声優の解説書 その⑥ キャスティング事情1 オーディションの募集
声優という職業がかつてない程に市民権を得て、アニメファン以外にもその存在が広く知られるようになった現在でも、声優の仕事現場は、世間の人の目に触れることのないアフレコの収録スタジオにあるため、その実態を知る人は少ないでしょう。
今回は普段伺い知れない声優の仕組みの一端として、配役決定の過程について解説したいと思います。
みなさんは、アニメのキャラクターを演じたり、海外映画の吹き替えをする声優について、誰がどのキャラクターを担当するのかを、どのような方法で決めているかご存知でしょうか?
まずは基本的な用語についてのおさらいになりますが、キャラクターの声を演じる職業が「声優」であり、配役のことは「キャスト」、配役を決めることは「キャスティング」と呼ばれています。
キャスティング方法にはいくつか種類がありますが、アニメ作品の場合は、オーディションが基本です。
まず、アニメ作品の製作企画が決定すると、音響制作会社※を通じて、各声優事務所に製作されることになったアニメの概要と共にオーディションのお知らせが届きます。
お知らせは全ての事務所に届くというものではなく、大手の事務所や付き合いが深い事務所などに限定されるので、声優側にとっては、所属する事務所の大小などでチャンスに格差が生まれることになります。事務所に所属しないフリーの声優は、さらにチャンスが少ないので、連絡を貰えるような人間関係を作るなどの営業努力が必要になります。
お知らせには、オーディションの開催要項と共に、募集される作品の概要や、キャラクターの設定などの情報が含まれています。また、オーディションの開催側にも受入可能なキャパがあって、想定以上の人数が参加されても困るので、通常は各事務所ごとに何人までという指定が入っています。
例えば、メインキャラ3人のオーディションを開催するとして、事務所10社を対象に、各5人までという条件で募集通知を送った場合、150人程度が参加する規模のオーディションになるわけです。
オーディション募集の通知を貰った事務所側では、所属声優の中から、募集概要に記載されているキャラ設定に適した人材を選出することになります。
その時々で変わりますが、例えば、指定人数枠が5人だったとして、同じような系統のキャラを演じた実績があって手堅く狙えるベテラン声優を2人、実績は少ないが人気が上がり出した注目株の若手声優を2人、端役経験しかなく無名ではあるものの今後が期待でき、たとえ落ちてもオーディション自体が経験になるような新人声優を1人といったような形で事務所のマネージャーが選出します。
事務所としても、採用されなければ収益に繋がらず機会損失になるわけですから、後述する書類選考などで簡単に落とされてしまわないような声優を選ぶ必要があり、重要業務として慎重に執り行われます。
ほとんどのオーディションは、このように業界内だけで通知されて一般人の知らない所で開催されるのですが、極稀に一般公募で開催されるオーディションというものもあります。
その場合は、事務所への通知とは別に、作品の公式サイトやネットのオーディション情報サイト、雑誌(声優専門誌・公募ガイド)、声優養成所、専門学校などを通じて募集要項が広く公開されます。
最近ですと、2021年に放送されたテレビアニメ『サクガン』のヒロイン役のオーディションが一般公募にて行われ、約1,400名の応募者の中から、現役大学生で事務所未所属の小畑かのん(現・天希かのん)が選出されました。
こちらはProject ANIMA※による公開声優オーディションということで、かなり規模が大きなものとなっていました。
https://joqr.co.jp/project_anima_audition/apply
次回は、オーディションの内容について解説していきます。
声優の解説書 その①
声優の歴史 第一章 ラジオ時代
声優の歴史 第ニ章 テレビ時代
声優の歴史 第三章 声優事務所と養成機関の拡大
声優の歴史 第四章 声優ブームの到来
声優の解説書 その② 声優は日本だけの特殊な職業
声優の解説書 その③ 声優のお仕事
声優の解説書 その④ 声優の労働闘争
声優の解説書 その⑤ 声優の報酬システム
声優の解説書 その⑥
キャスティング事情1 オーディションの募集
キャスティング事情2 オーディション内容
キャスティング事情3 オーディション以外
声優の解説書 その⑦
アフレコ収録1 アフレコとは?
アフレコ収録2 プレスコ
アフレコ収録3 レギュラー番組・別録り