『宇宙戦艦ヤマト』誕生物語 その③ ヤマトの光と闇 権利問題

連載コラム「アニメの未来を考える」

前回、前々回と、アニメ史上に残る名作アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の誕生とその魅力について語りましたが、今回はヤマトの暗黒面について取り上げます。

1974年に放送されたテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』は、本放送こそ低視聴率で打ち切りになるものの、再放送や劇場版3部作の公開で火がついて社会現象とまで呼ばれる程の大ヒット作品になりましたが、令和になった現在、テレビで『宇宙戦艦ヤマト』の再放送を見ることはありません。
見ることができるのは、2012年より展開されたリメイク版シリーズのみで、オリジナルシリーズの方は、テレビでの再放送どころか、NetflixやAmazon Prime Video、U-NEXTなどの配信サービスも含め、一切視聴することができません。

なぜなのでしょうか?

かつて、『宇宙戦艦ヤマト』をめぐる4つの裁判がありました。

【商標権をめぐる裁判】1999~2000年
1997年に『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーで権利者である西崎義展氏が、東北新社に4億5,000万円で権利を譲渡しますが、その契約前に自身の長男に『宇宙戦艦ヤマト』の商標権を無償譲渡していたと主張して訴え、東北新社側は、商標権も譲渡契約の対象内であるとして反訴。この裁判では、西崎氏の敗訴という判決が下りました。

【PSソフト損害賠償等請求裁判】1999~2001年
『宇宙戦艦ヤマト』の権利を所有する東北新社の許諾により、バンダイ及びバンダイビジュアルが製作したプレイステーション用ソフト『宇宙戦艦ヤマト 遙かなる星イスカンダル』と『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の2作品に対し、西崎氏が著作権人格権を侵害しているとして損害賠償を求めて提訴。判決は西崎氏の敗訴となりました。

【著作権をめぐる裁判】1999~2003年
『宇宙戦艦ヤマト』で監督・美術・設定デザインを担当した漫画家の松本零士氏が、プロデューサーの西崎氏に対し、『宇宙戦艦ヤマト』のテレビアニメ及び劇場公開作品について、自身が著作者であることを法的に認めさせようと訴え、西崎氏がこれに反訴。結果は松本氏の敗訴でしたが、松本氏はこれを不服として上告。
2003年に両氏が訴えを取り下げ和解するも、東北新社は、この両氏が別個に続編制作することを互いに認める和解発表に対し、著作権は正当な手続きを経て自社の保有するところとなっているので、和解内容は無効である旨の見解を発表。

【パチンコ損害賠償等請求裁判】2004~2006年
『宇宙戦艦ヤマト』の権利を所有する東北新社が、パチンコメーカーの三共、ビスティ、フィールズに対して、三社が製造・販売したパチンコ機が、複製権又は翻案権を侵害しているとして損害賠償を求めて提訴。判決は東北新社の敗訴。
この裁判では、『宇宙戦艦ヤマト』の権利が西崎氏個人ではなく、西崎氏が代表を務める会社法人(オフィス・アカデミー)にあったと判断されました。これに従うとすれば、東北新社が西崎氏個人と締結した著作権譲渡契約は無効になってしまいます。
また、仮に著作権譲渡契約が有効であったとしても、契約書に翻案権または著作権全部の譲渡という記載がない以上は、翻案権が譲渡の対象に含まれていないと判断されました。
東北新社はこの判決を不服として上告するも、後に和解し、三共らから和解金を受け取っています。

つまりどういうことかというと、
東北新社は、西崎氏から『宇宙戦艦ヤマト』に関する全権利を譲渡されたつもりでしたが、著作権譲渡契約の不備のために裁判所でそれが覆る判断がされたこと。
当事者であるはずの東北新社を交えず、また裁判所判断の外で(法的効力のないところで)、西崎氏と松本零士氏の間で、互いが共同の著作者であり、西崎氏が代表著作者であることが合意されてしまったこと。

上記の2点ともに直接的な訴訟の対象外のところで発生した判断や合意内容に過ぎず、権利の帰属を明確にするための裁判をしていないことから、争いは起きていないものの、火種は残ったままという形になっているのです。
権利関係がクリアになっているリメイク版シリーズのみが配信されていて、オリジナルシリーズが未配信という現在の状況は、これらの権利関係の問題が影響していて、派手に商売を展開すると権利問題が再発しかねないのを懸念しているのではとも、単純に東北新社がオリジナルシリーズの配信に対して消極的なだけとも言われていて、本当のところはわかりません。

ちなみに、2008年頃まではローカル局で再放送されていましたが、それ以降は再放送もされなくなり、東北新社の子会社であるファミリー劇場で2014年の正月にリマスター版の一挙放送、2019年に放送開始45周年記念での一挙放送が行われたのが最後のようです。
配信系では、かつてAmazon Prime Videoで配信されていたという情報もありますが(レビューが残っていることから)、現在は配信されていません。他のいずれの動画配信サービスでも同じく配信されていません。
現在、オリジナルシリーズを視聴するには、1990年から2013年にかけて複数社がソフト化したものを入手するくらいしか方法がない状況となっています。

アニメファンの中でも、オリジナルシリーズを一度も見たことがない10~20代の若い人たちは多く、同時代の『機動戦士ガンダム』や『銀河鉄道999』などが今でもテレビで再放送が繰り返され、配信サービスにも提供されている状況と比べると、上述のような大人の事情が作用しているのだとしたら、非常に残念な思いがします。


『宇宙戦艦ヤマト』誕生物語
その① ヤマト発進
その② ヤマトの光と闇 先駆性
その③ ヤマトの光と闇 権利問題