アニメソング(アニソン)の歴史 ⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
前回はサンライズ作品の楽曲の先進性にアニメファンたちが衝撃を受けたことを解説しましたが、アニメソングの歴史の中では、同じく1980年代にもう一つのエポックメイキング的な作品が登場しています。
それが『超時空要塞マクロス』と『魔法の天使クリィミーマミ』という2つのテレビアニメです。
この2つの作品は、アニメソングにそれまでの主題歌以上の役割を持たせた画期的な作品でした。
リアル歌手が作中のヒロインを演じて歌を唄った『超時空要塞マクロス』の衝撃
1982~1983年放送の『超時空要塞マクロス』は、ロボットアニメ界の王者であった『機動戦士ガンダム』を超えようという意気込みで制作され、ガンダムにはない3つの要素を導入した作品でした。
一つは3形態の可変式ロボ、もう一つは主人公を取り巻く三角関係が描かれた恋愛ドラマ、そして最後の一つが、アイドル歌手の美少女ヒロインでした。
その美少女ヒロインを、当時デビュー前だった歌手の飯島真理が声優として演じ、且つ歌唱も飯島真理が行うというもので、本物の歌手が作中でも歌手を演じ、本人が作中でのヒロインの歌を唄うというアニメ史上初の画期的な試みでした。
飯島真理が演じたヒロインは、作中では、オーディションに参加してアイドルデビューする中華料理店の看板娘リン・ミンメイというメインキャラクターでした。
『超時空要塞マクロス』は、地球人と異星人との戦争が勃発した近未来が舞台で、戦争しかしらない異星人たちが、リン・ミンメイの歌にカルチャーショックを受けて怯んだり仲間になったりしていき、アイドルの歌が圧倒的劣勢を覆して戦争を終結させていくという壮大なストーリーとなっています。
それまでのアニメソングの役割というのは、オープニングとエンディング、あるいは劇中歌として使用され、作品を印象づける顔となると共に、本編に入るまでの高揚感を高める役割、主人公の心情や、場面の雰囲気を表現する劇伴の一つとして使われていました。
ところが『超時空要塞マクロス』では、恋愛の歌であるその曲を、愛を知らない異星人が聴くと衝撃を受けるという形で楽曲自体に意味を持たせ、歌が物語の中の根幹に関わる要素となっているのです。
1984年にテレビ版を再構築し、全編新作映像で公開された劇場版アニメ『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』では、楽曲がより印象的に使用され、主題歌の「愛・おぼえていますか」が終盤の約6分20秒にわたって流れる中、異星人との最終決戦シーンが映し出されていました。
魔法少女アイドル『魔法の天使クリィミーマミ』の衝撃
1983~1984放送の『魔法の天使クリィミーマミ』は、妖精に魔法の力を与えられた主人公の10歳の少女・森沢優が、16歳の成長した姿に変身してクリィミーマミとなり、アイドルデビューをしてしまうというストーリーでした。
そのアイドルを、日本テレビのスター発掘番組『スター誕生!』で合格し、アイドル歌手デビューが決まっていた15歳の太田貴子が声優として演じ、さらに作中でのクリィミーマミのデビュー曲も、実際の太田貴子のデビュー曲が使用されるという、アニメとリアルをシンクロさせた画期的な作品でした。
それが太田貴子のデビュー曲である「デリケートに好きして」で、作中のテレビ出演シーンでもクリィミーマミによって歌われる姿が描かれ、オープニング曲としても使用されました。
太田貴子は番組放映中に3枚のシングルをリリースしましたが、「デリケートに好きして」を含め、発表された6曲全てが、クリィミーマミが作中のステージ上で披露する歌として使用されており、次々に新曲がアニメの作中で披露されていったわけです。
作中では1年間の期限付きで魔法の力を与えられた設定となっており、1年間の放送期間で、作中での経過時間も同じ1年間という時間的にも現実とシンクロさせる仕組みとなっていました。
