アニメソング(アニソン)の歴史 ⑩ キャラクターソングの歴史 前編

先のコラムで、アニメソングのカテゴライズの一つにキャラクターソング(キャラソン)を挙げましたが、このキャラクターソングというものは、いつからあるかご存じでしょうか?

キャラクターソングは、声優が自身の演じるキャラクターが歌っているという形で演技をしながら歌う楽曲だけではなく、キャラクターをイメージして作られた楽曲も含まれます※1
後者の場合は、そのキャラクターを演じる声優以外の歌手が歌う場合もありますし、声優が歌う場合でも、キャラクターを演じることなく声優本人がナチュラルに歌唱したものを指します。

ディズニーアニメなどは、その多くがミュージカル形式であるため、キャラクターがセリフや心情を歌で表現するのは当たり前です。
そのため、むしろ主題歌よりも先に劇中歌が存在しているという成り立ちの違いもあり、わざわざ「キャラクターソング」などとジャンルを立てる必要性もありません。
したがって、このキャラクターソングというものも、世界的にはあまり例のない、日本独自の存在と言えるかもしれません。

ディズニーアニメにおけるキャラクターが作中で唄う歌劇的なものではなく、作品本編以外での使用(BGMやOP、EDでの使用はあるものの)を目的に作られたような、一般的な認識でのキャラクターソングのお初は、1963年の『狼少年ケン』の挿入歌で、ポッポ役の水垣洋子が歌った「ポッポとチッチの歌」ではないかと言われています※2

「ポッポとチッチの歌」歌:水垣洋子/作詞:いいじまたかし/作曲・編曲:小林亜星

その他、キャラクターが歌っているという形のキャラクターソングの初期のものとしては、1970年の『サザエさん』の挿入歌(オープニングに使われたこともあります)で、フグ田サザエ役の加藤みどりが歌った「レッツ・ゴー・サザエさん」といった例もあります。

「レッツ・ゴー・サザエさん」歌:加藤みどり/作詞:北山修/作曲・編曲:筒美京平

1981年には、『ドラえもん』の挿入歌で、当時のジャイアン役のたてかべ和也が歌う「おれはジャイアンさまだ!」がリリースされています。

「おれはジャイアンさまだ!」歌:たてかべ和也/作詞:たてかべ和也/作曲・編曲:菊池俊輔

その後、先のコラムでも取り上げた『超時空要塞マクロス』(1982~1983年)、『魔法の天使クリィミーマミ』(1983~1984年)といった作品では、作中のメインキャラクターでアイドルの女の子を、実在の歌手やアイドルが声優と歌唱の両方を担当するという新しい取り組みがあり、キャラクターソングの可能性の幅を大きく広げました。

『Dr.スランプ アラレちゃん』(1981~1986年)では、主人公・則巻アラレを演じる声優の小山茉美が歌う後期オープニング曲「わいわい行進曲」や第2期エンディング曲「アラレちゃん音頭」をはじめ、声優がキャラクターを演じた上で歌うタイプのキャラクターソングが複数制作され、主題歌や挿入歌として使用されました※3
中でも、皿田きのこ役の杉山佳寿子が歌う「パパパーマのうた」は、1981年発売のシングルレコードに「うた/きのこ=杉山佳寿子」と記載されており、キャラクター名義でのキャラクターソングが発売された先駆け的存在です※4

「わいわい行進曲」歌:則巻アラレ(小山茉美)、コロムビアゆりかご会/作詞:河岸亜砂/作曲:菊池俊輔/編曲:たかしまあきひこ
「パパパーマのうた」歌:皿田きのこ(杉山佳寿子)/作詞:金春智子/作曲:菊池俊輔/編曲:いちひさし

1986年9月に発売された『めぞん一刻』のEPレコード「予感」では、実際には声優の島本須美が歌っているのですが、島本須美が演じるヒロインの「音無響子」名義で発売されました(ジャケットイラストも、音無響子がレコーディングをしている様子を描いたものになっていました)。
それ以前のものは、キャラクターが歌っているという形をとっていても、声優名義で出されていましたから、キャラクター名義でレコードが出されるというのは画期的な出来事でした※5

