。
声優にとっても、プレスコ方式の方が圧倒的に芝居や表現の幅は広がるはずですので、望ましい流れと言えるでしょう。

次回は、アフレコ収録について取り上げます。


声優の解説書 その①
声優の歴史 第一章 ラジオ時代
声優の歴史 第ニ章 テレビ時代
声優の歴史 第三章 声優事務所と養成機関の拡大
声優の歴史 第四章 声優ブームの到来

声優の解説書 その② 声優は日本だけの特殊な職業
声優の解説書 その③ 声優のお仕事
声優の解説書 その④ 声優の労働闘争
声優の解説書 その⑤ 声優の報酬システム

声優の解説書 その⑥
キャスティング事情1 オーディションの募集
キャスティング事情2 オーディション内容
キャスティング事情3 オーディション以外

声優の解説書 その⑦
アフレコ収録1 アフレコとは? 
アフレコ収録2 プレスコ
アフレコ収録3 レギュラー番組・別録り