アニメ聖地巡礼の自治体アンケート調査に関する考察 その①
我々が手掛けたアニメ聖地巡礼をテーマにした書籍『アニメ聖地データ白書』を通じてお話する機会をいただきました、元・北九州市立大学の森裕亮准教授・博士（現・青山学院大学教授）が、この度「アニメ聖地巡礼を活用した地域の魅力づくりと活性化を考えるアンケート調査報告書（速報版）」を発表されました。
『アニメ聖地データ白書』が発刊されてからすでに1年近くが経ち、コロナ渦も含めて目まぐるしく世の中が変わりゆく中、このアンケート調査を基に、聖地巡礼について考察を重ねてみたいと考えています。
まずは、この調査の概略についてですが、アニメ作品の視聴者が、少なくとも過去に１度でも訪問したことが確認された自治体（市区町村）の担当部局624の自治体を対象に行われた郵送調査で、質問数は23項目に上り、有効回答数は436団体（69.9％）となっています。
まず、1項目目となるアニメ聖地巡礼に関する取り組みの実施の有無を問う質問に対しては、36.2％の自治体が過去もしくは現在進行形での実施経験があると回答しており、別項では、実施された取り組みの内容や、実施したことがない理由などについても、細かく調査回答が挙げられています。
取り組みが行われる契機に関する質問に対しては、聖地巡礼に訪れるファンが増加したことを受けて、自治体や観光協会などが活動を開始したというものや、地元を舞台にした注目の作品が劇場公開されたといった王道の流れが多い中で、アニメツーリズム協会の「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を契機に挙げる回答が8件程見受けられ、調査報告書でも、これを新たな発見としています。
この契機に関する質問で、我々が注目したのは、記念系の理由です。
地元出身のアニメ原作者の没後〇年というものや、アニメ放送から〇周年、原作マンガの出版〇周年などを挙げる回答があり、何かしらの節目や周年記念のようなものがあると、プロジェクトの始動の理由付けやプロモーションがしやすいのではないかと推察されます。
また、数は少ないながらもアニメ好きの職員がいたとの回答もあり、これも重要な要件に成り得ることが想像できます。自治体や観光協会などの内部の職員が積極的に推進することで、取り組みが動き出すことは、過去の事例でも多く見られ、逆に、聖地巡礼ファンが多く訪れるような地域でも、その地域の担当部署にアニメに詳しい職員がいないことでスルーされてしまっていることも往々にしてあるようです。
回答には上がってこないものの、実際には、取り組みが行われている団体の中に、アニメに詳しい職員がいるケースが多々あるのではと想像されます。
以下に、具体的なきっかけに関する回答で特徴的なものをいくつか列記します。なお、個別の回答団体の情報を明らかにしないように表記を変更しています。
XX＝当該自治体名、YY＝当該市区町村がある都道府県名、ZZ, ZZZ,ZZZZ, または他のアルファベット＝アニメ作品名、キャラクター名、当該自治体の地域名（温泉名、地区名、広域圏名等）。
質問）
取り組みのきっかけについて，具体的にお教えください。（お分かりの範囲内で結構です）
回答1）
2010 年、XX職員がテレビ番組の「GW に行ってみたいサブカルチャーの街」のランキングでXX が第３位に挙げられていることを知り調べると、本作品に登場する街並みがXX ではないかとファンの間で話題になっていた。当時すでにアニメ聖地による可能事業には成功例があり、XX でも取り組めないかと思い立ったことがきっかけでアニメ事業が始動した。
回答2）
2011年にアニメの放映が開始されたことをきっかけに、翌年の2月に観光協会が事務局となって、XX内観光事業者、観光協会、行政で構成するキャンペーン実行委員会が発足した。（令和元年7月に解散）。アニメから取り組みを開始し、その後実写映画が製作されたことをきっかけに、行政も主体となり、映画の上映に合わせて本作品を活用した観光プロモーションを行なった。
回答3）
アニメの放映に合わせてYY（庁）観光部、YY観光推進機構、XX役場等が旗振り役・調整役として取り組みが始まった。
回答4）
アニメ放映開始後、視聴者等から背景がXX の景色に似ていると口コミが広がり、XX観光協会がYY フィルムコミッション及び制作会社へ事実確認したところ、XX がロケ参考地となったとのことだった。またアニメ放映開始以降、アニメファンと思われる女性たちがXX内を周遊している姿が多く見られるようになり、更なる誘客等を目的として、XX観光協会による取り組みを開始した。
回答5）
アニメ放映を機に地元有志によってファンの受け入れと地域の活性化を目的とした協議会が設立され、取り組みを実施しています。自治体は版権利用や取り組みの許可関係などで協力しています。
次回も引き続き、アンケート調査の内容についての考察記事を行います。