物語よりもキャラクターを求める時代性について考えた件 前編 日常系アニメ
アニメやマンガというコンテンツは、かなりざっくり捉えれば、物語とキャラクターで構成されていると言えます。
作画やセリフ、演技、音楽、演出等々は、物語とキャラクターを構成するための部品に過ぎません。
その比重は作品によって異なり、物語性が高い作品やキャラクター性が高い作品、その両方ともが高い作品ももちろんあります。
ここで言う「物語」というのは、いわゆるストーリーとは異なります。
ストーリーは、主人公が敵と遭遇して戦って勝ったという、場面展開の順番に過ぎませんが、ここで言う「物語」というのは、始まりがあり、展開や因果があって最終的に終わりがあることで完結するものを指します。
当然ながら、事情があって未完で終わる作品があったり、完結した作品の続編が作られるというケースもあるものの、そういうものもひっくるめて、終わりまでが描かれる、あるいは終わりまでを描くことを目的とした作品と言えるでしょうか。
国民的アニメの多くは非物語
この定義で言えば、完結しない『サザエさん』や『ドラえもん』などの国民的アニメ(長寿アニメ)は、物語ではないとも言えます。
『サザエさん』の磯野カツオは小学5年生で11歳のまま、『ドラえもん』の野比のび太は小学4年生のままで、何年経っても年を取らず、進級もしません。
『それいけ!アンパンマン』や『クレヨンしんちゃん』、『ちびまる子ちゃん』の世界でも同様で、クリスマスや正月などはあっても、年を経るような時間経過は見られず、作り手も視聴者もそこはお約束ごととして見て見ぬふりをしています。
『名探偵コナン』や『ポケットモンスター』などは、非常に緩やかなスピードではあるものの、時間経過があり※1、物語要素がないとまでは言えません。
『プリキュア』と『ONE PIECE』は国民的アニメとしては、例外的に物語が明確に描かれている作品となっています。
『プリキュア』シリーズは、1年ごとにキャラクターと物語を更新していくスタイルとなっていますし、『ONE PIECE』は原作の連載が26年以上続いており、アニメ放送も20年以上となる異例の長編物語となっています。
『プリキュア』と『ONE PIECE』を除けば、国民的アニメは、基本的には時間経過のない、あるいは時間経過が少ないエピソードを重ねるだけの作品であって、長期に渡って放送を続けるためには必須の形態でもあります。
日常系アニメ・マンガブーム
長期放送をする国民的アニメは、特例を除き、その性質上、必然的に物語ではないエピソード中心の作品に成らざるを得ないわけですが、1~2クールの比較的短い期間で終わるような「深夜アニメ」と呼ばれる作品群においても、2000年代に非物語作品が流行り出しました。
『あずまんが大王 THE ANIMATION』(2002年)、『らき☆すた』(2007年)、『けいおん!』(2009年)、『ご注文はうさぎですか?』(2004年)といった作品に代表される「日常系アニメ」と呼ばれるものです。
これらの作品には、倒すべき敵もいなければライバルと何かを競うこともなく、また、何かを目標に苦難を乗り越えるわけでもなく、ただただ平和な日常が描かれるだけという特徴があります。
この流れを牽引したのが、芳文社の「まんがタイムきらら」※2でした。
これは、4コママンガ専門の雑誌「まんがタイム』の姉妹誌として2002年に創刊されたもので、特に美少女たちがわちゃわちゃするだけの「萌え4コマ」というニッチなジャンルを始めて専門に扱ったマンガ雑誌でした。
「まんがタイムきらら」のアニメ化作品
『ドージンワーク』(2007年アニメ化)
『けいおん!』(2009年アニメ化)
『あっちこっち』(2012年アニメ化)
『ゆゆ式』(2013年アニメ化)
『三者三葉』(2016年アニメ化)
『スロウスタート』(2018年アニメ化)
「まんがタイムきららキャラット」のアニメ化作品
『ひだまりスケッチ』(2007年アニメ化)
『GA 芸術科アートデザインクラス』(2009年アニメ化)
『Aチャンネル』(2011年アニメ化)
『キルミーベイベー』(2012年アニメ化)
『NEW GAME!』(2017年アニメ化)
『ブレンド・S』(2017年アニメ化)
