アニメソング(アニソン)の歴史 ⑪ キャラクターソングの歴史 後編
キャラクターソングのヒット作「乱馬的企画音盤」
キャラクターソングを語る上で、外せない作品がいくつかあります。
その一つは、1989年放送の格闘ラブコメ作品『らんま1/2 熱闘編』の第2期エンディングで使用された楽曲「乱馬ダ☆RANMA」です。
作品のメインキャラクターたち8人が、「乱馬的歌劇団御一行様」名義でキャラクターの個性を活かした共演歌を披露したものですが、参加メンバーは今から見ると奇跡とも言える程に豪華過ぎる面々です。
<乱馬的歌劇団御一行様>※1
山口勝平(早乙女乱馬):『ONE PIECE』ウソップ、『犬夜叉』犬夜叉、『名探偵コナン』工藤新一
林原めぐみ(女らんま):『新世紀エヴァンゲリオン』綾波レイ、『名探偵コナン』灰原哀
日髙のり子(天道あかね):『タッチ』浅倉南、『犬夜叉』桔梗、『名探偵コナン』世良真純
佐久間レイ(シャンプー):『それいけ!アンパンマン』バタコ、『おねがいマイメロディ』マイメロデ
山寺宏一(響良牙):『新世紀エヴァンゲリオン』加持リョウジ、『ルパン三世』銭形警部
高山みなみ(天道なびき):『名探偵コナン』江戸川コナン、『ミスター味っ子』味吉陽一
井上喜久子(天道かすみ):『おねがい☆ティーチャー』風見みずほ、『ああっ女神さまっ』ベルダンディー
緒方賢一(早乙女玄馬):『名探偵コナン』阿笠博士、『忍者ハットリくん』獅子丸
大林隆介(天道早雲):『機動警察パトレイバー』後藤喜一
鈴置洋孝(九能帯刀):『機動戦士ガンダム』ブライト・ノア、『キャプテン翼』日向小次郎
島津冴子(九能小太刀):『うる星やつら』三宅しのぶ、『機動戦士Ζガンダム』フォウ・ムラサメ
関俊彦(ムース):『鬼滅の刃』鬼舞辻無惨、『お〜い!竜馬』坂本竜馬
麻生美代子(コロン):『サザエさん』磯野フネ
永井一郎(八宝斎):『サザエさん』磯野波平、『うる星やつら』錯乱坊、『ドラゴンボール』カリン様
「乱馬ダ☆RANMA」は、当時のテレビアニメのエンディング曲としては異例のオリコン28位を獲得する程の好評を博した楽曲で、これに味を占めたのか、『らんま1/2 熱闘編』では次々にキャラクター共演による企画音盤を出していき、さらにはメインキャラクターを演じる5人の女性声優(林原めぐみ、日髙のり子、佐久間レイ、高山みなみ、井上喜久子)によるユニットDoCo※2まで登場しました。
<乱馬的企画音盤(キャラクターソングアルバム)>
・らんま1/2 熱闘歌合戦:ドラマ仕立てでキャラたちが歌合戦をするセリフ+楽曲
・らんま1/2 歌暦:正月やバレンタインなど各月をテーマにした12曲
・らんま1/2 DoCoファースト:女性声優ユニットによる楽曲
・格闘歌かるた:ドラマ仕立てで、かるたの枚数45曲入のセリフ+ショート楽曲
・らんま1/2 DoCo Second:女性声優ユニットによる楽曲
・らんま1/2 DoCoボイステープ「超無差別記者会見」:天道三姉妹に女らんま、シャンプーが「DoCo」を結成したという設定での記者会見ドラマCD
・らんま1/2おか持ち特選:猫飯店のメニューを列挙した歌詞のメニューソング+おまけ
『らんま1/2 熱闘編』は、人気は高かったものの、ロボット玩具や変身アイテムのような商品を作ることが出来ず、本来であれば商品展開が難しい作品であったのですが、この企画音盤という展開は大いに成功し、こうしたロボットや変身アイテムが登場しない作品であっても充分に商売に結び付けることができることを証明してみせた好例となりました。
キャラクターソングで大成功した『サクラ大戦』
キャラクターソングでは、『サクラ大戦』シリーズも忘れてはいけません。
1996年に第1作がセガ・エンタープライゼスから発売され、シリーズ累計450万本も売り上げた人気ゲームで、アニメや舞台、ドラマCDなどの様々に展開されたメディアミックス作品です。
