『宇宙戦艦ヤマト』誕生物語 その② ヤマトの光と闇 先駆性
前回、アニメ史上に残る名作アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の誕生について語りましたが、今回はヤマトの何が凄かったのかを取り上げたいと思います。
作品のあらすじを簡単に説明すると、
「西暦2199年、異星人ガミラスの侵略を受けた地球は、遊星爆弾攻撃による放射能汚染で壊滅状態。そんな地球に遥か彼方のイスカンダル星から、放射能除去装置コスモクリーナーDの提供を申し出るメッセージが届きます。古代進たちクルーは、メッセージと共に提供された技術を用いて建造された宇宙戦艦ヤマトで、コスモクリーナーDを受け取り地球に持ち帰るため、襲い来るガミラス軍と死闘を繰り返しながら、14万8千光年彼方のイスカンダル星に向かって宇宙を旅する」
というもの。作品のプロットとしては、天竺にお経を取りに行く西遊記をベースにしたスペースオペラであり、そこに松本零士のビジュアルデザインが加わったことで完成したのが『宇宙戦艦ヤマト』でした。
ファンを魅了したもの
戦艦大和を空に飛ばす。
この発想自体はヤマト以前にも存在していましたし、『マジンガーZ』や『科学忍者隊ガッチャマン』などで空想科学に慣れ親しんだ子供たちにとって、アイデアとしてはそれほど画期的なものではありませんでした。
『宇宙戦艦ヤマト』の魅力は、本格的なSF要素やリアルな戦闘描写、重厚な人物描写や人間ドラマなど、挙げればきりがありませんが、何といってもその絵と音に惹き込まてしまうところが大きかったと思われます。
松本零士がデザインした、あの細かい機器類やメーター類が並ぶコックピットや、戦闘機や武器などのガジェットのどれもがカッコ良く、大砲が何門も並ぶ、いかにも描くのが大変そうな戦艦を、止め絵の使いまわしなどで誤魔化すことなく、旋回したり、手前に迫ってきたりと豪快に動かすなど、それまで見たことのない迫力ある画面に、ファンは釘付けになったのは想像に難くありません。
また、「波動砲」や「ワープ」などのキャッチーな用語から、子供向けのアニメには出てこないようなSF知識や科学・軍事関連の用語や言い回しが多用されていたり、波動砲発射時の効果音などの拘り抜いた音響、ささきいさおが歌うオープニング曲も高揚感抜群だったりと、音に関しても『宇宙戦艦ヤマト』は特別でした。
アニメではお決まりの必殺技にしても、それまでのロボットアニメなどでは、「ロケットパーンチ!」と技名を叫んで武器が飛び出すだけでしたが、『宇宙戦艦ヤマト』の「波動砲」の場合は、そんな簡単には済ませません。艦内に警報が鳴り響いた後、
- 必要最低限のものを残して電源を切り、波動エンジンの再始動に必要な電力を貯蓄
- 波動エンジン内の圧力を上昇
- 非常弁を全て閉鎖
- 波動砲へのエネルギー伝導管の回路を開通
- 強制注入機を作動(全エネルギーを波動砲へ注入)
- 安全装置(セーフティロック)を解除
- 操艦を航海長から戦闘班長へ委譲(戦闘班長によって艦首を目標方向へ向ける)
- ターゲットスコープ オープン(ヘッドアップディスプレイ+発射スイッチをセット)
- 対ショック対閃光防御(乗務員が対閃光ゴーグルを装着)
- カウントダウン
- 発射
という実にまどろっこしい行程である「発射シークエンス」を行います。
絶体絶命の危機に追い込まれ、あわや撃沈という最中に、この時間のかかる儀式が行われ、乗組員はみな内心の焦りを抑えながら、波動砲を信じてこの発射シークエンスを見守るのです。見ているファンたちも、まるでコクピットに居合わせた乗組員の一人かのように、テレビの前で固唾を飲んでこの発射シークエンスを見守っていました。
そしてこの波動砲の一撃でものの見事に形勢を逆転させて敵を打ち破り、危機を脱した時の爽快感や安堵感。これが胸躍らずにいられようかとばかりに、当時の男の子たちは目を輝かせて『宇宙戦艦ヤマト』を見ていました。
アニメ史としての『宇宙戦艦ヤマト』の意義
アニメ史上における『宇宙戦艦ヤマト』の意義とは如何なるものだったのでしょう。
それは、アニメは小さな子供たちのためのものという固定概念が支配していたアニメ業界に、中学生や高校生といったハイティーン世代をターゲットに作品作りをすれば、充分にビジネスになることを、可能性を見せるといった生易しいものではなく、社会現象とまで言われた一大ブームと、自らが手にした莫大な利益によって実証してしまったことにあります。
『宇宙戦艦ヤマト』という成功の前例がなければ、この後に同じくハイティーン世代をターゲットに作られた『機動戦士ガンダム』は賛同を得られず、富野由悠季の構想止まりで終わったかもしれません。
