アニメの解説書『王様ランキング』① 原作マンガ

『王様ランキング』は、マンガ原作のアニメで2021年10月~2022年3月に全23話が放送されました。 制作は『進撃の巨人』や『GREAT PRETENDER』、『SPY×FAMILY』などで知られるWIT STUDIOです。

ストーリーは、
「剛力を誇る偉大な王の子として生まれたボッジは、自分も強い王になることを夢見ているものの、体も小さく短剣すらまともに振れない非力さに加え、耳が聞こえず言葉も話せないことから、次期王の器ではないと周囲から軽侮されています。そんな中、心を通じ合わせることができるカゲという友達と出会ったことをきっかけに、孤独で空虚だったボッジの人生に光が差し、やがて眩いばかりに輝き出す。」
という少年主人公の成長物語となっています。

原作は、単行本がKADOKAWAから出版されていますが、元はWEBマンガ投稿サイト「マンガハック」に投稿されていた非商業マンガで、現在も最新話が更新されています。
単行本は2022年4月に発売された第13巻が最新刊で、KADOKAWAによると、現在、累計発行部数は150万部を超えているとのことです。

作者はマンガ家の十日草輔(とおかそうすけ)。
デザインの専門学校を卒業して23歳でマンガ家を志すも挫折し、公募で大賞を取った絵本が出版されるも出版社が倒産してまたしても挫折。28歳からWEB系の仕事を始めて32歳でWEB会社の正社員となり、IT会社のマーケティング部に転職。その間もBlogで絵日記やイラストをアップする日々を送っていたとのこと。
40歳を過ぎてから絵で食べて行きたいと脱サラして2017年5月からWEB投稿を始めたのが『王様ランキング』で、何と驚くべきことにこれがマンガ初連載作品なのだそうです。

2017年8月頃からTwitterで話題になり、いわゆる「バズった」というもので、一気に人気が広まってTwitterトレンド入りを果たし、「次にくるマンガ大賞 2018」のWebマンガ部門にもノミネート。
そこからはとんとん拍子に、単行本化やアニメ化という流れになったとのことなので、スタートは遅かったものの、スタートしてからの展開が異様に早い、今時な新しいタイプのマンガ家です。

脱サラ後、はじめは過去に受賞歴もあることから絵本で行こうと考えていたようなのですが、当時の絵本業界は、公募やコンテストの受賞者が全員20代と若かったことや、持込を受付けていなかったり、投稿に審査料金がかかる※など閉鎖的でウエルカムな業界ではないと感じ、マンガのWEB投稿サイトを見つけると、そのウエルカムな様子に惹かれてマンガに転向したと本人が語っています。
また、本人にとって絵を描くことから距離を置く要因となっていた、手描きの絵をスキャナーで取り込んで画像編集ソフトで補正するという面倒臭さが、液晶タブレットとの出会いで解消され、絵を描く作業が各段に楽になったことも、絵で食べて行く決断の後押しになったそうです。
このように、投稿サイトや作画ツールなどの存在が『王様ランキング』誕生の要因となったことは、音楽業界でのボカロPのようなネット発アーティストとも共通点が多く、制作環境の面でも今時な作家と言えるでしょう。

液晶タブレットを使って作画されているとのことで、線の柔らかさや緩さのような特徴は、ツールに拠るところもあるようです。絵柄が絵本チックなのは、元は絵本作家を志していたことを思うと納得です。
本人談によると、絵柄は『あらしのよるに』で知られる絵本作家・あべ弘士の影響を受けているそうで、言われてみると確かに、作画の緩さなどの画面の雰囲気が似ているようにも思われます。
現在、更新話数が200話近くなっており、作画能力が向上していますが、初期のデッサン力は今ほどではなく、人体の構造なども少々おかしな具合に描かれていたりします。
それでも顔の表情の描写だけは初期の頃から抜群で、怒り、不安、悔しさ、嘲りなど、感情を描くのが得意なマンガ家との印象があります。


※現在各社の持込(直接・郵送含む)の受付を確認してみると、福音館書店、絵本館、ほるぷ出版などでは持込を受付けていますが、フレーベル館や偕成社、ポプラ社、教育画劇などのように、過去には受け付けていたものの、現在は受付を停止しているところも多く見られました。
また、現在の各絵本コンテストの募集要項を確認してみると、「講談社絵本新人賞」は参加・応募料1,500円、「白泉社 MOE創作絵本グランプリ」「文芸社 えほん大賞」「童心社 絵本テキスト大賞」「フレーベル館ものがたり新人賞」は料金不要となっています(いずれも2022年6月現在)。
なお、十日草輔が脱サラした当時は存在していませんでしたが、投稿も閲覧もすべて無料の絵本投稿サイト「絵本ひろば」が2017年12月にオープンしています。


アニメの解説書『王様ランキング』
① 原作マンガ
② オープニングアニメ
③ キャラクター
④ 物語進行の再構成
⑤ アニメの技巧
⑥ ストーリー
⑦ 王様ランキング