アニメの解説書『王様ランキング』④ 物語進行の再構成

アニメの解説書

前回はアニメ『王様ランキング』のキャラクターについて解説しましたが、今回は物語の構成について取り上げます。

原作の読者は気づいていることと思いますが、アニメでは、ストーリー自体は原作に忠実過ぎるくらい忠実に描きながらも、その物語の構成を大胆に編集し、見せるエピソードの順番を変えています。

アニメでは、第1話ではボッジを、第2話ではカゲを、第3話ではヒリングを、第4話ではドーマスといった具合に1人ずつに焦点を当てた形で人物背景が描かれる構成で、第4話からは、ボッジとカゲの2人旅が始まり、王国ではダイダが魔法の鏡の陰謀に堕とされるなど物語は急展開、という流れになっているわけですが、原作では、そのような構成は取っていません。

原作では第2話で、周囲が自分へ向ける嘲りに気づかず平気なふりをしているボッジが、実際には傷ついていて皆の見ていない所では涙を流して耐えていることを知ったカゲが、他の人たち同様にボッジをバカにした自分を殴りつけ、自分だけはボッジの味方になろうと誓うのですが、アニメ第1話では、この時のカゲは隠れて泣いていたボッジに驚くだけです。 第2話でカゲの過去を描いた後のラストで、ダイダとの勝負で傷だらけになりながらも、泣きながら剣を持ち上げようと藻掻くボッジに声をかけ、「これからどんなことがあってもお前の味方になりたんだ」と告げ、大粒の涙を流すボッジの笑顔が第2話のクライマックスとなっています。

原作では、第2話でのカゲがボッジの味方になることを誓う独り言が強調され、ボッジへの宣言はあっさりしたもので、ボッジも困惑したような表情を浮かべるだけです。
カゲの過去エピソードは第11~12話とかなり先に描かれており、カゲの心情の変化やその背景は分断されたエピソードで描かれ、読者は後からそれを連結させて理解するという構成になっています
アニメでは、これを再構成し、初めは騙しやすい鴨だとバカにしていたボッジが、みんなが自分へ向けている侮蔑に気づきながらも平気な顔をしているという意外な一面を目撃したことがきっかけとなり、カゲがボッジの内面性に目を向け始めます。次に、ひねくれた物言いのコソ泥になってしまったカゲの過去が語られ、その後、決闘でダイダに一方的に殴られ続けるボッジに、周りから不当な仕打ちを受けて来た自分を重ね合わせ、最後に、全身包帯まみれのボロボロな状態になりながらも諦めずに強くなろうとする姿を見て心を打たれ、ボッジの味方になることを宣言する、という一連のカゲの心情の変化や流れを繋げることで、カゲの宣言というクライマックスへの盛り上がりを最高潮に持ってくる構成になっているわけです。
これは、この時のカゲの宣言こそが、この物語の根幹となり、それまで誰も味方がいないかに見えたボッジを導いて物語を展開させていく出発点として強調されていて、熱のこもった演出のこだわりが感じられます。

この他の部分でも原作とは進行の構成を変えている箇所がいくつもあり、見比べてみると、アニメでの演出意図が明確になって新たな発見ができます。
また、原作にはあった伏線となるセリフのいくつかもアニメ版ではカットされています。
マンガでは1ページ内に複数のセリフが同時に記載され、その文字の大きさや配置などで、読者に意識を向けさせない形で伏線セリフを潜ませやすい特徴がありますが、アニメでは複数のセリフが被ったりすることはないので、音の強弱などの調整はできるものの、マンガよりも伏線を潜ませ難く、意味を持ち過ぎてしまう特徴があります。 そのため、作品の主要テーマの一つである王様ランキングに関わる伏線を除き、原作内ですらまだ回収できていない謎のセリフたちについては、アニメでは敢えてカットしているのではと推察されます。


アニメの解説書『王様ランキング』
① 原作マンガ
② オープニングアニメ
③ キャラクター
④ 物語進行の再構成
⑤ アニメの技巧
⑥ ストーリー
⑦ 王様ランキング