『葬送のフリーレン』に見る外国語由来のネーミングの問題 前編 人名ではない外国語単語の名前

『葬送のフリーレン』のアニメが現在放送中ですが、キャラクターの名前はドイツ語の単語が由来となっています。

作中のドイツ語由来のネーミングはキャラクターの名前のみならず、エルフやドワーフといった一般名詞以外の地名や魔物などの作品固有の名称の多くがドイツ語由来となっているようです(一部にはフランス語も使用されています)。

名前ドイツ語意味
フリーレンfrieren凍える、冷える、凍る
フェルンfern遠い、遠い過去
シュタルクstark強い、激しい、大きい
ザインSein存在、生存
ヒンメルHimmel空、天、天国
ハイターheiter晴れた、朗らかな、愉快な、楽しい
アイゼンEisen
ゼーリエSerie連続、続き、シリーズ
フランメFlamme炎、輝き、熱意
クヴァールQual苦しみ,苦痛
アウラAuraオーラ、霊気
リュグナーLügner嘘つき
リーニエLinie線、ライン、輪郭、列、路線、血縁関係、方針
クラフトKraft力、能力、効力、働き手、勢力

『葬送のフリーレン』で使われているのは、海外の人名ではない一般単語そのままなため、SNSなどでも、海外の人が受ける印象が少し微妙なことになっているという声が見られます。

英語圏や、フランス語、イタリア語など異なる言語圏ではまだしも、ど真ん中のドイツ語圏においては、やはり違和感を覚える人が多いようで、「凍える」、「遠い」、「強い」、「鉄」といった単語が人名として出てきたら、違和感もさることながら、セリフで「俺は怖いんだ、凍える」という具合に話されては、わかっていても混乱しそうに思われます。
『ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風』でも、イタリアを舞台にしていることから、イタリア語由来のキャラクター名が多数使われていましたが、これもイタリア人からは違和感を抱かれていたようです。

多くの言語体系では人名や固有名詞の語頭に大文字を用い、ドイツ語では全ての名詞の語頭が大文字となるため、マンガなどのようにセリフが文字で表現されるものの場合は、人名であると認識できるはずで、多少の違和感はあっても混乱は少ないのではないかと想像されます。
しかし、アニメの場合は音のみなので、違和感を超えて混乱が起こりかねません。

筆者は、海外輸入作品で変な日本語名について思い出すことが一つあります。
それは子供の頃にプレイしていたRPGの『ウィザードリィ』で、ダンジョンで遭遇する敵として登場する日本風の武士の名称が、「サムライ」「ローニン」「ダイミョウ」「ハタモト」「ミフネ」だったことです※1
侍や浪人はまだわかりますが、大名、旗本がなぜダンジョンにいるのか、「ミフネ」に至っては三船敏郎の三船ですから、何とも不思議な印象を持ちました。
JICC出版局(現・宝島社)から出版されていた「ウィザードリィのすべて」という本には、このゲームが作られた当時の現地アメリカでは、黒澤明の時代劇映画が有名で、その主演俳優が三船敏郎だったことから、侍といえば三船だということでこの名称になったのだと記載されていました。

他の例では、『スター・ウォーズ』のジェダイが「時代劇」をもじった名称であることを知った時にも、何だか不思議な気持ちになったものです。

しかし、海外作品におけるおかしな日本語由来の名前の例はこの程度に過ぎず、人名でもありません。
『葬送のフリーレン』や『ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風』のように、人名以外の外国語の単語を使う例は、筆者の知る限りにおいては、『KNDハチャメチャ大作戦』のナンバー3の本名であるクキ・サンバン(3番)※2くらいで、他ではほぼ見かけません。

DCコミックスに登場するスーパーヒロインに、カタナというキャラクターがいますが、こちらもアトムやフラッシュ、デッドプールなどのように本名ではないヒーロー名なため(本名は山城たつ)、人名ではない単語を使用していても違和感はありません。
この他、海外作品に登場する日本人もしくは日系キャラクターの名称なども、『ザ・シンプソンズ』に登場するアキラ・クロサワや『グリーン・ホーネット』のカトー、『HEROES』のヒロ・ナカムラ、アンドウ・マサハシといったように、作品によっては多少変なものも見かけますが、基本的に日本人的な人名が使われていますから、おかしな感じにはなりません。

