10月9日は宇宙戦艦ヤマトが地球を旅立った日

2199年10月9日は、1974年に放送されたテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の作中では、ヤマトがイスカンダルへ向け地球を発進した日となっています。

2199年の地球は、異星人国家であるガミラス帝国の侵略を受けており、ガミラスの遊星爆弾による攻撃で、海は蒸発して地球表面は赤茶けた不毛の大池となり、放射能汚染で生物は死滅。地下都市で辛うじて生き残った人類は、なおも抵抗を続けていましたが、地下都市へも放射能汚染が進行しつつあり、人類滅亡まであと1年という絶望的な状況となっています。
そんな地球へ、遥か彼方のイスカンダル星から「放射能除去装置 コスモクリーナーD」の提供を申し出るメッセージと、外宇宙航海を可能とする波動エンジンの設計図がもたらされます。
地球人類は、九州沖の海底に眠っていた日本海軍の戦艦大和を改造し、波動エンジンを搭載した宇宙戦艦を建造。
地球から14万8000光年離れたイスカンダル星へ行き、地球を救うコスモクリーナーDを持ち帰るという地球人類の命運をかけた旅に、たった1隻の宇宙戦艦で出発するというのが、『宇宙戦艦ヤマト』の物語です。

地球人類は、ガミラス帝国に全く歯が立たずに敗れ、絶滅の危機に追い込まれているので、科学力や戦力の差は歴然なわけです。
そんな中、たった1隻の宇宙戦艦で敵中突破して、地球人類がいまだ到達し得ない遥か彼方の外宇宙まで航宙し、往復29万6千光年の旅を完遂して地球に無事コスモクリーナーDを持ち帰るというのは、どう考えても無謀な試みです。
この万に一つもないような可能性に一縷の望みをかけ、経験の浅い若者たち中心のクルーたちが、冷静沈着で経験豊かな歴戦の軍人である沖田館長のもと、苦難に立ち向かう姿が描かれるのが『宇宙戦艦ヤマト』という作品でした。

現在では批判の対象となりかねませんが、当時としてはまだ賛美される向きのあった特攻精神を主軸に置いた作品であり、毎回絶望的な状況に襲われるヤマトのクルーたちが、強い信念で心折れずに立ち向かい、針の穴を通すようなギリギリの作戦を遂行して危機を乗り越えていく姿に、当時の子供たちは熱狂しました。

ところが、最近この『宇宙戦艦ヤマト』について、20代の若者と話をする機会があったのですが、何と作品の名前は聞いたことがあるが、見たことはないというのです。

リメイク版である『宇宙戦艦ヤマト2199』全26話が2013年に、続編の『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』全26話も2018~2019年にテレビ放送されていますが、年間20本程度の作品しか放送されていなかった1970年代とは時代が違います。
現在においては、年間200タイトル以上のテレビアニメが放送される中の一作品に過ぎませんから、見逃した人がいても不思議ではないでしょう。

さらにオリジナルシリーズ(旧テレビシリーズ及び劇場版作品)については、作品の権利を有する東北新社傘下の有料専門チャンネルである「ファミリー劇場」や「スターチャンネル」でのみ再放送をしており、近年では地上波では全く再放送が行われていません。
これらの詳しいところは、先のコラム「『宇宙戦艦ヤマト』誕生物語 その③ ヤマトの光と闇 権利問題」でも取り上げていますが、東北新社の方針により、オリジナルシリーズの放送は有料チャンネルのみの限定放送で、動画配信サービスでの配信も行われていないため、今の若い世代における『宇宙戦艦ヤマト』というのは、名前は聞いたことがある程度の古典的作品になってしまっているようです。
懐かしのアニメソング特集のようなテレビの特番で、ささきいさおの歌と共に流される一部の映像くらいしか見る機会がないとしたら、それも致し方がないことなのかもしれません。

来年2024年は、『宇宙戦艦ヤマト』が放送50周年を迎える年です。
これに向け、今年の9月に「BS10 スターチャンネル」で、旧テレビシリーズ全3作品の計77話を独占放送・配信する「『宇宙戦艦ヤマト』長期徹底特集」が実施されました。
さらに、劇場版『宇宙戦艦ヤマト』が2023年12月8日から、『さらば宇宙戦艦ヤマト』が2024年1月5日からと、4Kリマスター版の劇場版2作品が連続劇場公開される予定となっています。
この2作品は、2024年1月に「BS10 スターチャンネル」での独占プレミア放送及びAmazon Prime Video チャンネル上の動画配信サービス「スターチャンネルEX」での配信を予定しているそうです。
これに合わせ、YouTubeのBS10 スターチャンネル公式チャンネルでも、HDリマスター版の旧テレビシリーズの第1話が9月から配信されています。

YouTubeチャンネルを除けば、基本的に有料で、意識的に見ようと思わなければ見られない形となっていることから、既存のファン以外のファン層、特に若い世代に支持を広げられるか、なかなかに難しい様相とはなっています。
この50年を節目に、『宇宙戦艦ヤマト』というコンテンツが次世代に受け継がれていく流れを構築できるか、展開を見守っていきたいと思います。

〈了〉


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