そして、魔法のタイムリミットが迫る中、デビュー1周年記念コンサートが開かれ、クリィミーマミがステージで持ち歌を次々に披露していきます。
暴風雨や、ボーイフレンドの大伴俊夫の記憶が戻り始めたり(封印したクリィミーマミの正体を知った記憶が蘇ると魔法の力が失われてしまう)、妖精がタイムリミットを切り上げて魔法の力の回収に来たりといったハラハラドキドキのトラブルに見舞われながらも、最後に「デリケートに好きして」を歌い上げ、ファンたちにお礼とお別れを告げて迎えたエンディングに、テレビの前の子供たちは、きっと自分も会場で一緒に応援している気分を味わったと思われます。
この感動の最終回を生み出したのは、やはり1年間を通してファンたちが聴いていたクリィミーマミの楽曲の存在が大きく、それを連続して流し、最後に「デリケートに好きして」でフィナーレとした演出があったからこそと言え、『超時空要塞マクロス』と同様に、アニメ作品におけるアニメソングの役割というものを大きく引き上げた作品と言えるでしょう。
実際の歌手やアイドルが作中の歌を唄うキャラクターを演じ、且つそのキャラクターの歌も本人が担当するという手法は、作品数は多くないものの、その後も引き継がれていきました。
<アイドル歌手が声優として出演し、楽曲も担当するアニメ作品>※
宮里久美主演の『メガゾーン23』(1985~1986 OVA)
田村英里子主演の『アイドル伝説えり子』(1989~1990年)
田中陽子主演の『アイドル天使ようこそようこ』(1990~1991年)
小幡洋子主演の『魔法のスターマジカルエミ』(1985~1986年)
大森玲子主演の『魔法のステージファンシーララ』(1988年)
しほの涼主演の『LEMON ANGEL PROJECT』(2006年)
久住小春(モーニング娘。)主演の『きらりん☆レボリューション』(2006~2009年)
岩田華怜、渡辺麻友らAKB48メンバー出演の『AKB0048』(2012~2013年)
やがて、モーニング娘。を皮切りにハロープジェクトやAKB48グループなどのグループアイドル時代になると、アニメ業界でもその流れに乗る形で、『THE IDOLM@STER』シリーズや『ラブライブ!』シリーズなどのアイドルアニメが登場しますが、そこでは作中のキャラクターを演じる声優たちが、歌唱を担当する逆転的な展開が行われるようになりました。
すでに声優業界では、アイドル顔負けの活動を行う「アイドル声優」と呼ばれる存在が生まれており、その人気はリアルのアイドルを凌ぐ程でしたから、演技経験のないアイドルを声優兼歌唱担当として出演させるよりも優位性が高い選択となっていたためです。
アイドル声優の登場や、アーティスト活動も行う近年の声優の多才さに支えられて、アイドルアニメに実在のアイドルや歌手を起用する例は見られなくなりましたが、『超時空要塞マクロス』と『魔法の天使クリィミーマミ』が広げたアニメ作品におけるアニメソング活用の可能性は、着実にアニメ業界に根付いたと言えるでしょう。
『ラブライブ!』シリーズや『THE IDOLM@STER』シリーズなど、近年のアイドルアニメでは、声優たちが作中で描かれたライブをリアルに再現したリアルライブを披露することが定番となっており、アニメと現実をシンクロさせた活動を行っています。
次回に続く。
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※ アイドルや歌手が主演するものの、演じる役がアイドルや歌手ではなく、キャラクターが作中で歌うような要素が描かれず、主題歌とのタイアップのみのような作品も(それすらない作品も)あります。
志賀真理子主演の『魔法のアイドル パステルユーミ』(1986年)
小川真奈主演の『極上!!めちゃモテ委員長』(2009~2011年)
スマイレージ(和田彩花、前田憂佳、福田花音)主演の『ひめチェン!おとぎちっくアイドル リルぷりっ』(2010~2011年)
アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題