アニメソング(アニソン)の歴史 ② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
前回は、アニメソングの基礎的な部分を紹介しましたが、今回はアニメソングの歴史について見ていきたいと思います。
日本初のアニメソングのレコード
童謡をアニメ化したものや劇中歌から発祥し、1963年放送の『鉄腕アトム』で導入された本編前後に流すオープニングとエンディングというものからスタートしたアニメソングですが、現在の隆盛はこの『鉄腕アトム』のレコード化がきっかけとなりました。
レコードの一種であるソノシート※は、朝日ソノラマが商標を獲得し、「音の出る雑誌」という触れ込みで雑誌の付録として販売したところ、音質は劣るものの安価なため、高価なLP盤レコードに手を出せない客層に支持されましたが、その後の競合他社のソノシート事業への参入によって売上が低迷してしまいます。
そこで目をつけたのが、当時大人気だった『鉄腕アトム』の主題歌でした。
『鉄腕アトム』のライセンサーである虫プロダクションは、玩具や菓子など様々な業種・企業に対し、一業種一社を原則に様々商品化権を与えていましたが、まだ音盤(レコード)での申請は受けていませんでした。
当時のレコード会社は大人相手に商売を展開していたため、子供アニメの主題歌などには目もくれておらず、『鉄腕アトム』のレコード化を思いつかなかったのです。
そのため、朝日ソノラマは雑誌ではなく音盤というカテゴリで版権申請することができ、その結果、朝日ソノラマは『鉄腕アトム』の主題歌の独占販売権を持つことになり、莫大な利益を手にします。
<アニソン黎明期のトピックス>
1963年11月に発売された『鉄腕アトム』の主題歌のソノシートの売上が120万部
1966年5月に発売された『オバケのQ太郎』のエンディング曲「オバQ音頭」のレコード売上が200万枚
1966年7月には、日本初となるアニメ番組のサントラ(主題歌・挿入歌収録)LPレコード「ジャングル大帝 ヒット・パレード」が発売
この他、『キャンディ・キャンディ』、『巨人の星』、『アルプスの少女ハイジ』、『フランダースの犬』、『一休さん』などの主題歌レコードが軒並みミリオンセラーを記録しました。
それまで歌謡曲や演歌などの流行歌に比べ、格下だと思われていた子供向けアニメの主題歌が大きな商売になることを知ったレコード会社が、次々とアニメのレコードを発売するようになります。
1970年には、子役の玉川さきこ(後の声優・玉川砂記子)による「ムーミンのテーマ」のカバーが第12回日本レコード大賞の童謡賞を受賞したりもしました。
この頃のアニメの主題歌の多くは、子役やコロムビアゆりかご会、上高田少年合唱団といった少年合唱団を使って、いかにも子供向けの楽曲といったものが多いのも特徴です。
1970年代になると、アニメソング専門の歌手というものが登場し始めます。
ささきいさおや水木一郎などのごく少数の歌手が持ち回りのようにアニメの主題歌を担当する状況が生まれ、このような歌手たちを総じて「アニソン歌手」と呼ぶようになりました。
それはそれで一つの文化を形成しており、良いものではありますが、あまりにも偏り過ぎて、アニメ専門の作曲家、アニメ専門の歌手といった狭い範囲内で選択するような楽曲制作になってしまっていたのも事実です。
<主なアニソン歌手>
ささきいさお(『新造人間キャシャーン』『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』)
子門真人(『科学忍者隊ガッチャマン』『勇者ライディーン』)
串田アキラ(『戦闘メカ ザブングル』『キン肉マン』『トリコ』)
水木一郎(『マジンガーZ』『宇宙の騎士テッカマン』『超電磁ロボ コン・バトラーV』)
前川陽子(『キューティーハニー』『魔女っ子メグちゃん』『あさりちゃん』)
大杉久美子(『アタックNo.1』『エースをねらえ!』『フランダースの犬』『ドラえもん』)
MIO(『聖戦士ダンバイン』『重戦機エルガイム』『星銃士ビスマルク』)
堀江美都子(『超電磁マシーン ボルテスV』『キャンディ・キャンディ』)
<主なアニソン作曲家>
冨田勲(『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『どろろ』)
渡辺宙明(『マジンガーZ』『』)
菊池俊輔(『タイガーマスク』『バビル二世』『新造人間キャシャーン』『ドラゴンボール』)
渡辺岳夫(『巨人の星』『アタックNo.1』『天才バカボン』『キューティーハニー』『フランダースの犬』)
これらの曲は、当時の時代感覚や狙いからすると、その目的や意図に叶った名曲揃いで、どれも子供たちが口ずさめるようなものになっています。
アニメのタイトルを連呼して盛り上げ、これから見るアニメへの高揚感を高めるもの
初めて見る子供たちが作品に入り込めるように、アニメの内容を説明する歌詞になっているもの
各作品のイメージに沿った、カッコいい、カワイイ、楽しいというポジティブさを持たせたもの
エンディングには、少し寂しさを持たせたアンニュイなもの
といった感じで、共通した暗黙のお約束的なものに合わせて作られていたようです。
当時は男の子向けと女の子向けで明確に分けてアニメが作られ始めた時代で、主題歌でも性別での違いが顕著な点が特徴となっています(もちろん男女共にターゲットにした作品があり、どちらにも寄らない中間的な作品もあります)。
代表例を挙げてみましょう。
<男の子向けアニメ>
<女の子向けアニメ>
<男女差のない中間的なアニメ>
アニメソングの範疇には入りませんが、1975年に発売された子門真人の「およげ!たいやきくん」は空前の大ヒットとなり、売上枚数が457.7万枚で、日本でのレコード売上枚数が最も多いシングル盤の最高記録を打ち立てました。
こうしてレコード業界では、大きな利益を生む子供向けのレコードに注力していくことになります。
次回に続く。
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※ ソノシートはレコードの一種で、音質は通常のレコードよりも劣り、片面しかプレス出来ないものの、曲げられる程に薄くて柔らかく、安価で大量生産できる利点がありました。EP盤(直径17cm・収録時間片面5分程)並の価格で、10分程度の長時間再生が可能だったため、 当時は高価で一般人には手が届かないLP盤(直径30cm・収録時間片面30分程)の代用品として普及しました。
日本におけるソノシートは、朝日新聞社の関連会社である株式会社朝日ソノラマ(旧・朝日ソノプレス)が、日本初の「音の出る雑誌」という触れ込みで「月刊朝日ソノラマ」を1959年12月に発売したのが始まりです。
ソノシートは音盤が付属した雑誌という建前で、その9割が書店流通による販売で、特に、高い音質を求められない子供向けの雑誌の付録として多く使われ、これにより一般知名度が高まりました。
その後、CDの普及でレコードの衰退と共に1990年代初頭には姿を消し、2005年で生産を終了しています。
アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題