打切アニメ列伝⑬ その不条理ギャグでスポンサーがゼロになった『ボボボーボ・ボーボボ』

アニメの解説書

『ボボボーボ・ボーボボ』
2003年11月8日~2005年10月29日/テレビ朝日/全76話
原作:澤井啓夫/監督:芝田浩樹/制作:東映アニメーション

原作は、集英社「週刊少年ジャンプ」に連載されていた不条理ギャグバトルマンガで、累計発行部数は700万部を突破する人気作品です。
ストーリーは、「マルガリータ帝国に支配された西暦300X年の未来、自らの力の顕示のために人類全員を丸坊主にすべく、毛狩り隊を結成して毛刈りを開始した皇帝の野望を打ち砕くべく、鼻毛真拳の使い手であるボボボーボ・ボーボボは、人類の髪の毛の自由と平和を守るために戦う」というもの。
通常のストーリー展開のシーンや戦闘シーンでも、とにかくギャグを強引にねじ込むスタイルで、前後の関係を無視して突然ナンセンスなコントやギャグを展開しはじめるため、ストーリーの合間にギャグが差し挟まれるというよりは、ギャグの合間に少しストーリーがあったり、戦闘をしてみたりといった印象の方が大きい程です。

主人公が鼻毛を使った拳法を使うといった下品さも然ることながら、突然意味もなく理不尽に暴力を振るうことを笑いにしたり、非人道的な内容も多く、子供を対象としたゴールデンタイムでの放送とあって、原作の過激な表現や暴力などは、アニメ化にあたって大分改変されています。
具体的には、原作の「マルハーゲ帝国」の名称を「マルガリータ帝国」に変更したり、殴る蹴るのツッコミを小道具によるツッコミに変えたり、出血や喫煙の他、犯罪を行ったり食べ物を粗末にする描写も変更、まきぐそ頭のキャラクターであるソフトンの頭の色が茶色からピンクに変更(「うんこ」呼ばわりされることも変更)、「死ね」や「殺す」といった表現を使わないといった具合で、無茶苦茶をやっていて、そういうものとは無縁だと思われがちな『ボボボーボ・ボーボボ』でも、そういったコンプライアンス的な配慮がされています。
また、世代的な観点から子供に理解できなさそうな芸能ネタや、版権関係のネタの多くも差し変えられています。

多少角を丸くするような調整はあったものの、根幹の部分は変わっていませんし、ボボボーボ・ボーボボ役の子安武人や首領パッチ役の小野坂昌也の怪演もあって、今でも多くのファンからの支持を受けているアニメ版『ボボボーボ・ボーボボ』ですが、順風満帆とはいかず、最終的には道半ばでの終了の憂き目に遭ってしまいました。

放送は、全国ネットのゴールデン枠(土曜19:28~20:00)でスタートしますが、第33話からはローカル枠(土曜10:45~11:15)へ移動となり放送局も7局にまで減ってしまい、さらに第52話以降はテレビ朝日1局放送のみとなり、最終的に第76話で放送終了となりました。
ストーリーは闇皇帝編の途中で終わってしまい、闇皇帝であるハイドレートを倒すところまでたどり着きませんでした。いわゆる打ち切りというわけです。

ゴールデン枠から移動となったのは、前番組のアニメ『釣りバカ日誌』の視聴率が良かったので、それと比較されて視聴率が振るわないと判断されてしまったことが理由の一つとして挙げられています。
もう一点は、番組批判の声です。
この手の作品の常で、「低俗番組」のレッテルを貼られ、PTA調査で「子供たちに見せたくない番組」の上位にランクインされてしまったり、番組審議会にて審議の対象ともなっていましたから、実際に苦情を受け取った放送局などもあり、ローカル枠への降格時に放送を打ち切った局が多数出たのも、そういう背景があってのことであろうと考えられます。

『ボボボーボ・ボーボボ』の前(土曜19:00~19:28)に放送していた『クレヨンしんちゃん』※も、今では国民的アニメと呼ばれるまでになっていますが、当初は『ボボボーボ・ボーボボ』と同じように「子どもに見せたくないテレビ番組ランキング」の1位になる程に批判の目を向けられていました。批判のある一方で人気や視聴率も高く、その後、母親を下の名前で呼び捨てしたり、股間にゾウを描いたり、人前で生の尻を出す行為を封印するなど、問題視されていた点を改善させることで誰にでも受入れてもらえるようなラインを探っていった結果、現在の国民的アニメの地位を得るまでに至ったわけです。
しかし、『ボボボーボ・ボーボボ』の場合は、元々出来る限りの改善を取り組んだ上で放送が開始されていた上、問題視されている部分は作品の根幹部分であるので、取り除くことも改変することもできません。下品さをウリに人気を得た作品が上品になったら、そこに面白さは残らず、作中で言うところの「ハジケ」を無くした、さぞ白々しい作品になっていたことでしょう。
制作側も軌道修正はできないと判断したのか、ローカル枠降格となった後も作風を変えず、打ち切りまでそのスタイルを貫き通したのですから、潔いと言うべきか、肝が据わっていると言うべきか、制作サイドの心意気を感じます。

驚くべきことに、テレビ朝日1局のみの放送となった2005年4月から10月までの7か月間は、スポンサーが1社もつかないパーティシペーション番組※として放送していたそうです。
批判はあっても視聴率が高かったらそこまでには落ち込まなかったかもしれませんが、視聴率もそれ程高くなかったことで、敢えてそんなところへCMを出そうという企業が出てこなかったという事なのかもしれません。

『ボボボーボ・ボーボボ』の製作はテレビ朝日と東映アニメーションですから、おそらく両社負担で継続されたのでしょう。
関係者の証言が表に出てこないので事情は定かではありませんが、状況から見れば、もっと早い段階で打ち切りとなってもおかしくないことから、プロデュサーなり誰かしらのふんばりがあって、どうにか放送を引きのばしていたものと思われます。そこには何か勝算があったのかもしれませんが、結果だけ見れば、やはり事態は好転させるまでには至らず、最終的には打ち切りとなってしまったわけです。

そんな『ボボボーボ・ボーボボ』ですが、2022年4月4日からケーブルテレビのJ:テレ「アニおび」枠にて再放送が開始し、Twitterでもトレンド入りするなど話題になりました。
制作サイドが厳しい状況の中でも、スタイルを変えずに前のめりに倒れるまで走り続けたのは無駄にはならず、確実にファンの心を捉えていたようで、現在でもSNSなどでボーボボ関連の話題やネタは尽きません。


※『クレヨンしんちゃん』は、2002年4月20日~2004年10月16日の間、土曜19:00~19:30枠(2003年10月以降は2分切り上げて19:28までの放送に変更)で放送しており、当時は『クレヨンしんちゃん』の後に『ボボボーボ・ボーボボ』が放送されていました。

※パーティシペーション番組 提供クレジットの表示がない代わりに、番組制作費を負担することなくCMを放送できる比較的安価な番組枠で、時間別スポットランクが「C」の時間帯(早朝や深夜など)に多く採用されており、意図せず番組にスポンサーがつかなかった場合もこれに含まれます。アニメの場合、『おぼっちゃまくん』(1989~1992年)という先例が挙げられます。