物語よりもキャラクターを求める時代性について考えた件 後編 終わらないコンテンツ

前回は、国民的アニメの多くが長期放送のために物語性を持たない特性があることと、「まんがタイムきらら」が牽引した日常系の美少女アニメが、物語のないキャラクターだけの作品であることを取り上げました。
今回は、さらに物語よりもキャラクターへの比重が大きくなっていった時代の変化を見ていきたいと思います。

初音ミク現象

前回取り上げたような日常系の美少女アニメの隆盛と同時期に台頭したものに、初音ミクがあります。
2007年に登場した初音ミクは、歌声合成技術VOCALOIDを用いた2バーチャルシンガーソフトウェア製品のキャラクターで、ニコニコ動画やYouTubeでの「ボカロ」ブームにのって「初音ミク現象」とまで言われる程の人気を博しました。
初音ミクには、年齢や身長・体重、好みなどのわずかな設定しかなく、物語を持っていないキャラクターです。

物語を持たないキャラクターというのは、何も初音ミクが最初というわけではありません。
ハローキティに代表されるサンリオのキャラクターなども、初音ミクと同様に設定のみで物語を持っていません。
初音ミクと同時期にブームとなった「ゆるキャラ」や「ご当地キャラ」も同様で、くまモンやせんとくん、ふなっしーなども、キャラクターの設定はあっても、物語は存在しないのです。
これらのキャラクターは、ビジュアルイメージのみで成立しているキャラクターであり、企業や団体、サービスなどのPR目的で用いられているマスコットキャラクターのようなものです。

2000年代以前は『鉄腕アトム』のアトム、『ドラゴンボール』の孫悟空、ウルトラマン、仮面ライダーのように物語の登場キャラクターの方が圧倒的に優勢でしたが、初音ミクのような物語を持たないキャラクターがこれらを凌駕するようになってきているのです。

ポケットモンスター

『ポケットモンスター』のポケモンは、ゲームやアニメで描かれる物語の中に登場するキャラクターですが、その物語を背負っているのは主人公のサトシやポケモントレーナーたちであって、ポケモン自体は物語を持っていません。
ポケモンたちも、サトシのピカチュウやロケット団のニャースなど、それぞれの個体については多少のエピソードこそあれ、設定のみのキャラクターなのです。
『妖怪ウォッチ』の妖怪も同様で、ソーシャルゲームで収集されるカードキャラクターたちなども、これらと同じ性質のものと考えられるでしょう。

ちいかわブーム

現在大人気で、公式ショップには連日行列ができる程の『ちいかわ』も、マンガ原作でアニメ化によって火が付いた作品ですが、物語性は皆無で日常系の作品です。
ゆるかわな絵柄とほのぼの系のストーリーでありながら、世知辛い生活感や労働環境というギャップ、意味不明な展開の面白さがウケて多くの人たちに支持されていますが、これもキャラクター性に振り切った作品と言えるでしょう。

『ちいかわ』の場合は、日常系の美少女アニメから派生し、かわいい+日常系という構図の作品となっているのですが、近年ブームとなっている異世界モノもこの日常系が増えてきています。
異世界モノというと、RPGのような世界観の異世界に転生された主人公がチート能力を与えられ、その世界で無双し、美少女たちを侍らせるというものが王道パターンでしたが、最近では、魔王を倒しに行ったり、世界を救うわけでもなく、異世界で店を開く、異世界で料理をする、異世界で農業をする、といった「異世界日常系」とでもいうべき作品が目立ってきているのです。
これなども、物語よりもキャラクター比重が大きくなっている時代の表れのように思われます。

物語性が高い作品もキャラクターが抜き出されて終わらない

『新世紀エヴァンゲリオン』をはじめ、『魔法少女まどか☆マギカ』、『進撃の巨人』といった物語性の高い作品であっても、そのキャラクターが抜き出されて展開されるケースが増えています。
空前のブームとなった『鬼滅の刃』でも、そこには確固たる物語はあるものの、物語の素晴らしさを語る声よりも、キャラ推しの声の方が強いように感じます。

1995年に放送が開始された『新世紀エヴァンゲリオン』は、リメイクを繰り返し、最終作となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されたのは2021年のことで、今年3月に発売されたBlu-ray&DVDには新作特典映像「EVANGELION:3.0(-46h)」が収録されたりと、コンテンツとしての終わりが見えないエンドレス的展開となっています。

『魔法少女まどか☆マギカ』についても、2012年のテレビシリーズの後、2013年公開の『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編] 叛逆の物語』で完結したかに思われましたが、その後外伝作品『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』が展開されており、つい先日も、10周年記念プロジェクトとして新作映画『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』が、2024年冬に公開されることが発表されました。

『進撃の巨人』も原作マンガは完結しており、アニメ版の完結編(後編)が今年の11月4日に放送予定となっていますが、これとても本当にこれで終わるのかわかりません。

かつてのアニメファンたちは、未完で終わる作品にストレスを感じて蔑み、ちゃんと終わらせる作品をこそ礼賛していましたが、現在のファンたちは、これら終わろうとしない作品を受入こそすれ、批判する声は少ないようです。
現在のファンたちは、キャラクターたちをずっと見ていたいのであって、作品に終わって欲しくないのでしょう。

国民的アニメの一つである『ONE PIECE』も、原作マンガは今や連載1000話、コミックス100巻を超え、物語は最終章に突入しています。作者である尾田栄一郎は「あと5年で終わる」と発表しており、ファンたちからは楽しみだけど終わって欲しくないという複雑な声が挙がっています。
もっとも、たとえ完結したところで、スピンオフや外伝的なもの、あるいはキャラクターを使った新たなコンテンツが作られ、『ONE PIECE』の世界やコンテンツは継続されるのではとも思われますが。

この他、『シティーハンター』も20年ぶりにアニメ制作が再始動されて2019年に新作映画が公開され、今年9月8日にも新作映画の第2作目が公開。さらに、これまでアニメ化されてこなかった原作の最終章を描く映画も制作予定とのこと。
『北斗の拳』についても、今月ワーナー・ブラザーズ・ジャパンが新作シリーズアニメ『北斗の拳-FIST OF THE NORTH STAR-』の制作を発表しました。
『キン肉マン』などは、驚くべきことに原作マンガが現在も連載中です。
『美少女戦士セーラームーン』、『シャーマンキング』、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』、『うる星やつら』などといった昭和アニメのリメイク作品も続いています。

このように、現在ヒットしている作品を終わらせない動きと同時に、過去にヒットした作品を再び市場に挙げさせようという動きも目立ちますが、その作品選出には、共通してキャラクター性が高い作品が挙がっているように思われます。
これとてもやはり、ファンのキャラクターをずっと見続けたいという要望・需要に適応した動きと言えるのかもしれません。
物語よりもキャラクターに比重が大きく傾いた時代性、永続的にキャラクターを見続けたいファン心理に基づいた、キャラクター主体の作品づくり、終わらないコンテンツというものが、現在の主要アニメにおけるメイン戦略となっている様子が伺えます。


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「ゆるキャラ」は、2008年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされており、2013年には「ご当地キャラ」がトップテン入りして熊本県PRマスコットキャラクター・くまもんが受賞者となっていました。