アニメソング(アニソン)の歴史 ⑤ サンライズアニメの先進性
前回は、レコード会社の文芸部が作る作品内容とマッチしない歌詞の主題歌に抗うため、自ら作詞を行った富野由悠季監督について語りましたが、今回はその富野監督が活動の場としたサンライズ※1作品の主題歌について見ていきたいと思います。
サンライズ作品の主題歌はとにかくかっこいい
サンライズと言えば、アニメ業界では音楽に強いこだわりを持つアニメ制作会社として知られています。
富野イズムのようなものが社内に浸透したものかはわかりませんが、他の制作会社に比べ、早くから音楽と作品との親和性を重要視し、アニメソングに単なる主題歌以上の役割を持たせる効果的な使い方を実践してきました。
特に、1980年代のサンライズ作品の主題歌は、とにかくカッコ良く、以降のアニメの主題歌にも大きな影響を与えたようです。
アニメソングにただの主題歌以上の役割を持たせようという試みは、新人歌手のデビューとタイアップして架空のアイドルを歌手自身が演じた『超時空要塞マクロス』※2(1982~1983年)や、同じくアイドル歌手のデビューとタイアップした『魔法の天使クリィミーマミ』※3(1983~1984年)、未来世界を舞台にしたイメージを全面に出したシティポップな曲を使った『未来警察ウラシマン』(1983年)といった先進的な事例がありました。
また、杏里の主題歌が大ヒットした『キャッツ・アイ』(1983~1984年)や、岩崎宏美とタイアップした『タッチ』(1985~1987年)のようなタイアップアニメソングが出始めたばかりの頃でもありました。
サンライズでもこうした時代の変化にいち早く乗り、先駆的な役割の一端を担ったわけです。
しかしそれはまだ例外的なもので、主流はやはり『キン肉マン』(1983~1986年)や、『キャプテン翼』(1983~1986年)、『小公女セーラ』(1985年)といった子供向け作品の楽曲にありました。
サンライズ作品の音楽は、その当時にあっても先進的でした。
世界征服を目論む敵を悪の軍団を正義のヒーローである無敵のロボットが打ち倒していく「スーパーロボット」作品ではなく、未来世界やSF世界を舞台に、互いの利害で争うロボット同士の戦争を描いた「リアルロボット」作品を真骨頂としたサンライズ作品では、それまでの「スーパーロボット」作品のような楽曲では、作品内容との間にギャップが生まれてしまうという問題がありました。
先進的な楽曲を採用した要因の一端には、そうした作品内容と主題歌のイメージを統一させる必要性があったのだとも思われます。
ハードボイルドで殺伐とした作品の世界観が良く表現されている、高橋良輔監督作詞による『装甲騎兵ボトムズ』の主題歌や、冒頭のパイロットとオペレーターのやりとりから全編英語歌詞の『銀河漂流バイファム』の主題歌、スタイリッシュなメカが特徴で楽曲もシンセサイザーを使った電子音が印象的な『重戦機エルガイム』の主題歌など、従来のアニメソングのスタイルを超えて、作品ごとの特徴を反映させた楽曲が次々に生み出されました。
『機動戦士Zガンダム』の衝撃
サンライズ1985~1986年放送の『機動戦士Ζガンダム』では、70年代に活躍したシンガーソングライターのニール・セダカの曲を大胆にアレンジした楽曲が使用されました。
『機動戦士ガンダム』は当時のアニメファンにとってはすでにバイブル的な存在でしたから、その続編である新作アニメ『機動戦士Ζガンダム』は非常に注目を集めていました。
KADOKAWAでは、この『機動戦士Ζガンダム』の放送開始と並行して新しいアニメ雑誌『月刊ニュータイプ』を創刊し、創刊号は新ガンダム(ガンダムNk-II)の表紙から巻頭特集をはじめ、ガンダム一色といった印象の協力なタイアップを行った程です。
富野由悠季監督は、自身が大ファンだったことから、ロサンゼルスに住むニール・セダカを訪ねて楽曲提供を直談判したとのことで、さらに自身が作詞を担当し(「井荻燐」は富野由悠季のペンネーム)、レコーディングの際にはヴォーカルのディレクションまでした熱の入れようでした。