大正時代※3を舞台に、表向きは舞台女優として舞台に立つ帝国歌劇団の少女たちが、裏では秘密部隊の隊員として帝都東京を守るために悪しき魔物と戦うというストーリーであり、歌劇団という設定のために数々の楽曲が制作されました。
特筆すべきは、メインキャラクターを演じる声優たちが、実際に舞台に立ち、自分たちが作中で演じたキャラクターを演じるミュージカル「サクラ大戦 歌謡ショウ」の公演が行われたことです。
その中では、『サクラ大戦』の基本ストーリーに準じたミュージカル仕立ての劇に加え、声優たちが演じるキャラクターが出演する舞台が劇中劇として披露されたり、各キャラクターが持ち歌を唄ったりしました。
『サクラ大戦』では、25年以上に渡ってショーやライブなどの公演が150回以上も開催され、現在の『THE IDOLM@STER』シリーズや『ラブライブ!』シリーズなどの出演声優が実際のライブ活動も行うものや、2.5次元舞台といった作品世界を現実化させるような展開の先駆けであり、『サクラ大戦』での成功がその礎となったと言えるでしょう。
キャラクターソング黄金期の『テニスの王子様』『魔法先生ネギま!』
「週刊少年ジャンプ」連載のマンガを原作とするスポーツアニメ『テニスの王子様』シリーズ(2001年~)は、圧倒的な女性人気を獲得し、映画やOVAなどに展開されると共に、非常に多くのキャラクターソングが生み出されました。
「青酢」、「キャップと瓶」、「青春ソーダ」、「茄子」などのキャラクターユニットが次々に誕生し、各キャラクターごとの楽曲やユニット楽曲、デュエット曲などを合わせると、その数は800曲を超える程です。
同じくマンガ原作のアニメ『魔法先生ネギま!』(2005年)では、また異なる展開が試みられました。
それは、オープニング曲である「ハッピー☆マテリアル」の、歌唱を担当するユニットや曲調アレンジ、歌詞の一部が異なるバージョンを制作し、6か月の放送期間中、月ごとに変更するというものでした。
『魔法先生ネギま!』は、主人公である魔法使いの少年が担任教師をつとめる女子中学2年A組所属の個性的な31人の生徒たちを中心に描かれる物語なのですが、その女の子たちを演じる声優たちが各ユニットを組んで主題歌を唄ったのです。
コンセプトごとに5~6人に分かれて編成されたユニットで1~6月放送分の6曲に、31人全員による最終バージョン、リターンの2曲を加えた全8曲が制作され、それぞれがシングルCD(マキシシングル)としてリリースされ、当時大きな話題となりました。
いずれの曲もオリコンチャート入りする程にヒットし、「ハッピー☆マテリアル」を含む『魔法先生ネギま!』関連のマキシシングルの累計販売枚数が100万枚を突破する程でした。
『サクラ大戦』、『テニスの王子様』、『魔法先生ネギま!』という大きなヒットを生んだ成功例により、アニメにおけるキャラクターソングの存在は市民権を得て定番化し、この後のアイドルアニメの登場でさらに進化・発展していくことになりました。
次回に続く。
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※1 その後の企画音盤ではメンバーがさらに増えていき、鶴ひろみ(久遠寺右京)、山田栄子(紅つばさ)、井上和彦(三千院帝)、松井菜桜子(白鳥あずさ)、千葉繁(猿隠佐助)、三ツ矢雄二(小乃東風)が加わりました。
※2 「DoCo」の名称は、『らんま1/2 熱闘編』のオープニングテーマ「もう泣かないで」を歌った瀬能あづさが所属していたアイドルグループ「CoCo」をもじったもので、Cの次がDであることと、メインキャラの一人である響良牙の定番ゼリフである「ここはどこだ」→「CoCoはDoCoだ」から来ているとされていますが、後者はどうにも後付けっぽい印象です。
※3 『サクラ大戦』の作中では「大正」ではなく「太正」となっており、現実とは異なるパラレルワールド的な世界観となっています。
アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題