アニメソング(アニソン)の歴史 ⑫ 声優アーティスト 前編
声優アーティスト黎明期
劇場版アニメの『宇宙戦艦ヤマト』(1977年公開)や『銀河鉄道999』(1979年公開)の大ヒットを起源に、1980年代にハイティーン層を中心としたアニメブームが起こると、各作品で美形キャラを演じた神谷明、古谷徹、水島裕といった男性声優に人気が集まり、多くの声優がバンドを組んでライブをしたり、個人名義のレコードを出したりといった作品の外での活動を行い、声優自体に単体での商品価値があることを証明してみせた「第2次声優ブーム」が起こりました※1。
その代表的なものは、1977年に、野島昭生、古川登志夫、神谷明、曽我部和行、古谷徹(後の交代メンバー:三ツ矢雄二、鈴置洋孝※2)の声優5人で結成されたバンド「スラップスティック」です。
『パタリロ!』(1982~1983年)のエンディング曲「クックロビン音頭」(『パタリロ!』にはメンバー全員が出演)の他、自身が出演するアニメ作品とは関係のないテレビドラマ『意地悪ばあさん』の主題歌を担当したこともありました。
1988年に放送されたテレビアニメ『鎧伝サムライトルーパー』の主人公たちを演じた男性声優5人によるユニット「NG5」は、爆発的な人気を博して一般のメディアにまで取り上げられるようになり、「第3次声優ブーム」と呼ばれるアイドル声優時代の火付け役となりました。
声優アーティストブームの到来
このようにして、アニメファンたちの間で声優が一般的なアイドルや歌手並みの知名度と人気を持つようになると、それまでのJPOP系アーティストとのタイアップ以上に相乗効果を上げることができることから、作品のオープニング・エンディング曲を、その作品の主演声優が歌うケースが増えて生きました。
キャラクターソングのように個別のアニメ作品ありきで、作品に紐づく形で存在しているようなものではなく、アニメ作品とは関係なく活動し、一般アーティストと同じように、タイアップでアニメの主題歌も担当するという形となっているものです。
アイドル歌手が主役の声優も務めた『魔法の天使クリィミーマミ』(1983~1984年)、『アイドル伝説えり子』(1989~1990年)といった例とは逆に、声優が歌手をつとめるキャラクターソングという形ではない楽曲が、アニメ作品のオープニング・エンディング曲として使われた初期の例※3としては、
『アンデルセン物語』(1971年)の主人公・キャンティ役の増山江威子が唄うエンディング曲「キャンティのうた」
『さるとびエッちゃん』(1971~1972年)で、増山江威子(作品には未出演)が唄うオープニング曲「エッちゃん」
『イルカと少年』(1975年)のヒロイン・マリーナ役の白石冬美が唄うオープニング曲「キラキラ輝く太陽」
『パーマン』(1983~1984年)の主人公・パーマン役の三輪勝惠が唄ったオープニング曲「きてよパーマン」
といったものがあります。
ただし、この頃の楽曲は、特定のキャラクターが唄っているという形ではないものの、かわいらしい(いわゆるアニメ声的な)歌声で唄われており、声優アーティストによるものというよりはキャラクターソングに近い性格のものでした。
1990年代になると、林原めぐみをはじめ、アニメ声で唄うようなものではなく、ナチュラルな歌声で本格的なアーティスト活動をする声優たちが続々と現れ、キャラクターソングとの境界が明確になっていきました。
声優の人気の高まりや、元々声を扱う職業である声優と歌唱との相性の良さがあったり、さらにアニメと声優はファン層が重なることから相乗効果が得やすいなど、声優アーティストの存在は良いことばかりでしたから、レコード会社がこれを放っておくわけはありません。
元々有名な声優であれば尚のこと、新人であってもその作品の主役を演じてれば問題ありませんし、何よりテレビアニメの主題歌になれば、毎週楽曲の宣伝をしてくれるようなものですから、無名のアーティストの楽曲を売り出す労力に比べれば、遥かに安上がりです。
声優アーティストの黎明期では、自発的に活動を始めたものが多かったのですが、この頃になると、知名度が高く歌唱力もある声優には、レコード会社が積極的にアーティスト活動を進める動きが出てきます。
そのおかげで、一気に声優アーティストの数が増えていき、現在ではアニメソングの一翼を担う勢力となっているわけです。
神籬では、アニメ文化振興や関連事業への協力の他、各種データ提供やアニメを活用した自治体や企業へのサービス・イベント・事業などの企画立案など様々な活動を行っています。
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次回へ続く。
※1 1970年代に、日本でも大人気となったフランスの映画俳優アラン・ドロンの吹き替えを担当した野沢那智を中心に、山田康雄、広川太一郎といった人気俳優の声を担当する声優たちの人気が高まった時期が「第1次声優ブーム」と呼ばれています。
※2「スラップスティック」の1結成当初のメンバーは、野島昭生、古川登志夫、神谷明、曽我部和行(曽我部和恭)、古谷徹の5人で、1978年の神谷明脱退によって三ツ矢雄二が加入し、1984年に劇団創設を理由に脱退した三ツ矢雄二の代わりに鈴置洋孝が加入。その後、曽我部和行と鈴置洋孝が1986年に脱退してメンバーは3人になり、2006年に鈴置洋孝と曽我部和行が相次いで他界した後、翌2007年に三ツ矢雄二が再加入しています。
※3 『パーマン(第1作)』(1967~1968年)の主人公・パーマン役の三輪勝恵が歌手の石川進と共に唄った「ぼくらのパーマン」、『一休さん』(1975~1982年)の主人公・一休さん役の藤田淑子が唄ったエンディング曲「ははうえさま」というものもありますが、こちらはキャラクターが唄っている形での楽曲となっています。
『アンデルセン物語』の「キャンティのうた」は、キャンティ役の増山江威子が唄っているものの、キャンティが唄っているというよりは、キャラクターのイメージソング的なものと思われます。
このあたりは明確な定義もなく、境界は曖昧なものとなっています。
アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題