『葬送のフリーレン』は、海外では各言語の字幕版があり、英語、スペイン語、フランス語などの吹き替え版の他、ドイツ語の吹き替え版も勿論提供されています。
試しに、YouTubeで見られる『葬送のフリーレン』関連の動画で、日本語自動翻訳を付けてみると、見事にフリーレンを「凍結する」とか「冷凍」に訳してくれます。酷いものになると「風邪を引く」といった訳すらありました。YouTubeの自動翻訳はそれ程優秀ではないこともありますが、ほぼ人名だとは認識されないようです。

最近の海外におけるアニメファンたちは、日本作品へのリスペクトから、元の状態から変更が少ないものを好む傾向があります。母国語の吹替版ではなく、わざわざ字幕版で見たり、熱心なファンなどはそれでも飽き足らず、原語で作品を楽しむために日本語を学ぶ者もいる程です。
そのため、キャラクター名も改変せずに放送されるケースが増えており、『鬼滅の刃』も英語圏ではタイトルこそ『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba』に改変されていますが、竈門炭治郎→Tanjiro Kamado、竈門禰豆子→Nezuko Kamado、我妻善逸→Zenitsu Agatsumaといった具合に、キャラクター名はほぼそのままです。
現在では海外で親日家が増え、日本文化に対する理解が広まったため、一昔前にあったようなトンデモ日本描写なども少なくなってきていますが、まだ日本という国が世界にとって未知の国だった時代には、馴染みの薄い日本的な名称などは変更されるケースが多々ありました。

海外輸出のテレビアニメ第1号とも言われる『鉄腕アトム』も、アメリカでの放送時は、『ASTROBOY』に変えられているくらいで※3、こうした改名の例は他にもたくさんあります。
ドラえもん』ののび太Noby(ノビー)でジャイアンBig G(ビッグ・ジー)、『ポケットモンスター』のサトシAsh(アッシュ)といった具合に、アメリカで放送される際には、アメリカ人に馴染みやすい名前に変更されており、こういう現地での最適化や修正を、総じてローカライズと呼んでいます。

ちなみに、『名探偵コナン』の江戸川コナンはそのままConan Edogawaですが、タイトルは『Case Closed(一件落着)』に変えられていますし、他のキャラクターは毛利小五郎→Richard Moore(リチャード・ムーア)、毛利蘭→Rachel Moore(レイチェル・ムーア)、鈴木園子→Serena Sebastian(セレーナ・セバスチャン)といったように改名されています。

アトムの場合は既存作品との権利問題が理由のようですが、多くの場合は、日本語名に馴染みがなく、発音しにくかったり、同音や発音が近い別の単語の意味が相応しくないものや、宗教的に問題のある単語であるなどの理由で改変されるようです。

中国語圏の場合は事情が異なり、アンパンマン面包超人(メンバオチャオレン)、ドラえもん哆啦A夢(ドラエモン)のように、意訳的な変更だったり、同音の字を当てただけのものがあります。
さらには、涼宮ハルヒ凉宫春日(リャンゴン・チュンリー)、初音ミク初音未来(チュウイン・ウェイライ)のように、漢字部分はそのままで、ひらがな・カタカナ部分は日本語の意味で近い漢字を当て、中国語読みをさせるもの。または、江戸川コナン江户川柯南(ジャンフーチュアン・コナン)のように、ひらがな・カタカナ部分を中国語で音が近い漢字を当てたものなどが混在していて、かなり複雑な印象です。
他の言語圏でも事情は様々で、日本のマンガの翻訳やローカライズの際には各国でもなかなかに苦労している様子です。

逆に海外からの輸入キャラクターが日本名に変更されるケースについては、『Frozen』が『アナと雪の女王』に変更されたように作品タイトル名が変えられることは珍しくないものの、キャラクター名の変更の例はあまり多くありません※4
例を挙げるとすれば、『チキチキマシン猛レース』(1970年放送)で、Dick Dastardly(ディック・ダスタドリー)→ブラック魔王、Muttley(マトリー)→ケンケン、Professor Pat Pending(プロフェッサー・パット・ペンディング)→ドクターH、Penelope Pitstop(ペネロペ・ピットストップ)→ミルクちゃんといった具合にキャラクター名が変更されています。
マクドナルドのマスコットキャラクターであるRonald McDonald(ロナルド・マクドナルド)が、当時の日本人には発音し難いということから、ドナルド・マクドナルドに変更された例もあります。

