アニメの解説書『王様ランキング』③ キャラクター
前回はアニメ『王様ランキング』のオープニングについて解説しましたが、今回はキャラクターについて取り上げます。
キャラクターのネーミング
原作者・十日草輔のインタビューによると、名前を決めるのが苦手とのことで、ソードマスターだからドーマスといった具合に単純な決め方をしているそうです。
確かに、独りぼっちのボッジ、回復魔法を使うヒリング、蛇使いベビン、王妃の盾ドルーシ、王の槍アピスなど、割とひねりのないネーミングが多いことがわかります。
ちなみに、ペンネームである「十日草輔」は、2018年9月頃に正式名称として設定されたもので、連載開始時は「goriemon」でした。こちらはペンネームのつもりはなく、マンガを投稿しているマンガハックのアカウント名のままだったそうで、ニコニコ静画での名前が「aaa」だったのも、アカウント名だと思うと納得ですよね。
「十日草輔」の由来は公開されていませんが、誕生日だとか、案外単純な理由なのかもしれません。
キャラクターのギャップ設定
『王様ランキング』のキャラクターの特徴は、何と言っても初見を裏切るギャップです。
初見では悪人だと思われたキャラが実は良い人で、ただのモブだと思われていたキャラが、実は信念を持って行動していて重要な働きをするなんていうギャップが、主要キャラばかりではなく、ほとんどの登場キャラに当てはまり、キャラの人物像に奥行きを与えています。
このあたりを十日草輔は、ファンである藤子・F・不二雄の『ドラえもん』の中で、テレビ版では単純なイジメっ子として描かれるジャイアンが、映画版では頼り甲斐のあるタフガイになるような、ギャップのあるキャラの描かれ方に影響を受けたと語っています。
ヒステリックで継子の第一王子・ボッジを排して実子の第二王子を王位に就けようとする王妃に、性格の悪そうな第二王子、清廉そうなイケメン剣士、悪人面の蛇使い、寡黙で能面のように表情の薄い槍使い、強面スキンヘッドで恐そうな護衛、粗暴そうな冥府の王などなど、物語によく出て来る初見オチのテンプレートキャラばかりかと思わせておいて、その初見の印象を悉く覆してくるキャラ表現が、『王様ランキング』の魅力の一つになっているのです。
主人公ボッジについて
耳が聞こえず非力な主人公というハンディキャップを抱えた主人公設定は、昨今のポリコレの文脈とは全く異なるもので、障害者を描く話だと捉えるのは、この物語の本意から外れるように思われます。
原作者本人のサイトに記載されているあらすじを見ても、体が小さく非力であることを第一に、その上、耳も聞こえないと耳の障害は第二として記載されています。
このことから、原作者の主眼が非力さに置かれており、耳が聞こえないというのは、周囲とのコミュニケーションが取れず孤独であるという設定を加えるための付加要素であることが推測できます。
アクション時代劇の『座頭市』を、障害者が頑張る話だと認識している人は少ないでしょう。単純に、普段は弱いと蔑まれている座頭の市が、実は凄く強いというギャップヒーローとして楽しむ作品という捉え方が一般的で、盲目は座頭(江戸時代における盲人階級)という設定上の付加要素にしか過ぎません。
『王様ランキング』も、単純に、周りからダメ王子だと思われているボッジが、実は凄い才能を秘めていて、カゲとの出会いによって周囲の評価を覆していくという方が、素直な見方のようです。
十日草輔自身も軽度の難聴とのことですが、子供の頃から検査には引っ掛かるも生活に支障がないレベルだったようで、手話はできず、作中に出て来る手話はネットで調べて作画しているとのことです。
本人は、自身のことを障害者であるとの認識はないようですし、コンプレックスの一面が垣間見えてしまうことを本意ではないようにも語っていることから、各人の捉え方は自由ではあるものの、そうした障害者問題の文脈で解説して作品の見方を限定してしまうのは、あまりお勧めしないところです。
父王ボッスについて
前述の通り、ギャップのあるキャラ設定が『王様ランキング』の魅力の一つであり、ボッジの父であるボッス王も例に漏れず初見や外見とはギャップのある人物像で描かれています。
ボッス王は、魔人と契約して我が子の力を奪っていた張本人であったわけですが、そんな悪い父親であるボッス王が目をかけて取り上げた四天王は、結局全員いい人たちばかりだったわけで、ボッス王の見識が確かだったことが窺い知れます。
国の在り様は為政者の人格を映し出す鏡であるわけですから、基本的にボッス王国の家臣たちに一人も悪人がいないことや、王国の街や住人を見ても、他国とは違ってとても治安が良さそうで、ボッス王の人柄が偲ばれます。
京都アニメーション作品のように、作中に一人も悪人が出てこないタイプの作品もありますが、『王様ランキング』の場合はそれに該当せず、ボッス王国外の世界にはちゃんと悪人が出て来ます。
これは、我が子から力を奪うという大罪を犯しながらも、ボッス王はただの悪人ではなかったということを、間接的な表現で見せているもので、『王様ランキング』は、そういう設定面の構成でもちゃんと配慮が成されている作品だと言えます。
まとめ
メッセージ性の高い作品であったり、物語を見せることが主体であるような作品の場合、物語を進行させるための役割としてのキャラクターが存在しているという作りになっていることが多いのですが、『王様ランキング』の場合は、一人一人が信念や目的があって、それぞれの想いに従って行動しているので、一人一人のキャラが地に足がついているのが特徴です。
また、キャラ配置や構成面でも工夫がされているので、そういう面に目を向けると、さらに作品の奥行きが感じられると思われます。
アニメの解説書『王様ランキング』
① 原作マンガ
② オープニングアニメ
③ キャラクター
④ 物語進行の再構成
⑤ アニメの技巧
⑥ ストーリー
⑦ 王様ランキング