アニメソング(アニソン)の歴史 ⑨ タイアップソング黄金時代 後編

前回はアニメのタイアップソングについて紹介しましたが、今回はその内情について見ていきたいと思います。

アニメの主題歌にタイアップソングが使われるようになった初期は、テレビ局主導で、プロデューサーが自身の注目しているアーティストや、作品に合ったアーティストを選んで依頼していました。

その後、複数の企業がアニメに共同出資する製作委員会方式が一般化すると、特別な理由※1がない限り、出資会社の一つであるレコード会社に所属するアーティストから優先して採用されるようになっていきます。

アニメの製作プロデューサーが、各レコードメーカー(製作委員会にレコード会社が参加している場合はそのレコード会社)に作品概要を伝えて楽曲制作を募集してアーティストを選出し、作品内容や作って欲しい楽曲の要望と共に依頼するという流れです。
依頼されたアーティストは、自身の未発表曲や新規に作成した曲を提出し、製作プロデューサーが選曲・修正を行った上でリリースされるというわけです。

アニメソングは、タイアップかどうかに関わらず、基本的に新規を制作するか未発表曲を採用し、既存の曲を使うということは滅多にありません。
それは、作品イメージに合う楽曲を既存のものから探し出しても、許諾交渉が必要なために時間と労力がかかる上、たとえ使用許諾を得ても、その後の曲の使用に制限がかかる可能性が高いことが理由として挙げられるかと思われます。

実例として、先のコラムで触れた『機動戦士Zガンダム』の主題歌は、ニール・セダカの既存曲を使用したものだったため、権利上の問題から、配信では長い間オリジナルのオープニングとエンディングを流すことができず、代用映像を使用していました(2017年12月に問題が解消されてオリジナルのOP・EDが配信されるようになりました)。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011年)では、エンディング曲に2001年にヒットしたZONEの「secret base 〜君がくれたもの〜」のカバー曲を採用しました。
これは非常に希なケースで、曲のストーリーや歌詞の中にある「秘密基地」といったキーワードが、作品の物語と一致していることから、ソニーミュージックのプロデューサー※2が候補曲に挙げ、最終的にこの曲の採用が決まったとのことです。

「secret base 〜君がくれたもの〜」歌:ZONE/作詞・作曲:町田紀彦/編曲:虎じろう
『secret base 〜君がくれたもの〜(10 years after Ver.)』歌:本間芽衣子(茅野愛衣)、安城鳴子(戸松遥)、鶴見知利子(早見沙織)/作詞・作曲:町田紀彦/編曲:とく Sound Produced by estlabo

その他、ジブリ映画の『魔女の宅急便』に松任谷由実の「ルージュの伝言」「やさしさに包まれたなら」が使用されたり※3、『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディング曲に、庵野秀明監督のお気に入りというジャズ曲「FLY ME TO THE MOON」が使用されたケースもあり、少ないながらも既存曲の使用例はあります。

「FLY ME TO THE MOON」歌:CLAIRE/作詞・作曲:Bart Howard/編曲:Toshiyuki Ohmori

タイアップ曲最大のヒットは小室ファミリー
この時代、タイアップ曲の中でも最大のヒット曲となったのは、『ストリートファイターII MOVIE』の主題歌で、小室哲哉プロデュースによる篠原涼子の「恋しさと せつなさと 心強さと」でしょう。
CDシングル売上は200万枚を突破し、ダブルミリオンを記録する大ヒットとなり、日本レコード大賞では優秀賞を受賞、NHK紅白歌合戦にも出場を果たしました。

当時はtrfがブレイクしており、H Jungle with t、globe、華原朋美、安室奈美恵、dosといった、後に「小室ファミリー」と呼ばれることになる小室哲哉プロデュースのアーティストたちがヒット曲を連発する小室ブームの走りでした。
そのためか、メディア露出に関しても、『ストリートファイターII MOVIE』の主題歌という扱いではなく、小室哲哉プロデュースの曲として扱われていたため、タイアップ曲だと知らない人の方が多いのではないでしょうか。

『ストリートファイターII MOVIE』はアーケードゲーム『スーパーストリートファイターIIX』を原作とする劇場版アニメで、製作委員会ではなく、ゲームメーカーのカプコンが出資して作った映画であるため、レコード会社の縛りがありませんでした。
そこでプロデューサーが、『シティーハンター』の「Get Wild」や『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の「BEYOND THE TIME」を手掛けた小室哲哉に楽曲制作を依頼し、小室哲哉は登場キャラクターの一人である春麗をイメージして制作したとのことです。