「予感」歌:音無響子(島本須美)/作曲:小坂明子/作詞:佐藤ありす/編曲:小林慎吾

ビジネス的な背景
アニメは、1980年代に低年齢の子供たちからハイティーン・大人へとその視聴者層の中心がシフトしていきました。
児童向けアニメがなくなったわけではなりませんが、児童向けや全年齢対象向けのアニメ以外に、ハイティーン以上の年齢層向けのアニメ、いわゆる「深夜アニメ」と呼ばれるものが増えて来て、そちらが主流となっていったのです。
そのため、スポンサーも、玩具や菓子、文具メーカーなどかから、出版社やビデオ会社、レコード会社といったものに変わってきていき、販売する商品も、ポスターや書籍、ビデオソフト、レコード、CDといったものになっていきました。

レコード会社としては、当然のことながらレコードやCDをもっと売りたいわけです。
ところが、オープニングとエンディングのシングルに、主題歌やBGMを合わせたアルバムを出しても、せいぜい1作品で2~4枚程度しか出せません。
そこで力を入れたのがキャラクターソングだったのです※6

キャラクターソングであれば、無限に楽曲を作れますから、商品ラインナップを広げることができました。
声優やキャラクターに人気が高まっていたのに、当時は下敷きやポストカード、缶バッジ、ステッカー、カレンダー、文具などしかなく、まだまだアニメグッズが需要に追い付いていない時代でしたら、こうしたキャラクターソングはファンたちに支持され、人気キャラクターのレコードやCDは飛ぶように売れました。

上述のようなアニメのビジュアルを印刷しただけのプリント系のアニメグッズの他、ロボットアニメであればプラモデルや超合金の玩具、魔法少女アニメであれば魔法のステッキといったように、鉄板とも言える強力な商品展開ができますが、『めぞん一刻』のようなロボットも魔法アイテムも出て来ないようなアニメの場合、商品展開の幅を広げられないという課題がありましたから、そういった面でも、キャラクターソングは版権の収益性を高める救世主的存在だったのです。


次回に続く。

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※1 そもそも主人公キャラクターを全面に押し出した作品の主題歌などは、主人公のイメージソングと言えなくもありません。
そうした主題歌とは別に作られたキャラクターのイメージソングの例としては、下記のようなものがあります。

『機動戦士ガンダム』シャア・アズナブルのイメージソング「シャアが来る」歌:堀光一路(第40話の挿入歌)
『科学忍者隊ガッチャマンII』大鷲の健のイメージソング「大鷲は高く飛ぶ -健の歌」歌:水木一郎

※2 日本初の劇中歌が登場したのは「月の宮の王女様』(1934年)と言われていますが、こちらはナレーションが歌を唄うというものや、物語が終わった大団円での合唱で、特定のキャラクターが唄うという形のものではありませんでした。
『くもとちゅうりっぷ』(1943年)では、登場キャラクターのテントウ虫と蜘蛛が歌いながら登場しています。
『すて猫トラちゃん』(1947年)でも、作中でキャラクターが歌うシーンがあります。
海外のアニメを模して制作された昭和初期の作品には、こうした劇中歌の例が見られますが、これらも定義的にはキャラクターソングと言えなくもありません。

※3 『Dr.スランプ アラレちゃん』では、この他にも以下のようなキャラクターソングが制作されています。
則巻アラレ役の小山茉美が唄う「よいこよいこアラレちゃん」「あこがれのスッパマン」
オボッチャマン役の堀江美都子が唄う「あなたに真実一路」「オボッチャマンでこざいます」
則巻アラレ役の小山茉美と則巻千兵衛役の内海賢二が唄う「赤鼻のトナカイ」「ジングルベル」
山吹みどり役の向井真理子が唄う「夢みるシンデレラ」

「あなたに真実一路」歌:オボッチャマン(堀江美都子)(第4期エンディング)

※4 「オボッチャマンでこざいます」でもレコードには「歌/堀江美都子(オボッチャマン)」と記載されていました。

※5 ジャケット面には島本須美の名前は記されていませんでしたが、「予感」のレコード盤面には「音無響子(島本須美)」、ジャケットイラストの裏の歌詞が印刷されている面には、「島本須美(音無響子)」と記載されています。

※6 キャラクターソングと並行してドラマCD、ラジオCDなども多く出されており、これもキャラクターソングと同じく、売り上げを伸ばす戦略の一つでした。


アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題