『葬送のフリーレン』がなぜ金曜ロードショー枠で放送されたのかの件 後編 期待に応えられるのか?

前回は、『葬送のフリーレン』の放送における日本テレビの好待遇の理由を取り上げましたが、今回は、作品の中身に注目してみたいと思います。

クレジットされている製作委員会やプロデューサーの顔ぶれを見ると、東宝が幹事会社となって製作委員会が組まれている様子で、日本テレビのプロデューサーも加わっているので、日本テレビも出資しているのではないかと思われます。
企画は東宝と小学館のプロデューサーの連名なので、両社で企画して日本テレビに持ち込んだのかもしれません。
企画のスタートこそ東宝と小学館だったかもしれませんが、今回の好待遇から、日本テレビの『葬送のフリーレン』への期待度が高いことは見て取れるでしょう。はたしてこの作品がその期待に応えられるでしょうか?

原作マンガは、2021年に第14回マンガ大賞、第25回手塚治虫文化賞新生賞を受賞しており、既刊第10巻までで単行本の累計発行部数は1000万部を超す大人気作品であり、これだけを見れば期待をかけるには充分な気もします。

内容的には、魔王を倒した4人の勇者パーティが解散してから50年後、人間の仲間が寿命で亡くなり、仲間の一人のドワーフも年老い、齢1000年を超えるエルフである主人公のフリーレン一人のみ、不老長命のために若いままで姿が変わらないというところからスタートする物語です。

パーティ解散時には、時間感覚の違いから、自分にとってはごくわずかな10年程を一緒に過ごしただけの仲間に思入れを感じることもなく別れたフリーレンは、その後気ままな旅をして過ごします。
50年後、再会した仲間はみんな年を取っていて、再会後まもなく、その内の一人である勇者は寿命で亡くなってしまいます。
他の仲間と共に勇者の葬儀に参列し、最初は心を動かされることもなかったフリーレンでしたが、ふいに涙を流し、他者と過ごす時間の価値や別れの悲しみを理解していなかったことに気づきます。
その後、仲間の僧侶から死に際に託された若い魔法使いや、ドワーフ戦士の弟子の若い戦士、旅の途次で出会った僧侶といった仲間を加えながら旅をすることになり、この新たな出会いに際し、かつてとは異なる感じ方や接し方をしていくフリーレンが描かれていく物語となっています。

このように、『葬送のフリーレン』はファンタジー世界を舞台にしながらも、剣や魔法のバトル的な展開よりも、ハートフルでエモい方向に振り切った作品となっています。
序盤の物語展開は、訪れる町や村での単発エピソードの積み重ねとなっており、その一つ一つが泣けるエピソードとなっているのですが、この小エピソードを重ねていく構成は、長く話を続けられるという点においては有効となりそうではあります。
アニメ化も単純に作画が良いとかだけではなく、演出もわずかに原作から変更が加えられ、丁寧且つ効果的とも言える手法が詰め込まれていて、さすがマッドハウスといった印象です。
監督を務めるのは、初のテレビアニメ監督作品である『ぼっち・ざ・ろっく!』が昨年大ヒットとなった若手の斎藤圭一郎監督で、前作では原作の味やテンポを損なわず、アニメに落とし込んだ際の肉付けも的確で子気味良い演出だったので、今回も期待が持てそうです。

しかし、難があるのはキャラクターです。
お話のエモさ的なところが主体なので、キャラクターデザインも派手さがなく抑えたものとなっており、キャラクターの性格設定なども、かなり大人しめです。
性格設定や行動などに突出した個性がなく、ビジュアル面や色彩も主張が弱いので、全体的にキャラクターに強みがないのがこの作品の特徴です。
先のコラムでも取り上げた通り、近年のアニメのヒットには物語性よりもキャラクター推しが重要となっている傾向があるので、このキャラクターの弱さは、『葬送のフリーレン』のヒットに不安を感じさせる要素ではあります。

原作マンガが面白いことには異存はありませんし、個人的にも好きな作品ではあるのですが、アニメがヒットするためには、物語からキャラクターを切り取った際に、単体でも魅力的で商品価値を持つかという点が問われるので、この点が『葬送のフリーレン』の課題になるのではと思われます。
現在は、短い映像やキャラクターというわかりやすいものがSNSなどで拡散され、それが話題性となって広まる流れがあることから、「作品を見ればわかる」とか「エモい」といった曖昧で抽象的な感じでしか表現できない魅力が、果たして視聴していない層にまで伝わってファン層が拡大することができるのか、これはなかなかに難しそうです。

また、楽曲についても、各チャートで記録的な首位を獲得し、大ヒットとなった『推しの子』のOP曲であるYOASOBIの「アイドル」に比べ、今回のOP曲である同じYOASOBIの「勇者」は、大きな話題とはなっていない様子です。
「アイドル」のMVは、公開3日の再生回数が1,000万回超えを記録しましたが、「勇者」は約3日間で420万回程となっています。

『ぼっち・ざ・ろっく!』も劇中バンドである「結束バンド」の楽曲が、音楽シーンにおいて注目を集めていましたが、今回は、『推しの子』や『ぼっち・ざ・ろっく!』のような音楽面での注目度はあまり期待できないかもしれません。

斎藤圭一郎監督やマッドハウスのアニメーターの手腕で、アニメならではの演出や面白いシーンが肉付けされ、それらが『推しの子』のピーマン体操や、『ぼっち・ざ・ろっく』のぼっちちゃんの変顔集などのように、場面が切り取られ、編集され、果ては他のアニメと融合されたMAD動画やら、踊ってみた、コスプレ等々、様々な動画が作られてSNSやTikTokで拡散され、作品が認知され広まっていく流れが生まれるものか、今後の『葬送のフリーレン』を注目していきたいと思います。


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