アニメソング(アニソン)の歴史 ⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ

サンライズの先進性や、歌の可能性を広げたアイドルアニメと解説してきましたが、それらとは異なる独自路線を展開するアニメソングがあります。
それがタツノコプロの楽曲です。

タツノコプロは、マンガ家である手塚治虫が作ったアニメ制作会社・虫プロと同じく、マンガ家だった吉田竜夫が作った会社でしたが※1。人気マンガ原作のアニメばかりだった当時、原作のないオリジナル作品にこだわった独自の方針を貫いていました。
その独自の在り方は、アニメソングにも良く現れていて、他社の作品から一線を画していました。

子供向けアニメソングの完成形
男女共に楽しめるような低年齢向けアニメでは、作品内容をそのまんま歌詞にしており、物語の雰囲気などもよく表現されていることから、途中からアニメを見始めた子供たちでも、歌を聞いただけで作品に入り込めてしまう楽曲となっています。
子供たちが一度聴いたら忘れない印象的で口ずさみたくなるようなフレーズが多用され、本編に入る前の高揚感を煽る効果など、当時のアニメソングに求められる要素をふんだんに詰め込まれた完成度の高い名曲ばかりです。

ハクション大魔王』(1969~1970年)歌:嶋崎由理/コーラス:堀江美都子、山尾百合子、大江由貴子/作詞:丘灯至夫/作曲:市川昭介
昆虫物語 新みなしごハッチ』(1970~1971年)歌:島崎由理/作詞:丘灯至夫/作曲・編曲:越部信義
いなかっぺ大将』(1970~1972年)歌:吉田よしみ(現・天童よしみ)/作詞:石本美由起/作曲・編曲:市川昭介

男の子向けのヒーローアニメでは、劇画タッチの作風にマッチした、軽快で力強くかっこいい楽曲が作られました。

科学忍者隊ガッチャマン』(1972~1974年)歌:子門真人、コロムビアゆりかご会/作詞:竜の子プロ文芸部/作曲:小林亜星/編曲:ボブ佐久間
新造人間キャシャーン』(1973~1974年)歌:ささきいさお/作詞:タツノコプロダクション企画文芸部/作曲・編曲:菊池俊輔
宇宙の騎士テッカマン』(1975年)歌:水木一郎/作詞:竜の子プロ文芸部/作曲:小林亜星/編曲:ボブ佐久間

これらの主題歌は、作詞を竜の子プロ文芸部が手掛けているため、作中の物語とのシンクロ率が非常に高い内容となっています。
タツノコプロの文芸部というのは、初期のタツノコ作品の企画の中核を担った脚本家・鳥海尽三が部長を務め、作品の企画から脚本を担っていた部署です。
タツノコプロは、ほとんどがオリジナル作品でしたから、企画した文芸部が最も作品のことを知っているわけで、当然思い入れも強く、その文芸部が作詞を担当しているのですから、作品と主題歌の親和性が高いのも当然というわけです。

タツノコの看板作品であるタイムボカンシリーズ
タツノコプロで忘れてはならないのが、タイムボカンシリーズの楽曲です。
シンガーソングライターの山本正之が生み出した楽曲は、オープニングは自身が歌も担当し、エンディングは作中のキャラクターである三悪人が歌うキャラクターソングという構成となっており、1975年から1983年までの8年間でタイムボカンシリーズ7作品の顔となった名曲たちです。
山本節とでも言うべき独特のボーカルで、高揚感を煽る軽快なサウンドの中に力強さと愛らしさがない交ぜになった楽曲は、多くの子供たちを魅了すると共に、タツノコプロの「おもしろカッコいい」という独自の作品路線をも牽引して、これぞタツノコプロというものを印象づける看板楽曲ともなりました。

ヤッターマン』(1977~1979年)OP「ヤッターキング」歌:山本まさゆき、スクールメイツ・ブラザーズ/作詞・作曲:山本正之/編曲:神保正明
タイムボカンシリーズ タイムパトロール隊オタスケマン』歌:山本正之、少年少女合唱団みずうみ/作詞・作曲:山本正之/編曲:神保正明
逆転イッパツマン』(1982~1983年)歌:やまもとまさゆき、ピンク・ピッギーズ/作詞・作曲:山本正之/編曲:神保正明

シリーズの定番となった三悪人によるエンディング曲は、声優が歌手として歌うのではなく、演じているキャラクターが歌うという形で歌われた「キャラクターソング」の走り※2と言えるでしょう。
当時はまだ「キャラクターソング」という名前さえない時代でしたから画期的だったのは言うまでもなく、作品の延長のような楽曲に、テレビの前の子供たちは、本編のおまけシーンを見るかのような感覚で楽しむことができました。

ヤッターマン』ED1「天才ドロンボー」歌:小原乃梨子、八奈見乗児、たてかべ和也/作詞・作曲:山本正之/編曲:神保正明
『ヤッターマン』ED2「ドロンボーのシラーケッ」歌:小原乃梨子、八奈見乗児、たてかべ和也(セリフ:滝口順平)/作詞・作曲:山本正之/編曲:神保正明

1980年代後半以降、タツノコプロは自社作品のリメイクをするようになり、かつての楽曲を現代風にアレンジしたものを使用するようになります。
さらに1990年代になると、深夜アニメの台頭の影響で、タツノコプロも大人向けアニメを作るようになっていき、他社のアニメ作品と遜色ないような楽曲を採用するようになり、タツノコらしさは影を薄くしていきました。

とはいえ、タツノコプロが昭和時代に生み出したこれらの楽曲は、アニメソングの一つの到達点に達した完成形であり、アニメソングの歴史に刻まれるべき名曲と言えるでしょう。
昭和時代に輝きを放ったタツノコアニメソングは、当時の子供たちを何十年も経った今も魅了し続けているはずです。


次回に続く。

神籬では、アニメの文化振興や関連事業への協力の他、アニメを活用した自治体や企業へのサービス・イベント・事業などの企画立案など様々な活動を行っています。
ご興味のある方は、問い合わせフォームから是非ご連絡下さい。
アニメ業界・歴史・作品・声優等の情報提供、およびアニメに関するコラムも 様々な切り口、テーマにて執筆が可能です。こちらもお気軽にお問合せ下さい。


※1 タツノコプロは、マンガ家の吉田竜夫が、自身のマネージャーだった吉田健二とマンガ家だった九里一平という2人の兄弟とマンガ制作プロダクション(版権やアシスタントの管理がメイン業務)として設立した会社でした。
翌々年、東映動画(現・東映アニメーション)からテレビアニメ制作の企画が持ち込まれたのをきっかけにアニメ制作に参入し、その後アニメ制作の専門会社となっていきました。

※2 キャラクターソングは、声優が自身の演じるキャラクターが歌っているという形で演技をしながら歌う楽曲だけではなく、キャラクターをイメージして作られた楽曲も含まれます。
後者の場合は、そのキャラクターを演じる声優以外の歌手が歌う場合もありますし、声優が歌う場合でも、キャラクターを演じることなく声優本人がナチュラルに歌唱することもあります。
日本におけるキャラクターソングのお初は、1963年の『狼少年ケン』の挿入歌で、ポッポ役の水垣洋子が歌った「ポッポとチッチの歌」ではないかと言われています。
1970年の『サザエさん』の挿入歌(オープニングに使われたこともあります)で、フグ田サザエ役の加藤みどりが歌った「レッツ・ゴー・サザエさん」といった例もあります。1979年には、『ドラえもん』の挿入歌で、当時のジャイアン役のたてかべ和也が歌う「おれはジャイアンさまだ!」が制作されました。


アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題