東洋経済「アニメ熱狂のカラクリ」号の記事について考えてみた件 ① テレビ局や出版社におけるアニメビジネス強化の傾向 前編

5月22日発売の「週刊東洋経済」5/27号が、「アニメ熱狂のカラクリ」と題し、アニメビジネスを大きく取り上げた特集を行っていてSNSでも話題となっています。
どの記事も興味深いものばかりで、神籬でもいくつかの記事について取り上げたいと思います。

いくつかの記事にわたって語られているのが、近年、テレビ局や出版社がアニメビジネスに注力することで、収益構造を変化させてきている点です。

メディアの多様化によって縮小の一途を辿っているテレビ広告費に危機感を持つテレビ業界では、テレビ東京が、テレビ広告費に頼らない収益源を求めてアニメビジネスに注力しているというのです。
かつてのテレビ局にとっては、アニメはドラマやバラエティ番組と同様に、広告費を稼ぐために視聴率を上げる道具の一つに過ぎませんでした。
しかし、アニメのヒットが版権使用料という大きな収益をもたらすことを知った各テレビ局では、アニメを放送するだけではその旨味にあずかれないので※、アニメの制作に出資して版権使用料を稼ぐ、いわゆるIPビジネスに取り組み始めます。

<テレビ局が出資している主なアニメ>
日本テレビ:『それいけ!アンパンマン』
読売テレビ:『名探偵コナン』
テレビ朝日:『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』
朝日放送テレビ:『プリキュア』
フジテレビ:『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』『ONE PIECE』
テレビ東京:『ポケットモンスター』『BORUTO』

いわゆる「国民的アニメ」と呼ばれる作品で、何十年も前からテレビ局が自社の看板番組とすべく出資して製作し、仕掛けているものです。したがって、テレビ局がアニメに出資すること自体は近年に始まったことではありません。

「週刊東洋経済」ではテレビ東京が取り上げられていましたが、TBSでも、「国民的アニメ」のような長寿作品はないものの、数多くのアニメ作品へ出資しており、しかもその作品の中には、自局で放送していないものすら含まれています。

< TBSが製作委員会に参加した主な作品>
1996~2008年『逮捕しちゃうぞ』シリーズ
1999~2006年『Di Gi Charat』シリーズ
2004~2013年『ローゼンメイデン』シリーズ
2005~2007年『ああっ女神さまっ』シリーズ
2007~2009年『CLANNAD』シリーズ
2007~2012年『ひだまりスケッチ』シリーズ
2009~2010年『けいおん!』シリーズ
2013~2020年『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』シリーズ

< TBSが製作委員会に参加した作品中、自局ではなくU局放送の作品>
2005年『英國戀物語エマ』
2006年『Fate/stay night』
2006年『夜明け前より瑠璃色な-Crescent Love-』
2010年『もっとTo LOVEる -とらぶる-』
2012年『中二病でも恋がしたい!』
2012年『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』
2013年『たまこまーけっと』
2013年『境界の彼方』
2013年『中二病でも恋がしたい!戀』
2015年『To LOVEる -とらぶる- ダークネス 2nd』
2022年『Extreme Hearts』

テレビ東京、TBSの他にも、毎日放送では、『マクロス』シリーズや『機動戦士ガンダムSEED』シリーズ、『魔法少女まどか☆マギカ』、『七つの大罪』シリーズ、『食戟のソーマ』シリーズなど、数多くの作品の製作に携わっています。

こうした各局のアニメIPへの積極的な取組みが見られる中で、それを先導してきたテレビ東京では、アニメと配信を合わせたライツ事業の営業利益が、ついに放送事業と並ぶ水準にまで拡大したと「週刊東洋経済」で語られています。
つまり、テレビ局の収益構造が、「放送収入」(テレビ広告費)から「放送外収入」(IPによる版権収入)へと転換する可能性が出てきたわけです。
実際にその時が来たら、歴史的な出来事として大きなニュースになるものと思われます。

時代の変化は逆行しないので、テレビがこれからネットに逆転することは恐らくないでしょう。
であるならば、時代の変化に対応して自らを進化させるしか生き残りはないとも思われますが、答えは一つではないので、必ずしもアニメだけが正解とも限らず、異なる方法で活路を見出すテレビ局もあるかもしれません。
さらに、出資したアニメ作品がヒットするかどうかは誰にも予想ができないため、単に出資すれば良いというだけではない難しさもあります。
そのため、数々の成功や失敗を経てノウハウを蓄えたり、作品分析や制作会社の査定をしたり、ヒットを狙って優良な原作を取り合ったり、優秀な制作会社を囲ったりと、各局が鎬を削る状況が加速しそうです。

また、キー局のように自社でアニメ製作に出資できるテレビ局は良いですが、自社では出資する程の体力のないローカル局の場合は、このようなビジネス転換が難しいかもしれません。
アニメ放送枠を拡張することで、アニメに強い局としての特徴づけに成功して好調なTOKYO MXのように、アニメを活用した解決策の一つを示した例もあり、これから各局でも独自の工夫が求められていくものと思われます。


次回に続く。

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※ 実際には、テレビ局はアニメ製作に出資しなくとも、テレビ放送によって作品のプロモーション効果があることから、製作委員会に対して、作品の収益から一定の割合(概ね1~2%)の還元を求める「局員税」という慣習的な取引があります。