『葬送のフリーレン』がなぜ金曜ロードショー枠で放送されたのかの件 前編 好待遇の理由

先日の9月30日に『葬送のフリーレン』の放送が始まりました。
テレビアニメシリーズでありながら、1~4話分を「初回2時間スペシャル〜旅立ちの章〜」として日本テレビの金曜ロードショー枠で放送されるという異例の待遇でのスタートでした。
さらに次回放送からは、新設された23時からのアニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT」にて毎週放送とのことです。

『葬送のフリーレン』の原作は、小学館の「週刊少年サンデー」で連載中のマンガですから、日本テレビで放送されている『名探偵コナン』も同じ少年サンデーコミックスであることから、その関係での待遇と思われている方もいるようです。
しかし、実際には『名探偵コナン』は日本テレビではなく読売テレビの製作しているアニメです。
同じ読売グループのテレビ局ではありますが、別のテレビ局の製作なので、『名探偵コナン』をもって、今回の『葬送のフリーレン』の件を、小学館マンガのアニメ化作品への厚遇と見るのはやや違うように思われます。

実は『葬送のフリーレン』のアニメを制作しているのはマッドハウスで、このマッドハウスは、日本テレビの子会社なのです。
マッドハウスは、虫プロダクション(旧虫プロ)の石神井スタジオメンバーが中心となり、1972年に虫プロから独立して設立した制作会社で、『YAWARA!』『カードキャプターさくら』『はじめの一歩』などの人気テレビアニメシリーズをはじめ、『PERFECT BLUE』から『パプリカ』までの今敏監督の全作品、細田守監督の『時をかける少女』、『サマーウォーズ』など数多くの劇場版作品を手掛ける中堅制作会社です。

『デ・ジ・キャラット』や『ギャラクシーエンジェル』などのコメディから、『BLACK LAGOON』や『DEATH NOTE』のようなハードなもの、『電脳コイル』などのSF作品、『CLAYMORE』などのファンタジーものなど、幅広いジャンルの作品を高いクオリティで制作し、2000年代におけるアニメ業界の一翼を担う強い存在感を示していました。
その名は海外でも広く知れ渡っており、『アニマトリックス』のような海外製作作品の依頼を受ける程でした。

2010年に入ると、看板監督の一人だった今敏監督が病死してしまい、会社も2年連続の赤字、当時の親会社だったインデックスが、取引銀行である日本振興銀行の経営破綻の影響で経営難に陥るなど苦難続きとなり、2011年に第三者割当増資を引き受ける形で、日本テレビがインデックスに代わって筆頭株主になり、その子会社となった経緯があります。

日本テレビ傘下になった後も、『ちはやふる』や『HUNTER×HUNTER(第2作)』といった日本テレビ製作・放送の人気テレビアニメシリーズの他、『ダイヤのA』、『魔法科高校の劣等生』、『オーバーロード』といった他局放送のテレビアニメシリーズも手掛け、相変わらずクオリティの高い作品を生み出しています。

しかし、フジテレビの『ONE PIECE』、テレビ朝日の『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『プリキュア』、テレビ東京の『ポケットモンスター』といったような、青年・大人向けに訴求できるアニメIPを有するに至っていません。
『名探偵コナン』は前述通り読売テレビのものですし、『それいけ!アンパンマン』は児童向け作品です。

マッドハウスでは、数年間にわたり続編が続くような中期放送の人気作品はあるものの、国民的アニメと呼ばれるクラスの長期アニメは誕生せず、グループシナジーを生み出す程の効果を出せていない側面があります。
日本テレビは、マッドハウスと同じくタツノコプロも傘下にしていますが(2014年子会社化)、こちらについても、子会社化以降にヒット作品が出ておらず、アニメIPの強化には繋がっていない印象です。

TBSは、『けいおん!』や『中二病でも恋がしたい!』などの京都アニメーション作品をはじめ、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』、『五等分の花嫁』、『新幹線変形ロボ シンカリオン』など数多くの作品に出資しており、出資比率や作品を年々拡大しています。
さらに、グループ内にマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」の運営会社を持ち、2017年にはアニメ制作会社のSeven Arcsを子会社化、さらにはコンテンツ・IPの企画開発を行う新会社THE SEVENを設立してNetflixと戦略的提携を締結するなど、海外展開も見据えた動きを加速しています。

日本テレビは2022年まで12年連続で年間個人視聴率の全日(6~24時)、ゴールデン(19~22時)、プライム(19~23時)の各時間帯で三冠王を獲得しています。
その視聴率の高さを背景に、他局に比べて日本テレビは放送収益比率が高く、逆にIP収益の売上高が低い状況にあります。広告収入が激減している時代の変化に対応すべく、各放送局がIP事業への拡大を図る中にあって、日本テレビはこの流れにやや出遅れている印象がありました。
そんな日本テレビでも、2020年10月にようやくアニメ事業部を新設し、大きく舵を切ったわけで、その一環としての取り組みが、今回の『葬送のフリーレン』の好待遇に現れたと見ることができるのではないでしょうか。

次回に続く。


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