アニメのスポンサー④ 出資・座組のパターン

アニメの未来を考える

前回は、一社提供時代から、製作委員会という新しい製作方式が生まれ、アニメのビジネス構造が複雑化してきていることをお話しましたが、今回はそのパターンについて取り上げます。

アニメも含めてテレビ業界は、総じてお金の流れがとてもややこしいのですが、まずは基本的なところからおさらいしていきましょう。
スポンサー企業は、テレビ局に広告の放送料を支払って、番組枠を購入します。テレビ局は、その放送料のお金を使って、自社でテレビ番組を制作するか、制作会社と一緒に作るか、制作会社に外注するか、あるいは既存の番組(海外の番組や過去の番組など)を購入するなどして、番組と共にCMを放送します。

スポンサーは広告の放送料を支払っているだけなので、内容に口出しすることはあっても、基本的に番組(アニメ作品)の権利を持ちません。
テレビ局は、自社製作の場合は権利を持ちますが、外注の場合は契約次第で、テレビ局が権利も買い上げてしまうパターンもあれば、権利を制作会社が所有する場合や、共同所有の場合もあります。

『サザエさん』(従来のスポンサー体制)の場合
『サザエさん』は、1969年(昭和44年)10月に放送が始まったギネス世界記録を持つ長寿アニメ番組で、まさに国民的アニメと言って良い程の作品です。
放送開始時は東芝単独スポンサーで、いわゆる一社提供だったのですが、1987年10月からは、東芝を筆頭スポンサーに複数社提供になりました。2018年3月に東芝がスポンサーを降板して以降は、Amazonや高須クリニックなどが後継になるのではと取り沙汰されていましたが、最終的に日産自動車が筆頭スポンサー※となり、自動車を所有していない磯野家にもついにマイカーが登場するのでないかと話題になりました。 ちなみに、メディアの記事によるとスポンサー料は1社月7000万円、年間8億円程度とのことです※。


製作委員会の場合
製作委員会方式の場合はこれとは異なり、出資企業からお金を集めて、制作会社にアニメ制作を発注する一方、テレビ局の放送枠を購入し、作品を放送することによって、その作品のファンを生み出し、このファンを相手に自社の商品を売るというビジネスモデルになっています。
契約によって、テレビ局が番組(アニメ作品)の放送権料を払う場合と、放送をしたい側(製作委員会)がテレビ局に放送料を払う場合があって、お金の流れの方向も一定ではありません。

アニメを含むテレビ番組には、「持込番組」と「購入番組」がありますが、製作委員会方式のアニメの多くは「持込番組」で、テレビ局に放送料を支払って、番組枠を購入します。これは、アニメを放送して自社製品の販売促進に繋げたいという意図から製作委員会側に放送してもらいたいという要望があるためです。
ところが、『鬼滅の刃』のような人気番組の場合には、放送することによって視聴率が上がり、そのCM枠が高く売れるという理由から、テレビ局側に放送したいという要望があるため、放送権料をアニメ著作権所有者(製作委員会)に支払って放送させてもらうという逆転現象が起こります。
第1期放送時には、知名度も低く、テレビ局(TOKYO MX)にお金を支払って放送してもらっていたものが、一大ブームを巻き起こした後の第2期(遊郭篇)では、各テレビ局が放送権を求め、交渉の末にフジテレビがこれを獲得し、放送権料を支払って放送させてもらったわけです。

このように一つの作品の第1期と第2期においてさえ、お金の流れや契約が異なるくらいで、アニメのビジネスモデルや参加企業の構造なども一様ではなく、作品ごとに千差万別のパターンがあることを考慮する必要があります。

「アニメビジネスは…」と一括りにして語ることが難しいというのは、このような構造の複雑さがあるためで、アニメビジネスの諸問題に切り込む障害の一つともなっています。


※2018年4月時点では、日産自動車が筆頭スポンサーで、その他のスポンサーとして、日清食品、花王、アース製薬、宝くじ(みずほ銀行)、味の素、大和ハウス、Amazon、こくみん共済が参加していました。

※Business Journal  2018年3月1日「アマゾン、『サザエさん』スポンサー契約の「本当の狙い」…費用は年8億円?」
https://biz-journal.jp/2018/03/post_22489.html

※日刊ゲンダイ 2017年3月4日「スポンサー料8億円とも…東芝「サザエさん」降板は本当か」https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/200728


アニメのスポンサー
① アニメへの出資の狙い
② スポンサーと作品の関わり
③ 出資企業の変化
④ 出資・座組のパターン
⑤ 出資意図の変容
⑥ テレビ局主体で製作されるアニメ
⑦ 現在も残る一社提供
⑧ 玩具メーカーの明暗 前編
⑧ 玩具メーカーの明暗 後編