アニメソング(アニソン)の歴史 ⑬ 声優アーティスト 後編
声優が初めてレコード会社と専属契約したのは、1991年にキングレコードと契約した林原めぐみだと言われています※1。
椎名へきるは、1997年に声優初となる日本武道館コンサートを開催しました。
その他、横山智佐、岩男潤子、櫻井智、国府田マリ子、丹下桜、緒方恵美、飯塚雅弓といった声優たちが次々にアーティスト活動をし始めて数々のCDをリリースしており、この頃は若く容姿の整った女性声優がアイドル的な存在となっていきました。
2000年以降になると、先人である林原めぐみに加え、堀江由衣、田村ゆかり、水樹奈々、坂本真綾といった新たな世代の女性声優たちがアーティスト活動で頭角を現し、より質の高い楽曲をリリースして声優アーティストの進化を見せました。
中でも水樹奈々は、2009~20014年に6年連続でNHK紅白歌合戦に出場したので、アニメファン以外にも認知される存在ともなりました。
堀江由衣、田村ゆかり、水樹奈々のような単独で多くのファンを持ち得るアーティストはごく限られた存在であることや、モーニング娘。(1997年~)やAKB48(2005年~)などの影響もあってか、声優アーティストもユニットで売っていく路線が増えていきました。
女性声優のアーティスト活動に比べ、男性声優のものはやや例が少なく、アイドル的なものよりはバンドという形でのユニットが多い特徴があります※2。
<主なアイドル声優ユニット>
NG5(草尾毅、佐々木望、竹村拓、中村大樹、西村智博)1989年~
DoCo(林原めぐみ、日髙のり子、佐久間レイ、高山みなみ、井上喜久子)1990年~
バナナフリッターズ(日髙のり子、山寺宏一、関俊彦)1991年~
Prits(桑谷夏子、望月久代、小林由美子、水樹奈々)2001年~
みっくすJUICE(中原麻衣、植田佳奈、斎藤千和、森永理科)2002年~
DROPS(國府田マリ子、金田朋子、神田朱未、野中藍、白石涼子)2004年~
TAMAGO(門脇舞、福圓美里)2004年~
Aice5(堀江由衣、神田朱未、たかはし智秋、浅野真澄、木村まどか)2005年~
クローバー(井ノ上奈々、宮崎羽衣、斎藤桃子、庄子裕衣)2005年~
スフィア(寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥、豊崎愛生)2009年~
ゆいかおり(小倉唯、石原夏織)2008年~
StylipS(能登有沙、豊田萌絵、伊藤美来、石原夏織、小倉唯、松永真穂)2011年~
i☆Ris(山北早紀、芹澤優、茜屋日海夏、若井友希、久保田未夢、澁谷梓希)2012年~
petit milady(悠木碧、竹達彩奈)2013年~
TrySail(麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜)2015年~
イヤホンズ(高野麻里佳、高橋李依、長久友紀)2015年~ ※3
ピュアリーモンスター(今野優月、吉咲みゆ、安藤鈴菜、勝野里奈、塙有咲、他)2017年~ ※4
サンドリオン(黒木ほの香、小峯愛未、小山百代、汐入あすか)2017年~
<特定のアニメ作品のために結成された企画ユニット>
『ギャラクシーエンジェル』:ムーンエンジェル隊(新谷良子、田村ゆかり、沢城みゆき、山口眞弓、かないみか、後藤沙緒里)2001年~
『探偵オペラ ミルキィホームズ』:「ミルキィホームズ」(橘田いずみ、三森すずこ、徳井青空、佐々木未来)2010年~
『ラブライブ!』:「μ’s」(新田恵海、南條愛乃、内田彩、三森すずこ、飯田里穂、Pile、楠田亜衣奈、久保ユリカ、徳井青空)2010年~
『Wake Up, Girls!』:「Wake Up, Girls!」(吉岡茉祐、永野愛理、田中美海、青山吉能、山下七海、奥野香耶、高木美佑)2013年~
『ラブライブ!サンシャイン!!』の「Aqours」(伊波杏樹、逢田梨香子、諏訪ななか、小宮有紗、斉藤朱夏、小林愛香、高槻かなこ、鈴木愛奈、降幡愛)2015年~
『マクロスΔ』:「ワルキューレ」(JUNNA、鈴木みのり、安野希世乃、東山奈央、西田望見)2016年~
『けものフレンズ』:「どうぶつビスケッツ×PPP」(尾崎由香、本宮佳奈、小野早稀、佐々木未来、根本流風、田村響華、相羽あいな、築田行子)2018年~
『ラブライブ!スーパースター!!』:「Liella!」(伊達さゆり、Liyuu、岬なこ、ペイトン尚未、青山なぎさ、鈴原希実、薮島朱音、大熊和奏、絵森彩、結那、坂倉花)2020年~
