声優の解説書 その⑥ キャスティング事情3 オーディション以外
前回は、オーディションの内容について取り上げましたが、今回はオーディション以外のキャスティングについて解説します。
指名オファー
オーディション以外のキャスティング方法の一つとして、「指名オファー」というものがありますが、これは、製作委員会やプロデューサーが、プロモーションなどを考慮して直接出演を依頼するというもので、劇場版アニメで俳優やお笑い芸人がキャスティングされる場合がこれに該当します。
原作者や監督から、この人でなくてはと見込まれてオファーされる場合もあり、2019年放送のテレビアニメ『アフリカのサラリーマン』では、主役3名を演じた大塚明夫、津田健次郎、下野紘が指名オファーだったことが公にされています。
スポンサー枠
スポンサーや系列会社によっては、特定の事務所の声優が優先的に採用される場合もあります。
例えば、ブシロードのトレーディングカードゲームを原作としたテレビアニメ『カードファイト!! ヴァンガード』シリーズでは、スポンサーでもあるブシロードグループの声優事務所・響に所属する声優が多くキャスティングされています。
キャスティング協力
作品によっては、特定の声優事務所にキャスティング協力を依頼する場合があります。
この「キャスティング協力」というのは、作品内の全てのキャラクターをオーディションで決定するのは手間がかかるため、メインキャラを除いたそれ程重要ではないキャラに関しては、優秀なマネージャーがいる事務所にキャスティングを任せるというものです。
キャスティング協力を依頼された事務所では、各キャラに合致する声優を選出し、収録スケジュールなどの調整も行います。自社の所属声優に合致する声優がいない場合は、他事務所の声優やフリーの声優に依頼することもありますが、通常は自社に所属する声優を優先的に採用することになります。
このように、オーディション以外でのキャスティングもあるわけですが、これらは実例の少ない希なケースであり、アニメの声優キャスティングはあくまでオーディションが基本となっています。
日本のテレビドラマや映画の場合、プロデューサーたちがキャストを指名して出演交渉をする場合が多いようです。
これは、日本の特殊な事情として、キャスティングによって視聴率や興行収益が大きく影響を受けるため、高視聴率や観客動員を期待できる俳優やアイドルなどが所属する大手芸能事務所がキャスティングの主導権を握る構図があるためです。
このことから、アニメ作品においては製作側主導のオーディション形式が主流となっていることを特殊に思う人もいるかもしれませんが、海外のドラマや映画でのキャスティングはオーディション形式が主流ですし、日本国内でも、演劇やミュージカル、オペラ、バレエなどの舞台演劇ではオーディションで出演者が決められていますから、日本のテレビドラマや映画の方が特殊なのです。
アニメ声優の質を担保してきた要因として、こうした伝統的なオーディション形式によるキャスティングがその一翼を担っている側面があり、今後、たとえネットを介したWEBオーディションのように実施方法の変化があったとしても、オーディションによるキャストの選出方法自体は変わらず継承され続けるものと思われます。
声優の解説書 その①
声優の歴史 第一章 ラジオ時代
声優の歴史 第ニ章 テレビ時代
声優の歴史 第三章 声優事務所と養成機関の拡大
声優の歴史 第四章 声優ブームの到来
声優の解説書 その② 声優は日本だけの特殊な職業
声優の解説書 その③ 声優のお仕事
声優の解説書 その④ 声優の労働闘争
声優の解説書 その⑤ 声優の報酬システム
声優の解説書 その⑥
キャスティング事情1 オーディションの募集
キャスティング事情2 オーディション内容
キャスティング事情3 オーディション以外
声優の解説書 その⑦
アフレコ収録1 アフレコとは?
アフレコ収録2 プレスコ
アフレコ収録3 レギュラー番組・別録り