アニメソング(アニソン)の歴史 ⑰ アニメソングの課題

アニメソングは、国内で市民権を得、海外でも高く評価され、世界中で多くのファンを獲得しているコンテンツであるにもかかわらず、アーカイブに課題を持っています。

日本はアーカイブ事業や配信事業において、海外に比べて遅れている面があります。
海外では、映画でも音楽でも、古くから愛好家たちがアーカイブを記録・保存し、現在でも視聴できる環境を整えてきた伝統があります。
ネット時代になっても、映画のデータベースであるIMDbや、音楽のデータベースDiscogsのような作品を網羅したサイトがあり、これと配信が連結して、過去の作品でも見たり聴いたりすることができます。

ところが、アニメに関しては、文化庁のメディア芸術データベースや動画協会のアニメ大全などはありますが、そこで閲覧できるのはタイトルと放送時期などの一部の情報のみで、index(目次)的なものに過ぎません。
作品の詳細や配信、販売などの外部サイトとの連携もないため、視聴に繋げることができず、ユーザーは自分で各配信サービスを捜し歩いて目的の作品を見つけるしかない状態です。

Wikipediaにもアニメ情報がありますし、海外にはMyAnimeListaniDBといったアニメのデータベースサイトもありますが、そもそも作品自体がアーカイブされていないので、過去の作品は視聴ができないのです。
海外では最新作だけではなく、過去の作品への注目度も高くなってきていますが、日本では作品のフィルムや音源などについての記録・保存の必要性の認識が低かったため、最新のアニメ作品や楽曲に関しては配信にのっているものの、過去の作品は見られない、聞けないという状態が解消されないまま現在まで来てしまったというのが実情です。

そのため、市場がサブスクリプションサービス中心になりつつある時代の変化に対し、アーカイブが充実している海外の映画や音楽などは対応してきているのに、日本ではそれが圧倒的に遅れてしまっています。
アニメ以外の映画や音楽は海外市場に商品がちゃんと並べられているのに、日本のアニメ作品やアニソンは、商品を満足に店頭に並べることさえできていないというわけです。

古くてマイナーな作品がどれほど配信にあるものか、筆者が自分のプレイリストに入れてスマホで良く聴いている楽曲の中から、ちょっぴり古くてマイナーなものをランダムにピックアップして、実験的に配信サービスで探してみたいと思います。

ときめきトゥナイト』(1982~1983年・日本テレビ)のエンディング曲:加茂晴美「Super Love Lotion」
Apple Music:なし
Amazon Music:なし
Spotify:なし
AWA:なし
YouTube Music:なし
LINE MUSIC:なし

天空戦記シュラト』(1989~1990年・テレビ東京)のオープニング曲:清水咲斗子「SHINING SOUL」
Apple Music:なし
Amazon Music:なし
Spotify:なし
AWA:なし
YouTube Music:あり
LINE MUSIC:なし

EAT-MAN』(1997年・テレビ東京)のエンディング曲:FIELDS「WALK THIS WAY」
Apple Music:なし
Amazon Music:なし
Spotify:なし
AWA:なし
YouTube Music:なし
LINE MUSIC:なし

SHADOW SKILL -影技-』(1998年・テレビ東京)のオープニング曲:KASUMI「born Legend」
Apple Music:なし
Amazon Music:なし
Spotify:なし
AWA:なし
YouTube Music:あり
LINE MUSIC:なし

結果はご覧の通りです。
挿入歌やキャラクターソングなど、もっとマイナーな曲もありますが、普通にキー局でテレビ放送されていたアニメのオープニング・エンディング曲ですらこんな状態です。
実は他にもいろいろ試してみましたが、当然ながら現役で活躍しているアーティストの古い楽曲や、大手アニメ制作会社の過去の作品などはカバーされていますが、すでに引退してしまっているアーティストだったり、廃業した制作会社の作品などは権利所得が難しいためか、見つからないものが多く、これらは解消が難しい問題かと思われます。

思い出の曲を探しても、CDやレコードはすでに廃版で配信にものっていないとなると、正規の手段では聴く方法がありません。
せっかくサブスク時代で聴き放題なのに聴きたい曲が無いなんて、実に残念なことです。

願わくば、大手レコード会社などが共同出資してアーカイブ事業会社を作り、こうした埋もれたアニメソングのサルベージを行って、日本のコンテンツ資産として配信にのせるようなことをしていただきたいところです。

また、たとえアニソンの全てをアーカイブして配信にのせたとしても、数万曲に及ぶ楽曲から好みの曲を見つけるのはハードルが高過ぎます。
サルベージしたコンテンツ資産を活かすためには、楽曲のアーカイブと同時に、お気に入りの曲と同じ歌手や作曲家の楽曲はどれか、どの曲が素晴らしいのか、関連曲の検索や曲のレビューなども必要となるでしょう。
現状では、アニメソングに関するデータベース化、旧作品の配信、レビューに関しては、どれも遅れていると言わざるを得ません。
後の世のクリエイターが、過去の楽曲を聞いて学び、新しい楽曲を生み出す糧とできるよう、これらの整備が進んでくることを願います。


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アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題