アニメのスポンサー⑧ 玩具メーカーの明暗 後編
前回は倒産などで姿を消してしまったアニメのスポンサー企業となっている玩具メーカーを取り上げましたが、今回は現在も存続・継承されている玩具メーカーに焦点を当てたいと思います。
バンダイ
1950年に玩具製造子会社「萬代屋」として浅草で創業。
後発の玩具メーカーのために、業界からの反発があったものの、黄金バットやウルトラマンなどの様々なキャラクターの形をした泡スプレー玩具「クレイジーフォーム」や、アメリカのテレビドラマ『わんぱくフリッパー』のイルカ(フリッパー)の玩具、『サンダーバード』のメカ玩具などの商品がヒットして成長。
イギリスのSF特撮人形劇『キャプテン・スカーレット』(1968年)の失敗や、「無返品取引」※1による玩具流通業界からの反発を受けて業績不振に陥るも、子会社であるポピーの成功や、1/48スケールのミリタリー模型「機甲師団シリーズ」のヒット、それまでの遊ぶための模型からディスプレイ模型への需要転換を牽引した『宇宙戦艦ヤマト』関連の商品がファンに支持されて持ち直します。
前述の『キャプテン・スカーレット』の失敗で、玩具の商品化権を持つバンダイと、プラモデルの商品化権を持つ今井科学が共に不良在庫を抱える事態となり、バンダイは持ち堪えたものの、今井科学は1969年に倒産してしまいます。
この時、バンダイは自社も苦しい状況だったにもかかわらず、今井科学の静岡工場や人員、製品金型を買い取ってバンダイ模型を設立(バンダイが負債を引き受け、今井科学は更生会社になります)。
これがバンダイの模型製造の基盤となり、クローバーが手放した『機動戦士ガンダム』のプラモデルの商品化権を入手した際に、1980年代のガンプラブームを生み出す原動力となりました。
ガンプラブームのおかげでバンダイグループは玩具業界1位にまで成長し、ポピーやバンダイ模型などのグループ8社を経営統合させ、1986年に玩具メーカーとして初の上場を果たします。
しかし1980年代に入ると、1983年に発売されたファミリーコンピュータを筆頭とする家庭用ゲーム機の流行に押され、任天堂やセガなどのゲーム会社に売上を追い抜かれてしまいました。
その後も、玩具事業の不振や、後発で参入した家庭用ゲーム機の失敗、スーパーファミコン用ソフトも不振で業績が落ち込んだり、たまごっちの大ブームで売上を伸ばしたと思ったら、そのブームの終息を見極められずに大量の在庫を抱えてしまうなど浮き沈みを繰り返しします。
2005年には、それまで業務提携を行って来たナムコと経営統合してバンダイナムコグループを形成して現在に至るというわけです。
バンダイは、『聖戦士ダンバイン』や『機動戦士ガンダム』、『創聖のアクエリオン』、『交響詩篇エウレカセブン』といった有名なロボットアニメのスポンサーとして知られており、東映とはアニメの黎明期から関係が深いことから、プリキュアシリーズや仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズでもスポンサーになっている上、1994年にはサンライズを傘下に加えてガンダムシリーズの全権利を取得しています。
バンダイナムコグループとなった現在、『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』、『ドラえもん』、『それいけ!アンパンマン』などの国民的アニメのスポンサーにも名を連ね、3大特撮ヒーローシリーズ(仮面ライダー、ウルトラマン、スーパー戦隊)、『ドラゴンボール』をはじめとする数多く東映作品の商品化権を独占的に所有している上、ガンダムシリーズだけではなく、グループ企業が新たに生み出したアイドルマスターシリーズやラブライブ!シリーズなどの自社コンテンツを所有するなど、日本最大級のコンテンツ力を誇っています。
さらに自社内にサンライズ※2をはじめ、バンダイナムコピクチャーズ、SUNRISE BEYOND、アクタスといったアニメ制作会社を内包し、アニメの制作からメディアミックス、商品展開までグループシナジーを最大限に発揮できる体制を築いており、アニメ作品と共に成長してきた日本で最もアニメとの関りの深い企業の一つと言えるでしょう。
