『葬送のフリーレン』に見る外国語由来のネーミングの問題 中編 安易に外国語単語を人名にする理由
前回、『葬送のフリーレン』のキャラクターの名前が、ドイツ語の人名ではない単語で命名されており、日本の作品では、人名ではない外国語の単語を人名に使う例が多いのに、海外作品では、多少変なものはあるものの、基本的には人名には人名っぽいものを使うことが一般的で、日本語の人名ではない単語を使う例は少ないということをお話ししました。
今回は、なぜそうした違いが出てくるのかを考察してみたいと思います。
そもそもの話として、海外では、日本語由来の名前を付けるニーズが少ないので、海外での事例が少ないという見方もあるかも知れません。
『ONE PIECE』や『NARUTO』、『僕のヒーローアカデミア』など、一つの作品に登場するキャラクターが100人を超えるような作品がいくつも存在する日本とは異なり、海外の場合は『X-MEN』などの例外※1はあるものの、基本的には主人公のヒーロー、ヒロインがいて、仲間やサポート役が1~3人、レギュラーヴィランが数人、さらに登場が1回限りのゲストキャラや敵役といった構成のものが多いかと思われます。
つまり、登場キャラクターの絶対数の違いから、名前のバリエーション数量の必要性の違いが出てくるという考え方です。
単に名前の数量が必要というだけであれば、日本人の人名のバリエーションはかなり多いので、日本人的な人名だけでも良いようにも思われます。
しかし、日本の作品には、現実世界とは異なる異世界の物語が描かれることも多く、異世界なのに、佐藤一郎や山田太郎のような名前では、違和感が出てしまうという事情もあります。
そこで、異世界を舞台にするような作品では、敢えて日本人的な名前からより離れたものを付けるのが好まれました。
さらに、作家にとっては、自らが創出するキャラクターは唯一無二であった欲しいという心理がありますから、他のキャラクターと重複しないようなレアな名前を求める傾向も見られます。
初期においては、ギリシャ神話などの神話や伝承に出てくる神々や英雄の名前が多く使われ、それが品薄になってくると、英単語が使われ出します。さらにそれも新鮮さが薄れてくると、フランス語※2やドイツ語※3、イタリア語※4の単語といった感じで、理想のネーミングを求めて手を広げていった経緯があります。
日本語には、カタカナという表音文字があり、現在では主に外国語(外来語)を表記させることに使われています。
このため、どんな外国語であってもカタカナ表記にしておけば、それは外来語だと認識され、混乱なく文章内に取り入れることができる特徴があります。
この外来語の受け入れやすさや、舶来物=良いものという価値観が昭和の時代から受け継がれてきたものもあって、和名よりも洗練さや先進性を感じることから、昭和時代より商品名や企業名に、外来語やカタカナ表記が好まれる傾向が現在でもあります。
そのため、響きが良く意味的にも合致するような外国語(カタカナ語)をまとめた「ネーミング辞典」なるものが、数多く出版されています。
『葬送のフリーレン』をはじめ、日本人作家が安易に外国語単語を人名にしてしまう背景には、元々海外展開を考慮していないという面もあるものの、異世界を舞台にしたような作品では、和名以外の名前を使用する必要性があり、カタカナ語を使うにあたり、何らかの関連する意味合いを持った言葉を選びたいという事情があるようです。
次回に続く。
〈了〉
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※1 映画13作品に登場したミュータントだけでも100名弱いるそうで、原作コミックの方は200名を超えるミュータントが出てきます。
『X-MEN』以外でも、最近では、『アドベンチャー・タイム』や『スポンジ・ボブ』のように多数のキャラクターが、1回限りのゲストではない準レギュラー的に登場する作品が生まれてきています。
※2 フランス語は、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006~2008年)、『プリキュア』シリーズ(2007年の第4作のキュアルージュから)などの使用例が見られます。
※3 ドイツ語は、1990年代後半~2000年代頃に流行り出し、『新世紀エヴァンゲリオン』(アニメ・1995~1996年)、『Weiß kreuz』(メディアミックス作品・1997~1999年)、『無限のリヴァイアス』(アニメ・1999~2000年)、『NOIR』(アニメ・2001年)、『エルフェンリート』(マンガ、アニメ・2002~2005年)、『ef – a fairy tale of the two.』(ゲーム、アニメ・2006~2008年)『進撃の巨人』(マンガ・アニメ2009~2023年)といった作品などで人名や用語、タイトルとして使われる例が目立ちました。
『超重神グラヴィオンツヴァイ』(2004年)、『Fate/kaleid liner プリズマイリヤ ツヴァイ!』(2009年)などのように、シリーズ第2期を表すのに、ドイツ語の「ツヴァイ(2)」を使う例も見られました。
※4 イタリア語が人名や用語に使われる例としては、『家庭教師ヒットマンREBORN!』(マンガ・、アニメ・2004~2010年)や『アルカナ・ファミリア -La storia della Arcana Famiglia-』(ゲーム、アニメ・2011~2012年)といったイタリアンマフィアをモチーフにした作品が挙げられます。