これらの例は、原産国のお国柄的名称が、海外でローカライズされて現地に馴染みやすいものに変更されるケースですが、元々の原作で外国人的な名前が使われていたりするキャラクターの場合はどうでしょう。

ONE PIECE』ではルフィゾロなどの名前は海外でもそのまま使われています。
進撃の巨人』もタイトル名は『Attack on Titan』に変えられていますが、エレンミカサなどのキャラ名は変更されず、『NARUTO』の場合は和名ですが、漢字を使用せず、うずまきナルトうちはサスケなどのように音のみで表現されているため(春野サクラや綱手、自来也のように漢字のものもありますが、基本的に表音文字的表現でネーミングされています)、海外でも変更されていません。
これらは共通して人名っぽいものが使われていることもあり(『NARUTO』は人名っぽくないものも多いですが)、変更なしでも海外では問題が発生しないようです。
前述のように、最近では日本アニメや日本文化が海外で受け入れられているため、『葬送のフリーレン』も改名なしで放送されていますが、ひと昔前であれば、ドイツ語圏では改名されていたかもしれません。

葬送のフリーレン』や『ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風』の他にも、『ドラゴンボール』のフリーザやピッコロ、トランクス、『新機動戦記ガンダムW』のデュオ(二重奏)やトロワ(フランス語で3)にカトル(フランス語の4)などのように、外国語の人名ではない単語をそのまま用いてネーミングされているキャラクターの例が多くみられます。

なぜ日本では、このように安易に人名ではない外国語の単語を人名に使ってしまう例が多いのでしょうか、この点について、次回に考察をしてみたいと思います。

〈了〉


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※1 RPG『ウィザードリー』シリーズには、敵として武士が登場しており、ファミコン版『ウィザードリィI』には「サムライ」「マイナーダイミョウ」「メジャーダイミョウ」「チャンプサムライ」「ハタモト」という敵キャラが、『ウィザードリィII』には「サムライ」「ローニン」「ミフネ」という敵キャラが出てきます。

※2 『KNDハチャメチャ大作戦』のキャラクター名は、ナンバー1の本名がナイジェル・ウノ(スペイン語・イタリア語の1から)、ナンバー2の本名がホーギー・P・ギリガン・ジュニア(二世の意味から)、ナンバー4の本名がワラビー・ビートルズ(4人組から)、ナンバー5の本名がアビゲイル・リンカーン(アメリカの5ドル札に印刷されていることから)といったように、数字にまつわるファミリーネームがつけられています。

※3 アメリカのNBCでの放送時に、『鉄腕アトム』の名前が『ASTROBOY』に変更された理由を、「Atom」が英語圏ではオナラの俗語だからということが言われていますが、実はこれは真実ではないようです。
実は、DCコミックには、スーパーヒーローのアトムが活躍する『The ATOM』というコミックシリーズが1940年から存在しており、マガジン エンタープライズにも1946年から始まった『The Mighty Atom』が、チャールトン・コミックスにも1960年から始まった『Captain Atom』がありました。
いずれもAtom=原子というイメージを付与されたスーパーヒーローが活躍するコミック作品で、すでにAtomという名前がヒーローの名前としてよく使われていたことが伺えます。
『ASTROBOY』がアメリカで放送されていた同時期には、ハンナ・バーベラ・プロダクションのアニメ『Atom Ant(怪人アント)』(1965~1966)も放送された程ですから、Atom=オナラだから改名したというのは理屈に合いません。
では、なぜそんな話が日本で広まっているかというと、手塚治虫自身が各所でそう語っていたからです。
そもそもAtomがオナラの俗語というのも、どこにもソースがない眉唾な情報であることや、NBCでは、上記の作品との訴訟リスクを避けたいという事情があったことから、改名を手塚治虫に納得してもらうために、一芝居打ったのではないかという説が有力となっています。

※4 明治期に輸入された童話や小説は、日本語に翻訳されて出版される際に、登場人物の名前を日本人にも馴染みのあるものに変えることが行われていました。
例えば、坪内逍遥が1900年に『シンデレラ』を高等小学校の教科書用に翻訳・執筆した際には、シンデレラの名前を「おしん」に変え、タイトルを『おしん物語』としており、シンデレラの他にも、ガラスの靴→扇、魔法使いは→弁天といった具合に和風にアレンジされています。