ポピー
バンダイグループで、雑玩「カチカチクラッカー」のヒットをきっかけに雑玩(駄菓子屋や土産物屋などで売られる一般流通以外の玩具類)専門部門として1971年に設立し、その後キャラクター玩具の製造・販売会社になります。
杉浦幸昌常務が、長男のために、タカトクトイス製の500円の仮面ライダー変身ベルトを知り合いの工場に頼んで改造し、作中通りのギミック(羽根が光って回転する)を再現したところ、近所でも大評判となったらしく、これを商品化して1500円の高値で販売。
その結果、この仮面ライダー変身ベルトは380万個を売る大ヒット商品となり、これを機にポピーは急成長を遂げます。
本社のバンダイは、特撮番組の『キャプテン・スカーレット』(1968年)での手痛い失敗があったために、山科直治社長判断でポピーにバンダイの玩具部門(模型部門はバンダイ本社が担当)を担わせることにし、玩具専業会社となります。
1974年に『マジンガーZ』のダイキャスト製フィギュアに、杉浦常務の発案で作中に出てくる架空の合金「超合金Z」から「超合金」というブランド名を冠して発売すると、これが大当たり。
以降、「超合金」ブランドでアニメや特撮作品のキャラクターフィギュアが続々と発売されるようになり、設立5年で親会社のバンダイの売上を上回り、ライバル会社のトミーも抜いて玩具業界トップに躍り出ます。
1983年、株式上場を目的とするバンダイグループの再編に伴ってバンダイ本社に吸収合併されて一事業部となり、玩具メーカーとしてのポピーは姿を消してしまいます。
『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976~1977年)、『キャンディ♡キャンディ』(1976~1979年)、『宇宙大帝ゴッドシグマ』(1980~1981年)、『ゴールドライタン』(1981~1982年)、『百獣王ゴライオン』(1981~1982年)、『機甲艦隊ダイラガーXV』(1982~1983年)などのスポンサーとなっていました。
タカラトミー
玩具メーカーのトミー(1924年創業)は、「トミカ」「プラレール」「ゾイド」などのヒット商品を生み出しましたが、新たなヒット商品に恵まれず、バブル崩壊後は経営危機に陥ってしまいます。
この時の経営危機は、商品化権を取得した『ポケットモンスター』の人気や事業縮小などでなんとか乗り切ることができましたが、経営基盤に慢性的な課題を持っていました。
玩具メーカーのタカラ(1953年創業)は、空気ビニール玩具「ダッコちゃん」や「リカちゃん人形」、「チョロQ」、「ビーダマン」、「ベイブレード」といったヒット商品を展開するも、ベイブレードブーム終了によって発生した不良在庫や、ミニカー事業、家電事業の失敗などで経営危機にありました。
2006年に、このトミーとタカラが合併して誕生したのが、タカラトミーでした。
タカラトミーは、トミー時代から『恐竜探険隊ボーンフリー』、『科学冒険隊タンサー5』、『伝説巨神イデオン』、エルドランシリーズ(『絶対無敵ライジンオー』『元気爆発ガンバルガー』『熱血最強ゴウザウラー』の三部作)、『超特急ヒカリアン』などのスポンサーとなっていました。
その他、『ゾイド -ZOIDS-』や『爆転シュート ベイブレード』自社商品のアニメ化によるメディアミックスも展開も手掛けており、タカラも、勇者シリーズをはじめ、『冒険遊記プラスターワールド』、『スパイダーライダーズ 〜オラクルの勇者たち〜』などのスポンサーとなっていました。
タカラトミーとなってからは、ジェイアール東日本企画、小学館集英社プロダクションとの3社共同プロジェクトで開発されたプラレールの玩具シリーズを元にしたアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』を手掛け、JR各社との連携や、初音ミク、『新世紀エヴァンゲリオン』、『銀河鉄道999』とのコラボレーションなどで話題となり、ヒット作品となりました。
