アニメオタクが求めるタクシーサービスを考えてみた件 前編

アニメ×タクシーサービスの現状
以前、東京に拠点地がある某タクシー会社から、アニメ聖地巡礼をテーマにしたサービスを展開したいというご相談があり、いくつかのコース提案をさせていただいたことがありました。
その時は先方の都合で立ち消えとなり、企画は実現に至らなかったのですが、改めてタクシー×アニメ聖地巡礼のサービスが実現できるものか、考察というか思考実験をしてみたいと思います。

まず前提として、タクシー会社側の条件としては、貸切サービスである必要があります。
都度通りかかったタクシーをつかまえたり、アプリなどでタクシーを呼んだりするのであれば、当然普通にタクシーに乗っただけなので、タクシー会社が提供する新たなサービスとはなりません。
また、アニメ聖地側の前提として、エリアが限定されるという条件もあります。
特定の町村や商店街など、狭い範囲内に聖地が点在する作品では、歩きや自転車の方が向いているので、タクシーを使うメリットがありません。
また逆に、県を跨ぐような遠距離に聖地が点在するような作品では、コストや時間的な面で、タクシーよりも鉄道の方が向いている場合もあるでしょう。
具体例を挙げると、『東京リベンジャーズ』などは渋谷の町中に聖地が点在しており、センター街や駅前など、停車が難しいところが多く、タクシーより歩いて回った方がはるかに便利です。
『君の名は。』では、東京の他に飛騨高山なども聖地となっており、鉄道を使わないと回れません。
東京と飛騨ではタクシー会社も異なりますし、全国エリアを網羅する大手タクシー会社であっても、管轄する営業所が異なるので、連携はなかなかハードルが高そうです。
そのようなわけで、ほどほどの距離感に聖地が点在していて、かつ聖地巡礼をしてみたいと思われるような魅力的な作品であることが条件となり、選択できる作品がぐっと少なくなってしまいます。
伊豆箱根タクシーでは、沼津を舞台にした『ラブライブ!サンシャイン!!』とのコラボでラッピングタクシーが運用されています。
2時間貸し切りで1万1920円という高価格帯でありながら、わずか3か月間で利用件数が148件(予約含む)に達するす好調ぶりで※1、2018年には絵柄を新装したラッピングタクシー第2弾の運行が開始され、現在も運行中とのこと。
伊豆箱根交通株式会社:「ラブライブ!サンシャイン!!」コラボタクシー運行中
関係者に伺ったところ、『ラブライブ!サンシャイン!!』では、沼津内に程良い距離感で聖地が点在している上、交通手段がバスしかないので不便であるという条件・環境面での優位さがあったとのこと。
さらに、運転手が作品を見てファンとなっていることで、車内を自らぬいぐるみなどで飾り立てたり、お客様とのオタクトークに応じたりしたことが好評に繋がったとのことでした。
利用客からは、まさか運転手と推しキャラについて語り合うことができるとは思わなかったといったという感想も上がっています。
このことから、単なる移動手段ではなく、作品のファンである利用客と一体感を感じさせるような、運転手による細かい配慮や目に見えないサービスがあったことが想像できるのです。
この事例の成功要因では、移動という利便性の提供に留まらない、移動中も楽しい時間を過ごせる体験も提供しているという点が大きかったと言えるでしょう。
業務的に付け焼刃で作品の基礎知識を頭に叩き込み、仕事として移動や案内をする程度であったならば、このような感想がお客様から上がって来ることはないでしょう。
運転手が本当の意味でお客様と同じ作品のファンになり、一体感を感じさせることができたからこその成功ではないかと思われます。
次回に続く
※1 日本経済新聞:伊豆箱根鉄道系、アニメ装飾タクシー好調
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO08230150R11C16A0L61000
