アニメのスポンサー⑧ 玩具メーカーの明暗 前編

アニメの未来を考える

テレビアニメ黎明期のいわゆる一社提供アニメ※時代のスポンサーには、玩具や菓子から食品、スポーツ用品など様々な種類のメーカー企業が参入し、自社商品の宣伝にアニメを活用してきましたが、中でも作品のキャラクター玩具がメイン商材になりやすく、アニメにとって玩具メーカーが最も相性が良く関わりが大きいものとなっています。
今回は、そうしたアニメのスポンサーとなった玩具メーカーについて取り上げたいと思います。

タカトクトイス
日本国内で、テレビアニメのキャラクター玩具が売られ始めたのは、1972年の『赤胴鈴之助』が最初だと言われています。その『赤胴鈴之助』のキャラクター玩具を作っていたのが後にタカトクトイスとなる高徳商店でした。
高徳商店は、1917年(大正6年)創業で、創業者の高木得治郎の名前から「高得」とするところを、それでは儲け第一のようで印象が悪いことから、「得」を「徳」に変えて「高徳」を屋号にしたそうです。
その後、「高徳玩具製作所」、「高徳玩具」、「高徳商事」、「タカトク」と名称変更を経て、最終的に1979年に「タカトクトイス」となりました。
『鉄腕アトム』や『鉄人28号』といったアニメや、『ウルトラマン』や『サンダーバード』のような特撮番組なども含めた人気キャラクター玩具を幅広く手掛け、日本のアニメ史上におけるキャラクター玩具メーカーの先駆的存在でした。
ところが、『仮面ライダー』の商品化権を後発のポピーに奪われて以降、特撮番組以外の東映作品における商品化権までもがポピーに対して優先的に与えられるようになったことが、経営悪化が加速する一因となります。
キャラクター玩具ビジネスは、当たれば大きいが外すと負債が膨らむといった具合に作品人気に依存するところが大きく、いかに人気作品を引き当てるかが商売の成否を左右するため、東映という重要なアニメコンテンツ供給元を失った打撃はタカトクトイスにとって想像以上に重いものとなりました。

会社の命運にとって致命的だったのは、スポンサーとなっていた『イタダキマン』(1983年)、『銀河疾風サスライガー』(1983~1984年)、『超時空世紀オーガス』(1983~1994年)、『特装機兵ドルバック』(1983~1994年)という作品の玩具販売が悉く不振だったことです。元々経営悪化だったところへ、立て続けに不人気作品にベットてしまったことで、立て直しができない程の打撃を受けてしまいます。
これにより、タカトクトイスは1984年5月25日に不当たり手形を出して事業停止となり、総額約30億円の負債を抱えて倒産となってしまいました。
タカトクトイスがスポンサーとなり、国際映画社が制作していたアニメ『超攻速ガルビオン』は打ち切り、タカトクトイスが大口スポンサーでもあった国際映画社は、経営危機に陥り、1985年6月に倒産。国際映画社の倒産により、同社が制作していたアニメ『ふたり鷹』も打ち切りになってしまいます。


