打切アニメ列伝⑪ 人類滅亡の衝撃的ラスト『宇宙戦士バルディオス』後編

アニメの解説書

『宇宙戦士バルディオス』では、ハードな人間ドラマや衝撃の最終回の他にもある画期的な試みを行っています。

通常、ロボットアニメでは、第1話で視聴者の心を掴んで第2話以降も視聴してもらう手段として、第1話に主役メカを劇的に登場させることが鉄則となっています。
既存アニメの常識を覆したと評される『機動戦士ガンダム』ですら、ガンダムは第1話から登場しますし、ロボットアニメに限らず、変身ヒーローだって、魔法少女だって、第1話に主人公が劇的に変身して敵を倒すというお約束は決して外しません。
ところが、『宇宙戦士バルディオス』の場合は、第1~3話まで、主役ロボットであるバルディオスが登場しません。第4話にしてようやく合体変形して初登場するという異例っぷりで、2000年代に入ってから、鹿目まどかがいつ変身するかで話題になった『魔法少女まどか☆マギカ』※のはるか先を行っていた作品だったわでけです。
これが効果的であったかどうかは議論の分かれるところですが、こうした点をもっても、既存アニメにはない試み※をしようという制作側の意欲が伝わってくるように思われます。

『宇宙戦士バルディオス』にはもう一つ特筆すべきものがあります。
それは、放送終了後20年以上も経過した2000年代に入ってから、『宇宙戦士バルディオス』が思わぬ形で表出したことです。
事の始まりは、開設間もない頃の掲示板「虹裏」※にて、相変わらずのくだらない会話や論争が続くところへ、「寝ろ」という言葉と共にトリノミアス皇帝の画像が投稿されたことでした。
トリノミアス皇帝というのは、第1話序盤に登場するも、アフロディアに殺されてあっという間に姿を消してしまったS-1星皇帝トリノミアス三世のことで、その絶妙過ぎるキャラチョイスが受けて、その後、同掲示板で深夜まで激論が交わされているところへ「お前たち、もう寝なさい」という言葉と共に皇帝の画像が投入され、「誰このジジイ」と返すというのがお約束になっていきます。

当時その概念はまだ普及していませんでしたが、今風に言うとネットミームというもので、「虹裏」以外の掲示板にも波及していき、その結果、本編に出ていた時間はわずか2分程度に過ぎず、モブキャラ程度の役割と知名度しかなかったはずのトリノミアス皇帝は、『宇宙戦士バルディオス』が初参戦した「スーパーロボット大戦Z」にも、他のキャラクターを差し置いて登場することになります。
『宇宙戦士バルディオス』が初参戦の際に、『スーパーロボット大戦』シリーズのプロデューサーである寺田貴信氏がトリノミアス皇帝が出ることを公言したことを受け、一時ネット上では「トリノミアス皇帝参戦記念」と称するお祝い騒ぎが起こった程でした。

ちなみにこのトリノミアス皇帝の名前は、広川和之監督の証言によると、『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督※と劇場版の鳥海永行監督のトミノ+トリウミが由来とのこと。

打ち切りによる衝撃的なラストだけで語られることが多い『宇宙戦士バルディオス』ですが、ハードな人間ドラマや、奥行きをもったアフロディアのような魅力的なキャラクター、異星人なのに言葉が通じることや、タイムスリップした理由が不明な点、劇場版でのラストで放射能汚染された地球に生身で降り立っても平気だったり、やたら「亜空間」を持ち出すわりに、話が進むにつれ単なる移動や回避手段程度でしか扱われなかったり、ゆるいロボットシーン、テレビ版のバッドエンドが覆るかと思いきや、結局もう一度バッドエンドで終わる劇場版等々ツッコミどころが多いのも逆に語り所があってファンにとっては魅力になっており、トリノミアス皇帝のネットミームから作品を知った人も含め、現在でも多くのコアなファンたちに愛される稀有な作品となっています。


※『魔法少女まどか☆マギカ』2011年に放送された魔法少女アニメで、オープニングでは主人公・鹿目まどかがの変身シーンが描かれているものの、第1話での主人公変身という定石を崩し、話数が進んでも一向に変身しにことが話題となり、最終的に最終回まで変身しませんでした。さらに、魔法少女モノの王道を外れたダークな内容を展開し、過去作品の定着したパターン崩しのパイオニア的な作品ともなりました。

※実は、主役ロボットが第1話で出てこないアニメには『惑星ロボ ダンガードA』(1977~1978年)という先例があります。この作品では。第1話で開発中のロボットの説明映像で合体イメージが描かれていますが、襲い来る敵の巨大ロボットに対し、戦闘機で対抗し、開発が進められるダンガードAと、ダンガードAのパイロット候補生の訓練とが描かれ続けます。第4話のラストでようやくダンガードAが完成しますが、そこからパイロットの選考が始まり、パイロットが決まった後は、空中での合体へのチャレンジが続き、ようやく合体変形に成功した第11話からダンガードAの活躍が始まります。こちらは全56話で話数に余裕があり、その後45話では普通に活躍していることもあって、あまりその点が注目されることはありませんでした。

※虹裏は、正式名称は「二次元裏@ふたば」で、2001年の2ちゃんねる閉鎖騒動の際に避難所として開設されたネット掲示板「ふたば☆ちゃんねる」の中の画像掲示板の一つ。

※広川和之(廣川集一)は、富野由悠季監督作品の『無敵超人ザンボット3』と『無敵鋼人ダイターン3』で演出家として参加しています。