東洋経済「アニメ熱狂のカラクリ」号の記事について考えてみた件 ① テレビ局や出版社におけるアニメビジネス強化の傾向 後編

前回は、「週刊東洋経済」アニメビジネス特集号の掲載記事にあるテレビ局や出版社がアニメビジネスに注力することで、収益構造を変化させてきている点について、テレビ局の状況をお伝えしましたが、今回は出版社の状況を取り上げたいと思います。

出版業界もテレビ業界に並んでアニメと深いかかわりがある業界ですが、テレビ局よりも出版社の方が早く危機的状況に見舞われており、1996年をピークに成長が止まり、以降は市場規模が年々下降し続け、出版社や出版取次店が相次いで倒産、町から書店が次々に消えていく出版不況時代に突入しました。

ところが、一時は斜陽産業とまで言われた出版業界の中で、いち早く時代に対応して変化した出版社が現れます。

その影響もあってか、出版業界の市場規模に下げ止まりの傾向すら見えてきました。

<出版業界 売上高ランキング(2021-2022年)> ※参照:業界動向サーチ
1. 集英社   1,951億円
2. 講談社   1,707億円
3. KADOKAWA  1,282億円
4. 小学館   1,057億円
5. ゼンリン    590億円
6. 日経BP    403億円
7. 東京書籍   293億円
8. 学研HD   267億円
9. ぎょうせい  213億円
10. 文藝春秋  207億円

コミックの市場規模はすでに出版業界全体の4割を超えていることもあり、上記のランキングでコミック系に強い出版4社が飛び抜けて売上が高くなっているというのは、コミックが要因だということは明白でしょう。
2019年についに電子コミックが紙のコミックの市場を超えたことがニュースとなっていましたが、この電子コミックの急成長も上記の出版4社の業績に反映さえているわけです。
さらにこの出版4社の好調ぶりを支えているものの一つがIPによる版権収入で、集英社の版権収入がこの10年程で約5倍の476億円に膨らんだと「週刊東洋経済」は語っています。

上記の出版4社は早くから自社作品のアニメ化に積極的でした。
それは、アニメ化によって原作コミックの売上が伸びることを期待してのもので、あくまでコミックの売上が至上目的だったわけです。
ところが、アニメ版の『ONE PIECE』のヒットで版権収入の旨味を知った集英社は早くから社内にライツ事業部を設け、『鬼滅の刃』をはじめ、『呪術廻戦』、『SPY×FAMILY』といったアニメ化による爆発的なヒット作品の続出で、莫大な利益を得ました。
他の出版社も同様にライツ事業部を設け、自社作品のアニメ化をヒットさせることで、IPによる版権収入を拡大させようと取り組んでいます。

テレビ局がその収益構造を「放送収入」(テレビ広告費)から「放送外収入」(IPによる版権収入)へと転換しようとしているのと似ていて、出版社も「出版外収入」とでも言うべき版権収入に注力している状況が窺えるのです。
ただし出版社の場合は、コミック自体が好調な上、アニメのヒットがコミックの売上に連動する関係性から、版権収入に転換すると言うよりは、コミックと版権収入という2つの柱による収益構造となっています。

テレビ局も出版社も、それまでの収益構造が揺らぐ危機的状況に際し、アニメに活路を見出した企業が成功を手繰り寄せた感があります。
答えは一つではなく、今後アニメではない解決法を打ち出してくる企業が現れないとも限りませんが、目の前に成功例があれば、わざわざ別の方法を選ばずに追従しようとするのが世の常です。
しかし、アニメというものはクオリティが高ければ必ずヒットするというものではなく、時勢やタイミングなど様々な要因が影響して、人気コミックが原作なのにあまりヒットしなかったり、思わぬ作品が予測を超えてヒットしたりする確実性が担保されないものです。
誤解を恐れずに言えば、多分に博打的な要素が大きいビジネスだと言えるかもしれず、先駆者の成功を簡単に真似できるものではないでしょう。

先駆者にとっても、経験値で先んじてはいても確実性の面では大差はなく、競合が増えれば、ますますヒット作を生み出すことが難しくなっていくことが予想されます。
今後は、より成功への精度を高め、失敗リスクを可能な限り排除し、さらには増え続ける作品数にも対応するため、ヒットを生み出せる有能なプロデューサーの育成だけではなく、情報の蓄積から、高度な作品分析やヒットの法則(あるいは失敗要因)などの研究が求められていくかもしれません。


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