打切アニメ列伝⑪ 人類滅亡の衝撃的ラスト『宇宙戦士バルディオス』中編

アニメの解説書

主人公側の完全敗北による地球人全滅という救いのない最終回で伝説を残した『宇宙戦士バルディオス』ですが、未放送となった3話分(本来の第31話と第33~34話)は、現在では配信サービスで視聴することができ、それ以降の未制作となった第39話までについては、葦プロダクションが出版した豪華本やアニメ誌などでストーリーが公開されています。

最終回(第31話)で描かれた南極と北極の氷を溶かす地球人抹殺作戦によって、予測以上の35億人を超える犠牲者を出し2週間続いた津波と豪雨が終わると、そこに現れた地形はS-1星と瓜二つで、ガットラーやマリンは驚愕します。
簡単に言えば、地球=S-1星で、ガットラー率いるS-1星人の移民船とマリンは、ワープして移動しただけのはずが、なぜか過去にタイムスリップしてしまったというわけです。
実はこれがこの作品の大テーマで、本作品放送前後に各メディアでも『猿の惑星』※が発想元になっていることが語られていました。
なぜ時間を遡ったのか、なぜ地球がS-1星という名前に変わってしまったのか、西暦2100年の歴史がなぜS-1星人に伝え残っていないのか、そもそも言葉が通じることや、身体的特徴、科学技術の類似性(S-1星のパルサバーンと地球製の戦闘機を改造して合体ロボにできること)を誰も疑問に感じないことなど、不明点というか、ツッコミどころは満載ですが、ともかくも、この作品で描きたかった大テーマは『猿の惑星』だったわけです。

それは打ち切りによってテレビ放送にのせることはできなかったものの、別の形で日の目を見ることになります。
『宇宙戦士バルディオス』が1月に放送終了した1981年のアニメ映画は、春休みには劇場版の『機動戦士ガンダム』と『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』、夏休みには『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』、『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』、『あしたのジョー2』などの話題作がありましたが、ガンダムの完結篇となる『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙篇』が翌1982年3月の公開となってしまったため、冬休みに話題作がなくなってしまい、この穴を埋めるべく、『宇宙戦士バルディオス』の劇場版の話が俄かに持ち上がったのです。
急な話で制作期間は短いものの、テレビ版のカットの再編集や、未公開話のカットも流用できたので、比較的短期間で制作が可能との見込みがあっての採用だったと推測されます。

劇場版では、作画監督に芦田豊雄を起用し、実力の高いスタッフを参加させるなど制作面での強化を図った上、多くのキャスティングも変更されており、制作サイドの意気込みを感じます。
前半は新作カット含むテレビ版の編集版、中盤に早くも人工太陽による南極と北極の氷を溶かす地球人抹殺作戦が遂行され、地球人とS-1星人との最終決戦や、50万メガトンの核兵器で地球がS-1星と同じ汚染された星になってしまった後のマリンとガットラーの一騎打ちが描かれています。
バルディオスが出てくるのは、上映時間118分中、なんと5分未満という短さ。これで果たしてロボットアニメと言えるのかと思える程ですが、やはり主体は人間ドラマなのであって、ロボットはどうしてもオマケ的になってしまうようです。劇場版のポスターを見ても、そこにバルディオスは描かれておらず、銃を向けるマリンとアフロディアの背景に地球が描かれたイラストとなっており、予告編でもバルディオスは一切出て来ず、「スペースラブロマン・宇宙戦士バルディオス」とナレーションが入っていますから、知らない人が見たら、ロボットアニメだとは気づかないかもしれません。

<テレビ版→劇場版のキャスト>
マリン:塩沢兼人
アフロディア:神保なおみ→戸田恵子
月影長官:堀勝之祐
クインシュタイン博士:加川三起→比島愛子
北斗雷太:玄田哲章
ジャック・オリバー:鈴木清信→田中秀幸
ジェミー・星野:横沢啓子→藩恵子
ガットラー総統:青野武→柴田秀勝
ラスカ堤大二郎
リラン越智裕子
デビット:井上和彦

劇場版制作にあたり、アフロディアや新キャラであるラスカ、リランの衣装デザインを、ファッションブランド「ニコル」の松田光弘が担当※。さらに新キャラの声優に俳優の堤大二郎を起用したり、アニメ雑誌での特集記事、関連書籍の出版や作品グッズの発売など、宣伝戦略や商品展開も活発に行われました。

『猿の惑星』が大テーマとするなら、物語の主軸はアフロディアとマリンの関係にあり、テレビ版ではアフロディアが次第にマリンに対する気持ちを変化させていく様子が描かれていましたが、物語が中断してしまったために結末が描かれませんでした。劇場版ではこれを補完すべく、アフロディアとマリンを巡るシーンが大幅に追加され、2人の物語も最後まちゃんと描かれています。

このように、劇場版とはいえ、完結まで描き切ることができたわけですから、制作会社の倒産などで未完のままに終わって、現在に至っても配信すらされない作品などに比べれば、『宇宙戦士バルディオス』はかなり幸福な作品だとも言えるでしょう。

