「アニメ」と「アニメーション」が異なる件 前編
ネットの記事などを見ていると、「アニメ」と「アニメーション」を混同している記事が多くみられ、これらを英語などに翻訳した場合、海外の方々に正しく伝わるのかと心配になることがあります。
アニメ業界とは無関係の知人などに聞いてみると、「同じなんじゃないの?」という意見が多いようです。
日本国内においては「アニメ」と「アニメーション」の違いはあまり明確ではありません。
「アイスクリーム」を「アイス」と略すと同じ用法で「アニメ」は単に「アニメーション」という英単語の省略形に過ぎず、同じ意味だと思われている方が多いためです。
ところが、海外では「アニメ」と「アニメーション」の違いは明確です。
海外では(特に英語圏でのお話ですが)、「アニメ(Anime)」と言えば、日本製のアニメのことを指す言葉として定着しています。
「アニメーション(Animation)」の中のジャンル分けで、日本製のアニメを「アニメ(Anime)」というジャンルで認識しているわけです。
日本では、『トムとジェリー』や『スポンジボム』、『パワーパフガールズ』、『アドベンチャー・タイム』なども「アニメ」だと認識していますが、海外では、これらの子供向けの短いアニメ作品のことを「カートゥーン(cartoon)」として認識しています。
ディズニーやピクサーなどの劇場版長編アニメは、「カートゥーン(cartoon)」ではなく、ディズニー映画、ピクサー映画として映画の中のアニメジャンルとして認識されているようです。
では、日本製のアニメは全て「アニメ(Anime)」かと言うとそういうわけではなく、主に「深夜アニメ」と言われる青年・大人向けのアニメを指し、NHK教育の「みんなのうた」のようなストーリーのないアニメーションや芸術作品としてのアニメーションなどはこれに該当しません(そもそも海外ではこれらのアニメはあまり見られてもいないようですから、認知度が低いということもありそうです)。
日本で「アニメ」という言葉が使われ出したのは1970年代だと言われていますが、「おたのしみアニメ劇場」というテレビアニメが1970年4月放送を開始しているので、この頃には「アニメ」という言葉が既にあったわけで、発生はさらにその前かもしれません。
「アニメ」という言葉が使われる以前は、「まんが映画」とか「テレビまんが」などと呼ばれていましたが、「テレビアニメ」という言葉が使われ出して次第に定着していきます。
現在では「マンガ」は紙媒体、「アニメ」は映像媒体のものだと区別されていますが、元は「漫画」「まんが」自体には紙媒体に限定する言葉であるとの概念はなかったので、現在でも50代以上の方の中にはアニメを「まんが」と呼ぶのを見かけることがあります。
1967年から始まったアニメ映画興行の「東映まんがまつり」の名前が「東映アニメまつり」に改まったのは1990年とのことなので、1980年代後半頃までは「アニメ」と「まんが」が明確な区別が曖昧なまま併用されていた様子が伺えます。
日本人にとっては、「アニメ」は単に「アニメーション」の略語と言う形で生まれたものに過ぎず、現在でもその認識の方も多くいますが、海外では「アニメーション(Animation)」の略した場合、「アニマ(Anima)」となってしまうため、この日本の「アニメ(Anime)」を単なる省略形ではなく、日本独自の造語と受け取られたようなのです。
そこで、日本製のアニメ=「アニメ(Anime)」という認識が生まれ、定着していった経緯があるわけです。
1992年に日本アニメーション振興会※によって初開催され、現在も行われている北米最大のアニメ・コンベンション「Anime Expo」ではすでに「アニメ(Anime)」という単語が使用されており、ブラジルの「Anime Friends」(2003年初開催)、東南アジアの「Anime Festival Asia」(2008年初開催)でも、「アニメ(Anime)」という言葉が冠されています。
「マンガ(Manga)」も「アニメ(Anime)」と同様に日本製のコミックを指す言葉として定着しており、「アニメ」と「アニメーション」、「マンガ」と「コミック」を区別して使うことが、海外のファンたちの間での常識となっているのです。
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次回に続く。
※ The Society for the Promotion of Japanese Animation(日本アニメーション振興会/SPJA)は、日本のアニメ文化を称賛し、そのファンたちを高揚させることに特化した非営利団体で、現在も「Anime Expo」を運営しています。