当時の『ストリートファイターII』は絶大な人気を誇り、対戦格闘ゲームブームを巻き起こしていました。その人気を買って制作されたこの映画は、単館上映ながら配収7億円とスマッシュヒットを記録しました。筆者も当時映画館に観に行った一人で、CDも買いました。
小室哲哉は後年、曲のヒットの要因は、映画を見たファンたちがCDを買ったおかげでロングセラーに繋がったことだと語っており、まさにタイアップの理想的な効果がもたらされた結果というわけです。

「恋しさと せつなさと 心強さと」歌:篠原涼子 with t.komuro/作詞・作曲・編曲:小室哲哉

実は、つんく♂がボーカルをつとめていたシャ乱Qが初のミリオンセールを記録したのもアニメソング※4で、L’Arc~en~Cielやポルノグラフィティ、倉木麻衣、ASIAN KUNG-FU GENERATION、FLOWアニメソングといったメジャーなアーティストたちも、全てアニメのおかげとまでは言わないまでも、現在の人気を獲得する上で、タイアップ効果の恩恵を多大に受けていることは否定できないはずです。※5

当時ゴールデンタイム(19~21時台)に放送されていた高視聴率テレビアニメで、楽曲が毎週流される宣伝効果は、現在では考えられない程大きかったことでしょう。
こうして見てくると、地道に活動して音楽業界でそこそこ認知度が増してきたアーティストがブレイクする背景に、アニメとのタイアップが重要なキーとなっている様子が伺え、後の世に発表される平成、令和の音楽史には、アニメとの関りの重要度についての論説が書かれることになるかもしれません。


次回に続く。

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※1 タイアップ曲を担当するアーティストは、製作委員会に参加するレコード会社に所属するアーティストから選ばれるのが通常です。
しかし、製作委員会にレコード会社が参加しておらず、そうした縛りがない場合には、プロデューサーが懇意にしているレコード会社、あるいは自身が注目している若手アーティスト、もしくは宣伝効果が高いと思われる人気アーティストに依頼します。
さらに特殊な例で言えば、原作者であるマンガ家などが是非にと強く要望したアーティストに依頼する場合などもあります。必ずしも要望が叶うとは限りませんが。

※2 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の製作委員会に参加している企業はアニプレックス、フジテレビジョン、電通の3社で、このうち、アニプレックスは、ソニー・ミュージックエンタテインメントの完全子会社であるため、音楽についてはソニーミュージックが大きく関わっているのです。
ちなみに、歌詞の中には「10年後」というキーワードもあり、アニメの放送年が原曲の発表年から10年後に当たり、こちらも一致しています。

※3 主題歌を決める会議直前に行った松任谷由実のコンサートに触発された鈴木敏夫プロデューサーが、宮崎駿に提案して採用が決定し、松任谷由実に新曲制作を依頼することになりました。ところが、依頼してから1年経っても曲が出来ず、そのため、仕方なく過去の楽曲から選出にすることになったとのこと。
そこで選出された「ルージュの伝言」「やさしさに包まれたなら」の2曲について、権利を有するアルファミュージックに使用許諾を得るための交渉を行ったそうです。

※4 シャ乱Qの6枚目のシングル曲で、『D・N・A² 〜何処かで失くしたあいつのアイツ〜』のエンディング曲として採用された「シングルベッド」は、シャ乱Qにとって初のミリオンセラーとなり、次に出した「ズルい女」と共にヒットしてシャ乱Qをメジャーに押し上げました。

※5 主なアニメタイアップ曲は以下の通り。
L’Arc~en~Ciel:『GTO』第1期オープニング「Driver’s High」(1999年)
ポルノグラフィティ:『GTO』第2期オープニング「ヒトリノ夜」(2000年)、『鋼の錬金術師』第1期オープニング「メリッサ」(2003年)
倉木麻衣:『名探偵コナン』オープニング&エンディング(2000~2021年)&劇場版主題歌「渡月橋 〜君 想ふ〜」(2017年)他
ASIAN KUNG-FU GENERATION:『鋼の錬金術師』第4期オープニング「リライト」(2004年)
FLOW:『NARUTO -ナルト-』第4期オープニング「GO!!!」(2004年)、『交響詩篇エウレカセブン』第1期オープニング「DAYS」(2005年)


アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題