現在では、衝撃的だったテレビ版の最終回ばかりが取り上げられる『宇宙戦士バルディオス』ですが、この作品の注目点は他にも数多くあり、最終回の件でこの作品の存在を知った方々には、是非とも作品内容にも目を向けていただきたいところです。

敵の女司令官であるアフロディアは、普段は堅い軍服に身を包み、メガネをかけて、その長い髪も軍帽に隠して男勝りな言動で毅然としているのに、ふとした時に軍服を脱ぎメガネを外すと、長い髪を下した美女に変身し、女性らしさを垣間見せるギャップのあるキャラクターとして描かれ、多くの男性ファンを軍服フェチに誘い込んだ上、アニメ界に女軍人というジャンルを形成せしめたと言っても過言ではありません。
総統であるガットラーにしても、冷酷で残忍ではあっても決して卑劣ではなく、S-1星人の未来のために、自らの信念に従って行動しており、劇場版では、移民という目的よりも地球人に勝つことに拘って核攻撃を断行しようとするネグロスを必死で止めようとするなど、それまで敵の親玉にありがちな悪逆非道な悪人とは異なるキャラクターでした。

さらに、ガットラーの指示のもと、残虐な行為を実行してきたアフロディアを許せないと思いながらも、弟を誤って殺してしまった罪悪感や、女性としての魅力を感じていることで憎み切れずにいるマリン。
アフロディアを、その有能さを評価して最高司令官に抜擢し、あくまで公正で厳格に部下として扱う一方、自分へ向けて来る忠誠心の高さや女性としての魅力に対しても、一人の男として向き合うガットラー総統。
マリンのことを弟の仇と憎みながらも愛情を感じ始める一方で、上官として尊敬し、両親を失った後の援助や、最高司令官にまで抜擢してもらった恩義、厳格に接する中で時折上官として以上の愛情を傾けてくるガットラー総統への忠誠心や信念の間で揺れ動くアフロディア。
この三者による三角関係は、お子様向けではないラブロマンス要素がふんだんに描かれたものとなっていました。

その他、学生時代の女教師への想いを持ち続け、その身を捧げて愛を貫くパイロットのデビットや、ガットラーを裏切って地球側へ味方しようとするも罠にはまって旧友であるマリンたちを逆に窮地に陥れてしまい、自らを犠牲にして旧友を救う道を選んだS-1星人のフリック、S-1星人に停戦を訴え出て平和会議を開催するも逆に敵に利用されて多大な犠牲者を出す結果を招き、自責の念に苦悩する世界放送テレビ局の報道局長エミーといった具合に、なかなかハードな話が多く、それまでの勧善懲悪の単純なお話が展開されるスーパーロボット系アニメとは一線を画するものでした。

こうした脚本を書いたのは、タツノコプロで『科学忍者隊ガッチャマン』などを担当していた酒井あきよしを中心に、アニメの脚本に留まらず、実写ドラマで向田邦子賞を受賞した筒井ともみや、ダックス・インターナショナルで『まんがはじめて物語』などの脚本を担当していた首藤剛志といった、ロボットアニメとは別のジャンルで活躍していたメンバーです。
同時期に、ロボットアニメで人間ドラマを描こうという同じコンセプトで作られた『機動戦士ガンダム』は、少年の成長物語を主軸にしていましたが、首藤剛志によると、玩具さえ売れればロボットアニメでは何をしてもいいんだという信念のもと、『宇宙戦士バルディオス』では、さらに大人びた人間の愛憎ドラマを狙ったとのこと。
『宇宙戦士バルディオス』には、こうしたロボットアニメ畑ではない脚本家の手による、それまでのロボットアニメにない雰囲気を多分に感じさせるところがあり、そうした面が、コアなファンたちに愛された理由の一端なのかもしれません。

打切アニメ列伝⑪ 人類滅亡の衝撃的ラスト『宇宙戦士バルディオス』後編へ続く


※『猿の惑星』1968年公開のアメリカ映画。地球への帰還航行中の宇宙船が何らかのトラブルに巻き込まれて不時着した惑星は、猿が支配し、人間が奴隷になっている星で、主人公の宇宙飛行士は、猿に捉えられて奴隷にされてしまうものの、反乱を起こし、最後は猿たちから逃れて自由の身になります。共に連れ出した人間の女と共に馬で海岸線を走るハッピーエンドかと思いきや、半分地中に埋まった自由の女神を発見し、ここが未来の地球だと気づいて絶望する衝撃のラストシーンが話題となりました。

※ファッションデザイナーである松田光弘が衣装デザインを担当したことについては、1978年公開の『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』で、ファッションデザイナーの花井幸子が衣装デザインを担当した前例があり、さらに主題歌を当時人気歌手だった沢田研二を起用するなど、プロデューサーである西崎義展が行ったアニメ映画の興行における斬新なプロモーション手法を参考にしたものと思われます。