子供から大人まであらゆる世代が楽しめる現在の日本アニメの多様性は、『宇宙戦艦ヤマト』がなければ生まれなかった可能性すらあります。
初回放送時、同時刻に放送していた裏番組『アルプスの幼女ハイジ』の方が圧倒的な人気で、『宇宙戦艦ヤマト』は視聴率低迷で打ち切りの憂き目に遭いますが、放送終了後、この評価は逆転します。
事はハイジ対ヤマトの作品対決に留まらず、日本アニメの本流だったハイジのような子供向けアニメが、ヤマトの流れを汲む中高生向けアニメにその本流を明け渡すことになり、支流に追いやられてしまうのです。
これより後の時代、近年までアニメは子供向けの娯楽であるとの一般認識から脱却できずにいた海外で、いち早くその認識を打ち破り、中高生向けに作られた日本製アニメが大きな支持を集めるに至った日本アニメの転換が、この『宇宙戦艦ヤマト』によって引き起こされたことは、アニメ史に刻まれる大事件だったわけです。
ちなみに、『宇宙戦艦ヤマト』に出て来るアナライザーというロボットを、『スター・ウォーズ』のR2-D2のパクリではないかと勘違いしている人もいますが、実は『スター・ウォーズ』が公開されたのは、ヤマト放送後の1977年なのです。
あの『スター・ウォーズ』よりも3年も前に『宇宙戦艦ヤマト』が生み出されていたことに、改めて驚かされます。
<宇宙戦艦ヤマトシリーズ作品>
オリジナルシリーズ
『宇宙戦艦ヤマト』 1974年10月~1975年3月放送 日本テレビ系列 全26話
『宇宙戦艦ヤマト(劇場版)』 1977年8月劇場公開 オフィス・アカデミー ※テレビ版の総集編
『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』 1978年8月劇場公開 東映
『宇宙戦艦ヤマト2』 1978年10月~1979年4月放送 日本テレビ系列 全26話
『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』 1979年7月放送 フジテレビ系列
『ヤマトよ永遠に』 1980年2月劇場公開 東映
『宇宙戦艦ヤマトII ヤマトよ永遠なれ!』 1979年10月放送 日本テレビ系列 ※テレビ版の総集編
『宇宙戦艦ヤマトIII』 1980年10月~1981年4月放送 日本テレビ系列 全25話
『宇宙戦艦ヤマト 完結編』 1983年3月劇場公開 東映
『宇宙戦艦ヤマトIII 太陽系の破滅』 1983年12月放送 日本テレビ系列 ※テレビ版の総集編
『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』 2009年12月劇場公開 東映
リメイク版シリーズ
『宇宙戦艦ヤマト2199』全七章 2012年4月~2013年8月劇場公開 松竹(先行上映)
『宇宙戦艦ヤマト2199』 2013年4月7~9月 TBS系列 全26話
『宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海』 2014年10月劇場公開 松竹 ※テレビ版の総集編
『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』 2014年12月劇場公開 松竹
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』全四章 2017年2月~2018年1月劇場公開 松竹(先行上映)
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』 2018年10月~ 2019年3月 テレビ東京系列 全26話
『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』 2021年6月劇場公開 松竹 ※総集編
『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章 -TAKE OFF-』 2021年10月劇場公開 松竹
『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 後章 -STASHA-』 2022年2月劇場公開 松竹
『ヤマトよ永遠に REBEL3199』 ※2022年1月に制作発表
OVAシリーズ
『YAMATO2520』全3巻 1995年2月~1996年8月(未完)
『宇宙戦艦ヤマト』誕生物語
その① ヤマト発進
その② ヤマトの光と闇 先駆性
その③ ヤマトの光と闇 権利問題