『アニマエール!』(2018年アニメ化)
『まちカドまぞく』(2019年アニメ化)
『恋する小惑星』(2020年アニメ化)
『おちこぼれフルーツタルト』(2020年アニメ化)
『RPG不動産』(2022年アニメ化)
「まんがタイムきららMAX」のアニメ化作品
『かなめも』(2009年アニメ化)
『きんいろモザイク』(2013年アニメ化)
『ご注文はうさぎですか?』(2014年アニメ化)
『ステラのまほう』(2016年アニメ化)
『こみっくがーるず』(2018年アニメ化)
『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022年アニメ化)
「まんがタイムきららフォワード」のアニメ化作品
『夢喰いメリー』(2011年アニメ化)
『ハナヤマタ』(2014年アニメ化)
『がっこうぐらし!』(2015年アニメ化)
『あんハピ♪』(2016年アニメ化)
『ゆるキャン△』(2018年アニメ化)
『はるかなレシーブ』(2018年アニメ化)
『球詠』(2020年アニメ化)
『スローループ』(2022年アニメ化)
「まんがタイムきららミラク」のアニメ化作品
『桜Trick』(2014年アニメ化)
『幸腹グラフィティ』(2015年アニメ化)
『城下町のダンデライオン』(2015年アニメ化)
『うらら迷路帖』(2017年アニメ化)
上記は、「まんがタイムきらら」および「きらら」から派生した姉妹誌に掲載されていたマンガのアニメ化作品です。
実に多くの日常系の美少女アニメが作られ、日常系アニメを、スポーツアニメや格闘アニメ、SFアニメなどに並ぶアニメの1ジャンルとして定着させました。
深夜アニメは1~2クールという比較的短い期間で終わる作品がほとんどで、その短い話数の中で物語を描くのというのは難しい課題でした。
それまでの1年間放送されるような作品では、序盤のエピソードで各キャラクターを紹介し愛着を持ってもらい、中盤で小事件や課題が発生し、主人公たちが成長したり、新キャラが登場したりして、後半に大事件が勃発して、これを解決して大団円といったような展開を行っていました。
ところが、12話ないし24話程度で終わってしまう作品では、キャラクターを掘り下げて丁寧に描いていては物語を描く話数が足りず、逆に物語を重厚に描こうとすれば、キャラクターを深掘りさせる話数が足りなくなってしまいます。
そんな中で、物語を描かず、大胆にキャラクターに振り切った作品が、この日常系アニメだったわけです。
スポ根モノのように努力や苦労をしなくても良いし、強大な敵や厳しい現実に打ちのめされることもありません。努力が報われたり、正義が悪を挫いたり、強敵を打ち負かしたりといったカタルシスを感じなくとも、辛いことがない平和な世界で、美少女たちがキャッキャッしている様を見ているだけで楽しい、それで充分じゃないか、というわけです。
次回に続く。
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※1 『名探偵コナン』の作中での時間経過をファンが検証したものによると、アニメでは1000話を超え、事件数も300件を超えていますが、作中では1年を経過していないことになっており、3か月説や半年説が唱えられています。
また物語の上では、江戸川コナンが日常で遭遇する難事件を解決するという既定路線の話から、灰原哀、安室透、赤井秀一といった新キャラが登場し、黒ずくめの組織や公安警察、FBIが絡む展開へと進行しています。
『ポケットモンスター』も作中では、26年間の放送で、主人公サトシがカントー地方を旅立ち、オレンジ諸島、ジョウト地方、ホウエン地方などを経て「ポケモンワールドチャンピオン シップス」に優勝し世界王者に輝くまでが描かれ、サトシとピカチュウの物語は完結。2023年4月からは主人公を変えて新しい物語が始まっています。
※2 「まんがタイムきらら」は読者に支持され、2003年には「まんがタイムきららキャラット」、2004年には「まんがタイムきららMAX」、2006年には「まんがタイムきららフォワード」、2011年には「まんがタイムきららミラク」と次々に姉妹誌が創刊され、「萌え4コマ」というジャンルを定着させました。