静岡の新設スポットを見て来た件 後編 ちびまる子ちゃんマンホール

3月後半に静岡市の下水道事業100周年記念事業として、『ちびまる子ちゃん』のデザインマンホール蓋9種類を市内各所に設置すると発表されていましたが、その第1弾である2枚が、4月25日に葵区と清水区(旧清水市)へと設置されました。

葵区の1枚は、2023年1月にオープンしたばかりの静岡市歴史博物館の前で、道路を挟んで正面に駿府城の巽櫓が望める場所に設置されています。
前回ご紹介した、写真を撮る人が絶えないプラモニュメント「徳川家康公出陣キット」から徒歩1分ちょっとの距離で、設置当日は設置式も行われたそうです。

日中に数回訪れて様子を見てみましたが、ゴールデンウィーク中だというのに、その存在に気づいていないのか、通行人が誰も目を止めず、写真を撮る人もいない有様でした。
地元の知人たちにも聞いてみましたが、プラモニュメント「徳川家康公出陣キット」は知っているものの、『ちびまる子ちゃん』マンホールの方は知らないとのことで、地元民の間でもあまり認知度は高くないのかもしれません。
静岡在住の知人からは、「なぜ今『ちびまる子ちゃん』なのか、今やるなら家康でしょ」との声も聞かれました。

たしかに、大河ドラマで静岡に注目が集まる中、家康のマンホールであれば話題性抜群です。
『ちびまる子ちゃん』の連載開始(1986年)からは37年、テレビ放送からは33年、原作者・さくらももこの生誕からは58年、没後5年と特に『ちびまる子ちゃん』に関する記念の年というものはなさそうです。
プレスリリースにも、「全国的にも有名で広く親しまれているキャラクターである」とあるだけで、このタイミングで『ちびまる子ちゃん』を選択した意図は名言されていません。
そもそも静岡市の下水道事業100周年記念事業なので、『ちびまる子ちゃん』ではなく、『どうする家康』であっても良さそうに思われます。
『ちびまる子ちゃん』を否定するわけではありませんが、こちらはこのタイミングでなくても良かったはずで、『どうする家康』の方は、このタイミングでこそやるべきものだったとは言えるでしょう。

ちなみに、徳川家康のマンホールは、2022年3月に愛知県岡崎市の大樹寺山門前へと設置された『戦国無双5』のコラボマンホールがあるのみです。

浜松市には徳川家康をモチーフにした公式マスコットキャラクター「出世大名家康くん」のマンホールがあります。

静岡市でも徳川家康を推しているはずですが、なぜか今川義元のマンホールはあっても、家康のマンホールはありません。

こちらは静岡市内6カ所にある今川義元をモデルにした静岡市の非公式ご当地キャラクター「今川さん」のマンホール

別件ですが、徳川家康つながりで静岡の残念な話がもう一つあります。

反対運動などすったもんだありながら2009年6月に開港した静岡空港は、総事業費が約1,900億円(空港本体は約490億円、国庫補助金は約245億円、静岡県の支出は約1,655億円)という巨大プロジェクトでした。
収支は、民営化する以前の2018年度まで10年連続赤字で(2019年度からは三菱地所・東急グループが運営)、10年間で計51億5134万円の県費が投入されたそうです。
開港当初は、年138万人の需要を見込んでいたものの、年間搭乗者数は2019年度に79万544人と最高記録を更新したものの、その後コロナ渦もあって2022年度の搭乗者数は35万2114人となっています。

地元の知人たちも口を揃えて言うのは、「静岡空港を作らずに駿府城を作っていたら、その経済効果は赤字続きの空港に比べ、遥かに大きいものになっていたはずで悔しい」というものです。

こちらは、2016年8月~2020年3月に発掘調査された天守台跡地の常態展示

現在、愛知県名古屋市が進めている名古屋城天守の木造復元計画では、工費が約500億円と試算されていますから、金額だけを見ると、空港を作らなかったら駿府城は作れたかもしれないというのも、非現実的な話ではなさそうです

この件、どこかで聞いたような話だなと思ったのですが、それも当然のことで、筆者の地元である練馬区での動きにとてもよく似ていたからです。
練馬区では、『プリキュア』シリーズという強コンテンツを擁しながらこれを活用せず、『銀河鉄道999』や『あしたのジョー』といった40代以上の高い年齢層をターゲットにしたかのような今時ではないコンテンツのマンホールを2021年に設置しています。
さらに現在、手塚治虫の虫プロや東映アニメーションをはじめとするアニメ制作会社に縁があり、有名マンガ家が多く在住しているのに、これらを活用せず、「映像とアートの街」を掲げ、81億円もの巨額を投じて区立美術館を建て替えようとしています。

大河ドラマで盛り上がっている時に家康ではなく『ちびまる子ちゃん』のマンホールを設置し、駿府城ではなく空港を作る静岡とどこか状況が似ていて、どちらにも縁がある筆者としては、何とも複雑な気持ちになりました。


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※駿府城の再建については、2010年3月までに静岡市駿府城天守閣建設可能性検討委員会による検討会が複数回行われたものの、天守復元についての結論を得ることはできないとし、これ以降、検討会は行われていません。