当時、松本隆作詞、細野晴臣作曲による1984年3月公開の劇場版アニメ『風の谷のナウシカ』のテーマソング、ヒットメーカーの加藤和彦・安井かずみ夫妻※4が手掛けた1984年7月公開の劇場版アニメ『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の主題歌など、当時のヒットメーカーである一流アーティストにアニメ作品の楽曲を依頼する動きがありました。
これらの楽曲に打ち勝つためには、当時の日本の音楽シーンに多大な影響を与えて来た源流である本場アメリカのヒットメーカーであるところのニール・セダカを持ってくるしかないと考えたのかもしれません。
当時のアニメファンたちのほとんどは、ニール・セダカの存在を知りませんでしたが、海外の著名なアーティストが日本のアニメ主題歌の作曲を手掛けたということに驚きましたし、シンセサイザーやエレキギターが奏でる先進的なサウンドや鮎川麻弥の透き通った歌声が生み出す、それまでのアニメソングとは異なるシャープでスタイリッシュな楽曲(この辺りは編曲の渡辺博也の功績かもしれませんが)に、アニメにおける時代の変革を感じた方も多かったはずです。
この後もサンライズは音楽にこだわった作品作りを続け、TM NETWORK「GetWild」をはじめとする『シティーハンター』(1987~1988年)の楽曲や、『天空のエスカフローネ』(1996年)、『星方武侠アウトロースター』(1998年)、『カウボーイビバップ』(1998~1999年)、『ガサラキ』(1998~1999年)、『無限のリヴァイアス』(1999~2000)といった楽曲が印象的な作品を生み出していき、さらには、全てエイベックスとのタイアップ曲が採用された『犬夜叉』、出演声優によるアイドルグループが実際にライブ活動も行う『ラブライブ!』シリーズなどに繋がっていくわけです。
次回に続く。
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※1 アニメ制作会社のサンライズは、バンダイナムコホールディングスの子会社でしたが、2022年4月にバンダイナムコグループの再編に伴ってバンダイナムコフィルムワークスに組み込まれて法人としての「サンライズ」は消滅。現在は同社のブランド名となっています。
※2 『超時空要塞マクロス』は、歌手の飯島真理のデビューとタイアップして、オーディションに参加してアイドルデビューする中華料理店の看板娘リン・ミンメイというメインキャラクターを飯島真理自身が声優として演じ、歌も担当するという、アニメ史上初の試みをした作品です。
さらに、戦争しかしらない異星人が、リン・ミンメイの歌にカルチャーショックを受けて、アイドルの歌が戦争を終結させるという作品内容で、アイドルや歌が単なる主題歌というだけではない、重要な役割を持っていました。
※3 『魔法の天使クリィミーマミ』は、魔法世界の妖精に魔法の力を与えられた主人公の少女が、成長した姿に変身してアイドルデビューをしてしまうという内容。そのアイドルを、日本テレビのスター発掘番組『スター誕生!』で合格し、アイドル歌手デビューが決まった太田貴子が声優として演じ、さらに作中でのアイドルデビュー曲も、実際のデビュー曲が使用されるという、アニメと現実をシンクロさせた画期的な作品でした。
※4 加藤和彦はザ・フォーク・クルセダーズやサディスティック・ミカ・バンドで知られる音楽プロデューサー・作曲家で、「帰って来たヨッパライ」「悲しくてやりきれない」「白い色は恋人の色」「あの素晴しい愛をもう一度」などの名曲を生み出しています。
加藤和彦の妻で作詞家の安井かずみは、沢田研二の「危険なふたり」や郷ひろみ「よろしく哀愁」 など数多くのヒット曲を生み出し、作詞曲は約4000曲にものぼる程。
1980年に発表された加藤和彦&安井かずみによる「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」は、数多くの歌手にカバーされ、2001年には、フジテレビドラマ『カバチタレ!』の主題歌として使用されたキタキマユによるカバーがヒットしました。
アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題