こうしたアイドル的な声優ユニットの他に、高山みなみがボーカルを担当する「TWO-MIX」(1995年~)や谷山紀章がボーカルを担当する「GRANRODEO」(2005年~)、南條愛乃がボーカルを担当する「fripSide」のような音楽ユニットも活躍しました。
2010年代では、宮野真守、花澤香菜、悠木碧、早見沙織、南條愛乃、蒼井翔太、竹達彩奈、内田真礼、上坂すみれ、水瀬いのりのような単独で活躍する新世代の声優アーティストたちも出ています。
元々歌手で声優活動もするようになった茅原実里、栗林みな実(先述の水樹奈々も歌手デビューが先)のような存在もあり、声優と歌手の境界はかなり曖昧なものになりつつあります。
このように見てくると、女性声優の方がアーティスト活動をする例が多いように思われますが、男性声優も負けてはいません。
男性声優によるラップ音楽CD企画「ヒプノシスマイク」を2017年に始動させるとたちまち大人気となり、これが2020年にはアニメ化され、コミカライズや2.5次元舞台などメディアミックス展開されていきました。
声優の音楽活動は元々アニメから派生したものでしたが、ついに声優の音楽活動からアニメが生まれる逆転現象が起こったわけです。
現在では、この「ヒプノシスマイク」のようなものや、『ラブライブ!』シリーズなどのアイドルアニメ、『BanG Dream!』シリーズなどのバンドアニメなど、声優の歌唱を前提としたアニメ企画が多く作られるようになってきており、声優アーティストという存在が、アニメ作品にとっても影響力の大きなものとなってきているのです。
次回に続く。
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※1 林原めぐみは、キングレコードとの専属契約前にも、ポリドールから『小さなアヒルの大きな愛の物語 あひるのクワック』(1989~1990年)のオープニング・エンディング曲をリリースしています。
※2 男性声優ユニットは、その多くがアイドルアニメの企画ユニットで、『アイドリッシュセブン』の「IDOLiSH7」や『あんさんぶるスターズ!』の「Trickstar」といったように、作品ありきの形で成立しているユニットが多く存在しますが、アーティスト活動というよりは、作品イベントの出演という限定的な活動である性格が強いようです。
単独でアーティスト活動を行っている男性声優も多くおり、ファンもいましたが、作品の主題歌として採用されるケースは、女性声優の方が圧倒的に多かったようです。
これには、上記の作品も女性向け作品であり、男性声優のファンは圧倒的に女性で占められている反面、女性声優のファンの場合は、男性の方が多いものの、その比率は男性声優ファン程には差がなく、女性声優には男女共に訴求力があるという面が反映されているとも考えられます。
※3 「イヤホンズ」は、アニメ『それが声優!』の作中に登場する女性声優3人による架空のユニットで、3人を演じた声優が実際にライブ活動を行うマルチメディア展開のために結成した同名のユニットです。
当初は同作品の主題歌を唄うことを目的としたアニメ作品ありきのユニットでしたが、予想を上回る人気を博し、アニメを離れて独自の活動を行う声優ユニットとなっていきました。
そのため、『AKIBA’S TRIP -THE ANIMATION-』のオープニング曲や『勇者ああああ』のエンディング曲をはじめ、『それが声優!』以外のアニメやゲーム、テレビ番組などのタイアップソングも担当しています。
※4 「ピュアリーモンスター」の2023年7月時点でのメンバーは、吉咲みゆ、安藤鈴菜、勝野里奈、塙有咲の4人。卒業メンバーは11人おり、最大で9名が所属していたこともありました。
「サンドリオン」も同じく3人の卒業メンバーがおり、初期メンバーから変更されています。
アニメソングの歴史
① 基礎編:基本フォーマットと分類について
② 鉄腕アトムからはじまったアニメソング
③ 『宇宙戦艦ヤマト』と『銀河鉄道999』によって児童向けから脱却
④ 『機動戦士ガンダム』と井荻燐
⑤ サンライズアニメの先進性
⑥ マクロスとクリィミーマミの衝撃
⑦ 独自路線を歩むタツノコアニメ
⑧ タイアップソング黄金時代 前編
⑨ タイアップソング黄金時代 後編
⑩ キャラクターソングの歴史 前編
⑪ キャラクターソングの歴史 後編
⑫ 声優アーティスト 前編
⑬ 声優アーティスト 後編
⑭ 新世代のアニソン歌手たち
⑮ アニメソングが作られる工程
⑯ アニメソングの多様性時代と海外発信力
⑰ アニメソングの課題