昭和・平成アニメのトンデモ事件簿② 未完成のまま映画公開『ガンドレス』前編

アニメの解説書

『ガンドレス』は、1999年3月20日に公開された劇場版アニメです。
この作品は、『ロスト・ユニバース』で起きた「ヤシガニ事件」に匹敵する作画崩壊の事例として、現在でも語り継がれている作品です。
テレビで放送された『ロスト・ユニバース』とは異なり、視聴者が限られる劇場版であったためにあまり一般的に情報が拡散されず、知る人ぞ知るという事件ですが、作画崩壊の程度は『ロスト・ユニバース』を遥かに凌駕するアニメ史上最低品質の出来であり、これを超える作品は今に至っても出現していません。

本作品は、日活、東映、パナソニックデジタルコンテンツ、イヨンズコーポレーション、インナーブレイン、スターフィッシュの6社による出資で製作され、日活が幹事会社となって製作委員会が作られました。

1995年に公開された押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が世界的にも評価されて大ヒットとなり、本作品はこれと同じ路線を狙いとしていたようで、「新進クリエイター集団・天沢彰<ORCA>×攻殻機動隊の士郎正宗が挑む華麗なる映像体験」と題し、天沢彰の原作に士郎正宗が設定協力(キャラクター・メカデザイン原案)、監督は谷田部勝義という布陣で、美少女×銃・メカアクションというコンセプトという、当時としては、売れ筋の要素を詰め込んだような企画です。

西暦2100年、自治権を持つ国際都市となり、首都東京を上回る繁栄を遂げた横浜を舞台に、多発する凶悪犯罪によって悪化した治安を回復すべく市の要請を受けて創設された警備会社エンジェル・アームズ社に所属する5人の美少女が、パワードスーツに身を包み、テロリストたちとの戦いに挑んでいく、というお話で、『攻殻機動隊』の公安9課のメンバーを全員美少女に変えたものといった印象です。

内容的には多少安直な印象があるものの、上記だけ見れば、一見失敗の要素はなさそうに思われますが、外側からは伺い知れない制作体制の方には、かなり問題があったようです。

制作予算の総額は4億円でしたが、アニメ制作を請け負ったアニメ制作会社のサンクチュアリは、これを2億円弱という金額で下請け会社のスタジオジュニオに丸投げし、スタジオジュニオも作画を海外の孫請けスタジオに発注してしまったのです。
そんな体制でよい作品が作れるはずもなく、杜撰な製作管理は破綻して、公開直前になっても完成フィルムが用意できない有様で、あろうことか、未完成のままで劇場公開という前代未聞の上映を断行したのです。

配給会社の東映は、公開の3月初旬に製作が中断しているとの情報が入っていたにも関わらず何ら対策を講じず、映画が未完成である事態を知ったのが公開日の3日前の3月17日。劇場管理部長が試写を見て事態の深刻さを把握したのがその翌日で、急ぎ製作委員会の幹事を務める日活と協議した結果、上映中止による混乱を鑑みて、有料鑑賞者に後日完成版ビデオを送付することで劇場公開することを決定。当初の予定通り、直営館21館に契約館19館の40館編成での上映を開始し、劇場側への補償のため、前売り券を日活に買い上げてもらうなどの対処をした上で、わずか2週間での上映中止としました。

実際の映像では、全体的な作画のクオリティが低いだけではなく、動画の枚数が足りていないためにキャラクターがまともに動いていなかったり、通常背景の上に、単色でベタ塗りされて線画のみのキャラクターやメカが動くカットが数カ所あり、編集作業も完了していないために、効果音が入っていなかったり、入っていてもタイミングが合っておらず、キャラクターのセリフも絵からズレているなど、誰が見ても一目で未完成だとわかるものでした。

この前代未聞の珍事はマスコミでも取り上げられ、一部のアニメファンの間ではネタにされて盛り上がり、逆にどれ程酷いのか確かめようと劇場に足を運んだり、ビデオカメラで画面を隠し撮りする者まで出たといいます。
後に発売された完成版DVDには、この劇場公開時の未完成版も収録されたため、当時劇場で目撃できなかった人たちの多くも、このアニメ史上に残る迷作を鑑賞することができました。

次回は、この未完成アニメ劇場公開に至った経緯や要因について解説していきます。