セガトイズ
1991年に玩具メーカーのヨネザワの完全子会社として設立されたゲームソフトウェアの企画・製作会社のエスパルが、1994年に親会社のヨネザワの玩具事業部門を移管した後、同年にセガ・エンタープライゼスに買収され、セガ・エンタープライゼス内のTOY事業部も移管。
こうして1998年に商号を「株式会社セガトイズ」に変更し、現在に至ります。
買収後、セガグループの再編により、現在はセガの完全子会社となっています。
『それいけ!アンパンマン』のスポンサーに名前を連ねている他、ジュエルペットシリーズ、『甲虫王者ムシキング』、『爆丸バトルブローラーズ』など、セガグループが手掛ける玩具やゲームを原作とするアニメの製作委員会にも参加しています。
グッドスマイルカンパニー
バンプレスト(バンダイナムコグループ企業のプライズゲーム用景品メーカー)の子会社だった芸能事務所ミューラスが、採算が合わずに解散となった際に、担当者だった安藝貴範氏が、ミューラス所属タレントの受け皿となるイベント運営会社兼タレント事務所として、2001年5月に創業したのがグッドスマイルカンパニーでした。
芸能事業はもともと不採算事業でしたから、マックスファクトリーとの提携で食玩の企画・開発・制作OEM業務を始め、2006年に発売を開始したデフォルメフィギュア「ねんどろいど」シリーズが大ヒットとなり、2012年に芸能事業部WHOOPEEを閉鎖※3すると、ホビー事業が中核の企業となります。
数々の作品に製作委員会の一員として参加(作品に出資)し、『ブラック★ロックシューター』、『宇宙パトロールルル子』などの作品では幹事会社※4となっています。
この他にも、規模は小さいものの、『ドラえもん』のスポンサーに名を連ね、『ゲームセンターあらし』のメインスポンサーにもなったエポック社(玩具メーカー)や、数々の作品の製作委員会に参加する形でアニメ作品に出資しているコンテンツシード(キャラクターグッズの企画・製造・販売)といった企業もあります。
日本のアニメをスポンサーとして支えて来たこうした玩具メーカーは、現在では、様々な事業を展開する巨大企業グループにまで成長したバンダイナムコグループと、玩具メーカーとして独自路線をいくタカラトミーという老舗企業の2強の他、プライズ商品を扱うセガトイズ、フィギュアを扱うグッドスマイルカンパニーなどの新興企業もあります。
今回取り上げた玩具メーカーだけではなく、食品メーカーや出版社などいろんな業種の企業がそれぞれの企業戦略に従ってアニメに出資をしています。
アニメ業界にとっては、作品を経済的に支えている陰の功労者であるとも言えるこうした企業にも注目を向けてみてはいかがでしょうか。
※1 無返品取引
玩具は書籍とは異なり、一旦問屋や小売店がメーカーから商品を買取るものの、売れ残りはメーカーに返品できる仕組みとなっていましたが、バンダイはこの仕組みを変えようと無返品取引制度を打ち出しますが、玩具流通業界からのボイコットを受けて撤回することになりました。
※2 株式会社サンライズは、バンダイナムコグループ内の再編に伴い、2022年4月のバンダイナムコフィルムワークスに組み込まれたために法人格ではなくなり、その名称は商標・ブランド名として継続されることになりました。
※3 WHOOPEEには、『七つの大罪』のホーク役や『3月のライオン』の川本モモ役などで知られる久野美咲が在籍していました。
※4 幹事会社
製作委員会の構成企業の中で、他の構成会社への連絡や、出資金の管理、作品のライセンス窓口などを担う企業で、一般的には出資額比率が一番大きい企業や企画の発起企業が担当することが一般的で、出版社やアニメ企画・配給会社、バンダイナムコグループのような規模の大きな企業などが務めることが多くなっています。
アニメのスポンサー
① アニメへの出資の狙い
② スポンサーと作品の関わり
③ 出資企業の変化
④ 出資・座組のパターン
⑤ 出資意図の変容
⑥ テレビ局主体で製作されるアニメ
⑦ 現在も残る一社提供
⑧ 玩具メーカーの明暗 前編
⑧ 玩具メーカーの明暗 後編