クローバー
「オセロ」や「ルービックキューブ」で知られる玩具メーカー・ツクダの営業部長だった小松志千郎が独立して1973年に創業した玩具メーカーで、当初は女児向け商品が主力でしたが、その後、「超合金」などを含むロボット玩具も取り扱うようになります。
クローバーと言えば、何と言っても『機動戦士ガンダム』のスポンサーであることが知られており、放送時の視聴率低迷や玩具の販売不振によって打ち切りを決定し、その後のバンダイによる「ガンプラ」の大ヒットを予見できず、日本サンライズからのプラモデル販売の打診を断った結果、出資した作品からの恩恵を受けることができずに倒産したと説明されることが多いのですが、これは事実とは異なります。
1977年に東北新社の傘下から離脱して間もない頃の日本サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)と組んでアニメキャラクター玩具に本格参入し、第1弾の『無敵超人ザンボット3』、第2弾の『無敵鋼人ダイターン3』と、企画段階から関与し、第3弾となった『機動戦士ガンダム』でもロボットのデザイン案作成時から関わり、作品内容には、クローバーの意向が反映されたものが多くあります。
『機動戦士ガンダム』は、上述通り、スポンサーであるクローバーが打ち切りを決定したのは事実ですが、年末商戦向け新製品として発売された「ガンダム DX合体セット」の売上が好調だったため、打ち切り撤回の話もあったそうですが、サンライズ側では制作体制が逼迫しており継続困難との判断になったようです※。
クローバーの展開する低年齢層向け商品とはマッチングの悪かったリアルロボット路線の『機動戦士ガンダム』の後番組となった『無敵ロボ トライダーG7』(1980~1981年)は、再びスーパーロボット路線に回帰した作品となっていたため、玩具の売上は好調でしたが、リアルロボットブームのおかげで購買年齢層が上がる転換期となり、市場では超合金玩具よりもプラモデルの方が支持を集める状況となっていたため、同じスーパーロボット路線たった後番組『最強ロボ ダイオージャ』(1981~1982年)では、クローバー商品の売上が伸び悩む結果となっていまいます。
その後の日本サンライズ作品は、リアルロボット路線の『戦闘メカ ザブングル』(1982~1983年)を展開していくことになり、ますますクローバーの展開する「超合金」などの玩具は売れず、「ガンプラ」ブームによって台頭したバンダイが展開するプラモデルがロボットアニメの主力商品として定着していきます。
その結果、ついにクローバーは『聖戦士ダンバイン』(1983~1984年)が放送中の1983年8月に不渡り手形を出し、負債総額15億円強を出して倒産してしまいます。


野村トーイ
1950年代に浅草に本社を構え、ブリキのおもちゃの製造・販売をメインに展開し、1980年代には、「チクタクバンバン」や「ブタミントン」といったヒット商品を生み出しましたが、その後、ファミリーコンピュータをはじめとするコンピューターゲームに押されて業績不振に陥ってしまいます。1992年にモノポリーで知られるアメリカの玩具メーカーのハズブロ(Hasbro, Inc.)に買収され、ハズブロージャパン株式会社というハズブロの日本法人となりますが、業績が回復せず、1998年に解散。
『宇宙戦艦ヤマト2』(1978~1979年)、『宇宙空母ブルーノア』(1979~1980年)、『宇宙戦士バルディオス』(1980~1981年)と続いた宇宙ロマンシリーズのメインスポンサーでした。


1980年代のタカトクトイスクローバーの倒産により、キャラクター玩具市場は、バンダイ(現・バンダイナムコ)とタカラ(現・タカラトミー)の2強化が進みます。
1990年代に海外企業に吸収される形で姿を消した野村トーイなどの例もある一方で、逆にセガトイズのように近年参入してきた玩具メーカーもあり、次回は現在も存続・継承されている玩具メーカーに焦点を当てたいと思います。

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※一社提供アニメ
アニメ番組の放送枠が単独の一社がスポンサーとなっているものを指し、広告代理店が仲介する形で、そのスポンサー企業から支払われる広告料から、テレビ局への放送料、制作会社への制作料が賄われるため、スポンサー企業の番組に対する発言権は大きく、内容に注文が及ぶどころか、企画段階から大きく関わって制作される場合もあります。

※『機動戦士ガンダム』で作画監督を務めた安彦良和が、各インタビュー等で当時のサンライズの状況を語っており、同時期に日本サンライズが制作し、TBSのゴールデン枠で放送していた『ザ☆ウルトラマン』の方に会社は力を入れていたため、ガンダムのスタッフが兼任や引き抜きなどが行われて現場は慢性的な人手不足で、継続は困難であったそうです。その後『機動戦士ガンダム』が打ち切りとなると、ガンダムのスタッフが『ザ☆ウルトラマン』に動員され、富野由悠季も「斧谷稔」名義で制作に参加しています。


アニメのスポンサー
① アニメへの出資の狙い
② スポンサーと作品の関わり
③ 出資企業の変化
④ 出資・座組のパターン
⑤ 出資意図の変容
⑥ テレビ局主体で製作されるアニメ
⑦ 現在も残る一社提供
⑧ 玩具メーカーの明暗 前編
⑧ 玩具メーカーの明暗 後編