アニメのスポンサー⑦ 現在も残る一社提供

アニメの未来を考える

前回は、テレビ局主体の製作スタイルについて取り上げましたが、その他に、令和になった現在でも、アニメの黎明期にあった一社提供というスタイルが存在している例を紹介します。

<一社提供アニメの例>
『カードファイト!! ヴァンガード』シリーズ 提供:ブシロード
『神撃のバハムート GENESIS』(2014年) 提供:Cygames
『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』(2017年) 提供:Cygames
『ポプテピピック』(2018年) 提供:キングレコード
『ぶらどらぶ』(2021年) 提供:いちごアニメーション(いちご株式会社の子会社)

『カードファイト!! ヴァンガード』シリーズは、言わずと知れたブシロードが手掛けるトレーディングカードゲーム「カードファイト!! ヴァンガード」を宣伝するためのアニメです。
当然ながら、アニメの放送枠で流されるCMは、このトレーディングカードの他、ブシロードグループが手掛けるコンテンツのものだけとなっています。


『神撃のバハムート GENESIS』『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』は、Cygamesが開発・運営するソーシャルゲーム『神撃のバハムート』の世界観をベースにしたアニメで、まさにゲームのプロモーションアニメとなっています。
Cygamesは、『神撃のバハムート』以外にも多数のゲーム作品を運営しており、単独製作ではないものの、多数の自社ゲーム作品のアニメ化を手掛けています。
その後、2015年にはアニメ事業部を設立して、翌2016年にはCygamesPicturesというアニメ制作会社を設立。背景美術専門の制作会社・草薙を完全子会社化するなどアニメ事業に乗り出し、さらに講談社との業務提携して「サイコミ」というコミックスレーベルを立ち上げるなど、メディアミックスによる相乗効果でゲーム事業の利益の最大化のための体制を整えていきました。
その結果がメディアミックスコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』の大ヒットに繋がります。
近年では、『ゾンビランドサガ』(2018年放送)のようにゲームのアニメ化ではない、オリジナルアニメでのヒット作までも生み出しています(『ウマ娘』もゲームではなくアニメ先行での作品でした)。
また、Cygamesは、サイバーエージェントとの共同出資による「CA-Cygamesアニメファンド」なるアニメ作品への投資組合も作っており、今ではアニメ業界の一角を担う存在となっています。


『ポプテピピック』は、音楽会社のキングレコードによる単独出資で製作されています。
原作マンガは竹書房であって、キングレコードとは無関係な作品ですが、原作を見て可能性を感じたキングレコードのプロデューサーが竹書房に企画を持ちかけたとのこと。
単独出資となったのは、作品自体が複数の作品のパロディを過激な表現で扱うものであることから、責任の所在を明確にする必要があったことが理由に挙げられています。
確かに、製作委員会で複数社が関わった場合、問題が起きた際の処理が非常にややこしいことになることが想像され、そうした事態が起こらないようにと、複数社の意向の合意点を求めて無難な作品作りに収まってしまう可能性がありますから、炎上ギリギリのラインを責めるような強気な作品作りを目指すために、敢えて単独出資に踏み切ったということのようです。


『ぶらどらぶ』は、押井守が総監督・原作・シリーズ構成を務めた吸血鬼×学園コメディ作品ですが、そのスポンサーは、いちごアニメーションという聞き慣れない企業です
こちらはアニメ制作会社ではなく、2019年4月に設立されたばかりのコンテンツの企画・製作会社になります。
親会社のいちご株式会社というのは不動産会社で、いちごアニメーションの代表取締役社長中西穣氏によると、安く買って高く売るという旧来の不動産ビジネスから脱却すべく、所有する不動産の価値を高め、高い賃料収入を安定的に得る形に構築する必要があり、その基盤となるのは集客性の高い街づくりであり、アニメによる地域の活性化に着目したとのこと。
「コンテンツ×不動産」というコンセプトを目指し、まずは自分たちでコンテンツを生み出すところから始めたのだそうです。


この他、5分枠の短編のテレビアニメや、YouTubeなどの無料の動画共有プラットフォームで公開されるタイプのショートアニメは、そもそも個人制作でスポンサーすらないものもありますが、自治体や企業のPRアニメ的なものは、公開自体は無料なので制作費のみの負担で済むということもあって、その多くが一社提供となっています。

近年の例では、YouTubeで公開されたショートアニメ『モモウメ』が、デジタルメディア事業会社の株式会社キュービックがSNSアニメ事業としてスポンサーとなって、株式会社ファニムビがアニメ制作を担当するという形で作られていました※。


最近では、Netflixなどのネット動画配信サービス企業が積極的にアニメに出資するケースが話題となっていますが、Netflix Japanの広報担当への取材記事(2017年10月)によると、アニメ制作会社との契約は基本的にSVOD(定額制動画配信)の独占契約のみと回答を出しています。
プロダクションIGの石川光久社長のインタビュー(2018年3月)によると、Netflix本社とは契約条件が異なるようですが、やはり二次利用の権利は制作会社にあるようです。契約形態は作品や会社ごとに異なるとのことなので、現状では未公開情報や不明な点が多いものの、概ねアニメ制作会社との良好な関係性を築けているように見受けられます。
配信サービス企業の意図は明確で、独占配信によってコンテンツ力を高め、有料会員数と視聴時間数を伸ばすことを目的に、優良なアニメコンテンツの確保が狙いなので、今後もこの方針は継続されるでしょう。

その他、中国の動画共有サイト「bilibili」※の運営会社が、2015年頃から日本のアニメに出資し始め、各作品の製作委員会に名前を連ねることが多くなりました。
これは「bilibili」が日本アニメコンテンツの配信によって成長した経緯もあって、ライセンス取得などを通じて中国国内での日本アニメの配信拡大を狙っての投資というわけです。

このように、現在は、スポンサーの業種やその意図、国籍までもが多様化しており、出資という側面で見ても複雑怪奇な様相を呈し、アニメ業界の難解さの要因の一つとなっています。


※正確には、ブシロードとブシロードミュージックの提供

※いちご株式会社:「いちご」は苺ではなく一期一会が由来とのこと。
https://www.ichigo.gr.jp/

※2021年8月から、ファニムビから制作会社が変更されています。

※「bilibili」の名前は、日本のアニメ『とある魔術の禁書目録』の登場キャラクターで、中国でも人気の高い御坂美琴が、主人公の上条当麻から「ビリビリ中学生」や「ビリビリ」と呼ばれていたことに由来。


アニメのスポンサー
① アニメへの出資の狙い
② スポンサーと作品の関わり
③ 出資企業の変化
④ 出資・座組のパターン
⑤ 出資意図の変容
⑥ テレビ局主体で製作されるアニメ
⑦ 現在も残る一社提供
⑧ 玩具メーカーの明暗 前編
⑧ 玩具メーカーの明暗 後編